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サッカーは誰もが楽しめ、挑戦できるスポーツだと思ってた

ボール1個あれば人種、国籍、男女問わずプレーできるスポーツだと思っていました。

突然訪れたチャンス

昨年2022年、僕たちが運営しているナイジェリアのクラブチームでイタリア遠征を計画し、大会に申し込み、VISA申請をしました。ところがナイジェリアにあるイタリア大使館とは連絡がつかず、知り合いの方などにサポートを依頼し、なんとか書類を提出することができました。しかし渡航直前に受け取った書類にはリジェクトと書かれており、査証拒否の理由が書いてありました。初のヨーロッパ遠征ということで、勝手がわからない部分もありましたが大会参加費用、滞在費、飛行機代などすでに支払っておりキャンセルできない状況でした。その時の様子と今までの活動のビデオになります↓

  • ビザが降りなかった

  • 費用が無駄になってしまった

  • 何より選手たちに挑戦する機会を作れなかった

ということから、経営メンバー含め選手、スタッフ全員が落胆しました。ナイジェリア人はどんな理由であってもイタリアには入国させない。と無言で言われたような感覚でもありました。

そんな落胆している中、昔の同僚(スペイン人)と世間話をしている時にスペインの国際的にも有名な大会を紹介してくれるという話になり、なんとかリベンジしたい、なんとか皆に挑戦できる機会を創出したいと思い、エントリーすることにしました。過去にはメッシやネイマールも出場し、2022年W杯には44名もの選手が過去にこの大会に出場していました。急遽デポジットを支払う手続きをし、なんとかU18カテゴリーの最後1枠を取得することができました。ナイジェリアのスラムで普段プレーしている選手たちがFCバルセロナ、マンチェスターユナイテッド、PSGなどの世界的に有名なクラブと試合ができる可能性が生まれた瞬間でした。

時間だけが進む日々

千載一遇のチャンスが訪れた日から、僕たちの課題は1つだけでした。スペインへ渡航するためのVISAを取得する。そのために毎日書類の作成など準備を進めました。18歳以下の選手なのでパスポートを持っていない選手もします。未成年なので保護者の同意書も必要です。パスポートを取得するだけでも数週間かかり、残された時間は1日1日減っていきます。なんとか全員分のパスポートが揃ったのは渡航の1ヶ月半前と想定よりかなり時間がかかってしまいました。
同時進行で進めていた大会運営会社とのやりとりはスムーズに進んでおり、選手・スタッフ登録、参加費用の支払い、召喚状など着々と大会に向けて準備を進めていました。一方パスポートが準備でき、VISAが申請できるという状態にあったにも関わらず様々な壁にぶち当たり、VISAの書類を提出するアポイントを取ることがなかなかできませんでした。最終的にアポイントが取れたのが出発の1ヶ月前でした。

お金がない、不正な選挙、混沌とする国内

渡航2ヶ月前、ナイジェリア国内は歓喜の声と落胆の声が入り混じって混乱していました。その日は大統領選があり、国民の多くが支持していたであろう期待の大統領候補が当選する予定でした。しかし投票はとても透明性があるものとは言えず、不正なお金の流れや、投票の書き換えなど散乱し、過去最低の投票率にもなりました。(投票に行く人を邪魔する流れも)そして結局、明るい未来を創造してくれそうな候補者は当選せず、昔からの権力にものを言わせた候補者が当選しました。なぜ、投票に行けない人が多く出たのか、それは昨年にまで話が遡り、政府の新札発行プロジェクトにより旧札が廃止されたものの新札の印刷が間に合わず国内に紙幣が全くないという状況になり交通費すら支払うことができないという状況に陥ったからです。もちろん街中ではスーパーで買い物ができない、給料の支払いができないなど、問題が相次ぎました。そして、僕たちにもその大きな問題が降り注ぎました。なんとVISA申請費用がナイジェリアの新札でないと受け付けないという壁に直面し、何度も銀行振り込みで対応してもらえないか、アメリカドルで支払わせてもらえないか交渉したものの、新札のみしか受け付けないという返答のみでした。

*政治関連に関してはあまり詳しくないので情報が異なる場合申し訳ございません (ニュースやSNSを参考にさせて頂いております)

1歩ずつ階段を登る音

VISA申請費用は新札のみしか受け付けない。このことがVISA書類提出のアポイントが取れない理由でした。選手•スタッフ全員分なので数万円ではなく、数十万円新札が必要です。現地に住む知り合いの日本人が3週間かけて約4,000円しか集められなかったという話を聞き絶望に感じていました。また違う友人はもう新札を手にいれることは諦め、銀行送金のみで生活していると、、そんな中数十万円を集めることは不可能だと感じました。そもそもナイジェリアには銀行が出しているレートの他にブラックマーケットと呼ばれている銀行のレートと倍くらい差のある高レートで取引がされていたということもあり、新札を手にいれるにはかなりレートの悪い取引をせざるおえない状況でした。正規ルートでは確保できないと確信していたので、ブラックマーケットや少し怪しい人にも聞き込みをしました。中には詐欺まがいの取引や、アメリカドルとの物々交換でしか取引しないなど、かなり怪しく危険な取引も多く、なかなか前に進むことができませんでした。しかし残された時間は減っていくばかりなので、なんとかして新札を集めなければなりません。最終手段として、まとまった金額の取引ではなくスラムの付近で小口の現金を集める作戦に変更しました。現地のスタッフたちが街で少額の現金を悪いレートで換金し始め、なんとか書類提出の12時間前に必要な金額を集めることができました。

確かな手応えと一筋の光

提出書類は前回のイタリアでの失敗を活かし、かなり正当性が高く信頼される書類を用意しました。もちろん一切の偽りもなく、世界的にも有名な国際大会からの公式インビテーションレターや綿密なスケジュール、保険の手続きなど全て完了していました。あとは新札問題のみ。そして、その問題も書類提出12時間前に解決され、選手•スタッフ全員で書類を提出に行きました。しかし、なかなか簡単には手続きが進まず、、コロナの影響を受け郵送で対応するから追加で費用が必要、用意した写真も既定通りのはずなのに撮り直しでさらに費用が追加され、僕たちが用意した新札が足りなくなりました。そして査証の受付時間帯も決まっており、その日は提出できないという連絡を受けたのですが、数分後1人のスタッフが融通を利かせてくれ、足りないお金は翌日で大丈夫、また追加で必要な書類も翌日提出で大丈夫と、素晴らしい対応をしてくれました。そのこともあり、なんとなく通りそうだな。という感覚がありました。ドキュメントは揃っている、新札も用意できた、スタッフもいい対応をしてくれ、今回は無事にVISAが降りるだろう。と思っていました。

国際大会への切符

先述した通り、この国際大会は世界的にも有名で、スーパースター達が勢揃い。誰もが知っているクラブチームや選手達が参加してきた大会ということでワクワクしていました。

選手登録やホテルの手配などもシステム上で管理され、スタッフともかなりの密度でコミュニケーションをとり、かなり洗練された国際大会です。
組み合わせ抽選会もYouTubeのライブで配信され、オリンピック•マルセイユ、レアル・ソシエダ、レアル・ベティス、セビージャなどヨーロッパトップレベルのクラブチームと同カテゴリーということが分かり、全クラブ倒してナイジェリア旋風を起こそうと意気込んでいました。

  • 組み合わせ

  • 試合のスケジュール

  • 宿泊先ホテル

が確定し、いよいよ大会がスタートする。あとはVISA取得の連絡を待つのみ。そして、悪い知らせは音もたてずに突然やってくる。


いきつけのお洒落なBAR

僕たちはカンボジアでもクラブを経営しているので、その日はカンボジアでオーナーと会う約束をしていた。前からオーナーも行きたいと言っていた日本人が経営するBARへ行った。ちょうどカンボジアで進めているスタジアム建設の土地を購入したばかりで、後に引き返せない状況だけど、たくさんの人を幸せにするプロジェクトで、これからの未来の話で盛り上がった。来月にはナイジェリアのクラブはスペイン遠征に行く予定で、残りはVISA取得のみ。と楽しくお酒を飲んでいた。普段はオリーブやチーズなど食べないオーナーもBARの雰囲気の良さや、最近世界No.1を受賞したジンの美味しさに釣られて苦手なオリーブでさえ美味しいと食べていた。普段から仲の良い仲間も一緒に飲んでいたので、とにかく楽しかった。オーナーは帰国の便があったので先に帰ることになり、僕は「またVISAの進捗アップデートします!」と明るく挨拶をした。(今回は本当に自信があったのでVISA取得できると確信していました)
オーナーが帰ってから、残っていたグラスのジンを飲みバーテンダーの人たちと少しだけ世間話をして僕も家に帰ることにした。BARから家までは徒歩5分なので、スペインでの大会でヨーロッパのビッククラブと試合することなど妄想しながら歩いて帰った。
その帰り道に1通のメッセージが届いた。

Bad News,
Very Bad

今までVISA申請を一緒にやってきた現地ナイジェリアのスタッフからのメッセージだった。僕は次の文章を見なくても何のことかわかった。ただ、もしかしたら1%違う話題かもしれない、、と思い家に戻り返信した。

拒否の理由は、滞在の目的及び条件の正当性に関して提出された情報が信頼できないものであった

通常であれば追加書類の要請や追加情報が必要だと連絡が来て、申請者側が追加の必要書類を提出できることが多い。しかし、今回は不許可のレターが届いただけだった。そして1回不許可になると1ヶ月間再申請はできないので事実上、僕たちは大会に出場できない。追加で何も聞かれることもなく申請のプロセスは終わった。本来であれば、本当に大会に行くのかなど大会運営側にも連絡すべきだし、僕らにもさらに信憑性を高める書類を提出してほしいなどのやり取りがあったはずなのに。それでもダメなら諦める。酷すぎる。涙もでなかった。

サッカーは誰のものか

サッカー少年少女だった人は誰しも夢中になってボールを追いかけていた時期があると思う。気がついたら夜になってしまい、ボールが見えなくなり灯りを探して遅くまでボールを蹴っている。翌朝も早起きをして、自転車に乗ってグランドに行きボールを蹴る。そして、自分がW杯の舞台で大勢の人から声援を受けプレーしていることを想像したと思う。もちろん、ほとんどの人はプロサッカー選手にはなれない。ごくごく一部の限られた努力を惜しまない選手しか生き残れない厳しい世界だ。でも、チャンスはあったはず。地域のトレセンがあったり、Jリーグを観戦に行く機会があったり、人によってはサッカー留学などした人もいるかもしれない。そんな中でフィジカル面やメンタル、努力ができなかったなどでプロサッカー選手になれなかった人も多くいると思う。
そんなチャンスを得ることもできない環境がある。毎日スラムで夢中になってボールを追いかけ、砂浜みたいな危険なグランドしかなく、スパイクの底なんかもちろんない。ボールも使い古したボールのみ。
大人達は本来子供達にチャンスを増やす努力をしていかないといけないと思う。今回みたいに未来を潰すような大人にはなりたくないし、そんな人が増えてほしくない。子供達がチャンスを掴むことができる、そんな世界にしたい。もちろん努力は彼ら彼女らがしなければならない。けれど、チャンスを提供する、機会を創造することが僕たち大人の役割だと思う。


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