ラスト一秒でひっくり返ったものとは何なのか?【映画 HELLO WORLD|ネタバレ考察】

前回の記事では「HELLO WORLD」の見どころや感想についてネタバレ無しで書きましたが、今回はガッツリ本編のネタバレありで、物語の本筋となるSF世界の構造について考察していきます。まだ本編未視聴な方はご注意ください!

HELLO WORLDを観終わって、ラスト1秒のあのシーンは何だったんだ?物語のつながり、各世界のつながりはなぜこんな複雑だったのか?疑問に思った人の答えになるような内容になっています。

HELLO WORLD考察【ネタバレ注意】

HELLO WORLD鑑賞済みの人に向けて記事を書いていくので、未視聴の人はわからないかもしれませんがご容赦ください。

まず基本となる、HELLO WORLD世界の三重構造については以下です。
以降記事は、ストーリーの順序通りの記述ではなく、SF解説がわかりやすいように書いていきます。

<三重の世界構造>
現実世界(2047年):研究者(大人)瑠璃と昏睡状態の直美
第一層データ世界(2037年):研究者(青年)ナオミと昏睡状態の瑠璃
第二層データ世界(2027年):高校生直美と事故前の瑠璃

直美の蘇生を目指す。現実世界の研究者瑠璃

まずラスト1秒のシーンから考えられる前提として、現実世界の瑠璃は、昏睡状態の直美の脳に、落雷を回避して生き延びた高校生の直美のデータを作り移植しようと考えます。

しかし、この脳のデータ作成と移植を行うときに起こり得る問題が3点あります。

単に高校生直美の記憶を移植しただけでは危ない3つの点

1点目は高校生の直美のデータを作り取り出せば、高校生直美はその世界から存在を消すことになり、その世界の高校生の瑠璃は悲しむ。または、本物語の主人公同様にデータを取り戻してしまい計画が失敗する。

2点目は、落雷を回避した高校生直美のデータが完成したとしても、本物語の主人公がグッドデザインで古本を再生していたように、違う記憶が直美に埋め込まれてしまい、目を覚ましても現実世界の瑠璃を受け入れられない。

3点目は、単に高校生までの直美の記憶を作っただけでは、現実世界で目覚めたときに実年齢と精神年齢とでギャップがあるので、瑠璃以前に現実を受け入れることができないかもしれない。

この3点の理由から、単に落雷を回避しただけの高校生直美のデータを作り出すことは、現実世界の昏睡状態の直美を目覚めさせる最善ではないと考えられます。

2つのデータ世界を作り、移植用の直美の記憶を作る。瑠璃の作戦

そこで現実世界の瑠璃は、現実とは逆に落雷を瑠璃が受けて、直美は生き残り研究者の道に進むというデータ世界(第一層)を作り上げます。

瑠璃が、現実世界で落雷を受けて昏睡状態になった直美を助けるために研究者になったのと同様、自分が愛した直美も同じ状況下なら同じ道を通ると予測して第一層データ世界を構築します。

または、そうなるように現実世界の瑠璃の経験(データ)を元に、瑠璃の部分を直美に置き換え、研究者の道に進むように様々なキッカケを仕掛けたのでしょう。

瑠璃の記録(第二層データ世界)を作るために現れたナオミ

第一層データ世界のナオミは、現実世界の瑠璃と同じように、昏睡状態の瑠璃を助けるため研究者の道に進みます。そして、事故を回避した瑠璃の記録を作るため、データ世界(第二層)構築を行います。

第二層データ世界の高校生直美は第一層データ世界から現れたナオミに助言をもらいながら、神の手(グッドデザイン)の訓練を行います。

第二層データ世界の直美は運営の妨害を回避しながらも無事落雷を回避し瑠璃を助けるが、データを第一層データ世界のナオミに奪われます。

直美は、奪われた瑠璃を取り戻しに第一層データ世界へ飛ぶ

第二層データ世界は瑠璃がいなくなったために、運営によるデータ修復が実行されます。第二層データ世界の直美は、瑠璃を取り戻しに第一層データ世界に向かいます。

飛び込んだデータ世界の狭間で八咫烏(現実世界の瑠璃のアバターか?)に出会い、第二層データ世界の直美は神の手を取り戻します。そして八咫烏の導きの元、第一層データ世界に移ります。

第一層データ世界では、第二層データ世界の瑠璃の記憶を移植した第一層データ世界の瑠璃が目覚めるが、自分の記憶の中の直美と目の前のナオミの違いに気づき、第一層データ世界のナオミを受け入れません。(この事象は、現実世界の瑠璃が予測済み。問題の2)

そこに第二層データ世界から直美が瑠璃を取り戻しに現れます。(この事象についても現実世界の瑠璃は予想済み。問題の1)

第一層データ世界のナオミは瑠璃の記憶復元に失敗したことで瑠璃の再生を諦めます。そして犯した罪を認め、第二層データ世界の直美と瑠璃を助ける行動を起こします。

瑠璃のデータ変換を行い、第二層データ世界に送り帰す

第二層データ世界の直美は瑠璃のデータ変換を行い第二層データ世界に移すことに成功します。しかし、そこに運営のデータ修復が襲いかかってきます。第一層データ世界のナオミはデータ破損の問題点が自分たち2人の存在である事(同じ人物が1つの世界に同時に存在する。)に気づき、自分が死ぬ事を決めます。

ナオミが死を決断した理由

ここで、第一層データ世界のナオミが死ぬ決断をした理由は4つあります。1つ目は、第一層データ世界の瑠璃の蘇生が失敗したこと。2つ目は、第二層データ世界の瑠璃に感謝されたことで、これまでの努力が報われたこと。3つ目は、第二層データ世界の直美(ある種自分の分身)と瑠璃だけでもせめて幸せになってほしいという願いと、犯した罪の償い。4つ目は、第二層データ世界の瑠璃を悲しませないために、第二層データ世界の直美を必ず送り返さなければという意思です。

しかし、第二層データ世界の直美は第一層データ世界のナオミを死なせる決断はできません。やはり主人公、全てを助けようと頑張ります。

直美を助けるためにナオミは死ぬ

この、第一層データ世界のナオミが死ぬ事を、第二層データ世界の直美が拒否する事態については、第一層データ世界のナオミも現実世界の瑠璃も前からわかっています。しかし、目の前に力の及ばない敵が現れた状況で2人の直美(ナオミ)がいた場合、次に取られる行動(第一層データ世界のナオミが盾になり死ぬ)は容易に予想できるでしょう。

予想通りと言うべきか、結果として第一層データ世界のナオミは(幸せそうに)死に、第二層データ世界の直美は第二層データ世界に帰ることができました。(第一層データ世界で運営のデータ修復が襲いかかることと、第二層データ世界の直美が瑠璃を取り戻しに来る事態は、現実世界の瑠璃は予測済み。問題の1)

第二層データ世界の直美と瑠璃は無事に再開することができ、第二層データ世界めでたしめでたし。

ナオミは実は死んでなかった

さて、第一層データ世界のナオミは盾になり運営のデータ修復で死んだのだが、実は死んだのでは無く記憶を抜き取られただけでした。

データ世界では、データが損失する=死ぬということです。つまり死はデータが抜き取られて別空間に移されることとも言えます。(例えばPC上でデータ消去する作業は、ゴミ箱フォルダに一旦データを移し、その後消去している感じ。物語上ではフォルダ移動だけで消去はしていない。)

データ世界で、ナオミが死ぬことによって現実世界にデータが取り出すことができました。または死ぬ(=運営のデータ修復による消去作業)ことが実行される直前にデータが回収された可能性もあります。

どちらにせよこれで、第一層データ世界のナオミのデータ(記憶)は現実世界に持ち出され、現実世界で昏睡状態の直美の脳に移植され生き返ることに成功しました。現実世界もめでたしめでたし。

第一層データ世界のナオミの記憶が必要だったワケ

現実世界の直美の脳に移植された、第一層データ世界のナオミのデータですが、こんな複雑なデータ構築にした重要な理由が4点あります。

1つ目は、高校生までの記憶の作成ではなく、大人までのデータ(記憶)であること。長い眠りから目が覚めても、記憶は大人なので現実を受け入れやすいし、現実世界の成長した自分の体とのギャップが少ない。

2つ目は、第一層データ世界の瑠璃を失った(蘇生の失敗)ことによる諦めと、第二層データ世界の瑠璃の言葉に助けられたことで、データ世界に対する未練がない。

3つ目は、第二層データ世界に存在していたころ、ナオミは昏睡状態の瑠璃を助けるため研究者になっていたので、現実世界の瑠璃(研究者)に共感できる。

4つ目は、通常なら昏睡状態から目覚めた場合、眠っている間の人生経験がないから辛くなると思われるが、第一層データ世界で自分が研究者になって瑠璃を救おうとした記憶があるため、眠ってる間の経験を補間できる。

現実世界の瑠璃の巧妙な作戦

ここまでの、直美復活作戦とも言うべき流れの組み立てを、現実世界の研究者瑠璃は行なっていたのです。そしてスクリーンを前にして、この物語を楽しんでいた観客である僕たちは一切それに気付くことはありませんでした。

見終わった瞬間は、最後の1秒間でひっくり返される?こんなのただの蛇足じゃないか…とか少し思いましたが、それは単に自分の思慮が浅かっただけだと時間が経つにつれ気づきました。

HELLO WORLDの楽しみ方

複雑だけれども、正確に組み立てられたこの物語の流れを理解したとき、HELLO WORLD はもっと楽しめると思います。

1度目はフラットな気持ちで楽しんで、2度目は全体構造の流れを理解して。3度目はナオミと現実世界の瑠璃の気持ちを重ねて観るといいかもしれません。

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