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絆を強くする三つの要素

「あなたは何によって憶えられたいのか?」
ドラッカーが名著『非営利組織の経営』における問いかけは、私たちが商いを深めていく上でも大きな示唆を与えてくれる言葉です。

あなたは、お客さまに何によって憶えられたいのでしょうか? 一つの商品を通じて、それを明確に発信している店に古都・奈良で出合ったときの話です。

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大仏であまりにも有名な東大寺ほど近く、目に鮮やかな黄色い暖簾がその店を教えてくれます。1954年創業、三代続く菓匠「千壽庵吉宗」です。店頭には同店の看板商品、生わらび餅が大量陳列され、「違いがわかるあなたに食べて欲しい」と伝えています。

店内正面ショーケース、壁面と要所要所にわらび餅が陳列され、来店客に訴えかけてきます。価格はもちろん、中身、日持ちなど、お客様が“何となく気になっているけれど、なかなか言葉になりにくい疑問”の一つひとつに丁寧に答えてくれているのです。
 

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そこには、店主の山本徹也さん、隆子さんご夫妻のわらび餅に対する誇りと、何によって憶えられたいのかという意志を感じます。天日干しした自然の甘藷でんぷんと国産の本わらび粉という素材選びに始まり、半日にわたる練り上げと、やはり半日の寝かせるという手間と時間をかけた菓子づくりへのこだわりがあるからこそ、その意志は強固です。 
 
お客様に繰り返し愛顧いただき、「この店は私のことを大切にしてくれている」と思っていただくために、私は次の3点が重要だと考えています。

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第1に、志。
自店が何のために存在し、商いを通して誰を、何によって、どのように幸せにしていきたいと考えているのか――それが“選ばれたいお客様”に明確に伝わる言葉として掲げられ、その言葉を実践しているという「在り方」が出発点です。
 
第2に、最高の品質。
単にモノを提供すれば売れる時代はとうに過ぎており、そこにコトやモノガタリが必要な時代です。しかし、だからこそ私たちは商品の品質を高め続ける努力から逃げてはなりません。どれほどの志、コトやモノガタリがあろうと、それを具現化する商品に嘘やごまかしがあるとき、お客様はその闇を的確に見抜きます。

たとえば、千壽庵吉宗で期間限定販売されている「純本生わらび餅」。わらび粉100%、価格は通常商品の3倍強という“わらび餅の頂き”を示すことで、同店の品質へのこだわり、技術力の高さを商品として具現化しています。
 
第3に、絆を育む場。
ほとんどの商品がインターネットで購入できる時代だからこそ、店とお客さまが人と人として時間と場所を共にする店の役割が重要性を増しています。そこで交わされるひと言、ふた言、接客時の細やかな心遣いには、人を「今日も生きていてよかった」「明日も頑張ろう」と思わせる力があることを私たちは忘れてはなりません。

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たとえば、千壽庵吉宗のもう一つの魅力はかき氷。店に足を運び、目の前で丁寧につくられるかき氷を口にするとき、お客様はその場にいる喜びを五感を通して味わうことができます。また、一つひとつの小さな工夫が絆を固くしていきます。小さな工夫の積み重ねこそ、繁盛の礎なのです。
 
最高の品質を追求するのがご主人の山本哲也さん。絆を育む場を育て、志と品質を伝えるのが奥様の隆子さん。隆子さんはご自身が「わらびもちこ」というキャラクターになって、選ばれる理由を伝えています。お二人それぞれの役割が両輪となって、ますますご繁盛の道を進まれることでしょう。

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ほんのわずかな滞在でしたが、多くのことを教えていただきました。またあらためてお話をうかがいたいと思う商人に出会った奈良でした。

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