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できないとは言わないのがプロ

あなたがいま身につけている衣料品はどの国でつくられたものでしょうか? 「日本製」と答える人はわずかであり、ほとんどが「そんなこと、気にしたこともない」というところかもしれません。いま、日本の衣料品が危機にあります。
 
近年の消費経済の歴史は“ファスト化”の歴史でもありました。食品はファストフードに、衣料品はファストファッションになることで、多くの生活者が低価格化という恩恵を受けました。

しかし、ファスト化の裏側には未来に禍根を残す“不都合な真実”があります。それは未来への大きな犠牲の下にある現在の便利さなのです。

一つは大量廃棄。
中小企業基盤整備機構の資料によると、日本の衣料品の廃棄は年間約100万トン、衣服の枚数に換算すると約33億着にのぼります。それほどまでに衣料品は短命であり、中には一度も身につけられることなく廃棄されるものも少なくありません。

もう一つは製造現場の疲弊。
冒頭の質問を思い出してください。経済産業省の調査によると現在、衣料品の海外生産比率はうなぎ登り、かたや繊維産業の国内事業所数は激減しています。3%――これが日本でメイドインジャパンに出合える確率です。

いま日本から急速にものづくりの技術と担い手が失われています。「そうしたローテク技術は海外に任せればいい」と考える人もいるでしょう。しかし、そうした海外の製造現場では劣悪な労働環境のなかで低賃金で働く人がいることを忘れてはなりません。

真の商人は、誰かの不幸の上に成り立つ豊かさに加担してはなりません。そして、それらの衣料品が着られることなく廃棄される社会の未来は明るいものでありません。品質の良いものを長く使うというかつてのライフスタイルを取り戻すべきときです。

広島県府中市で出合った店には、いまや希少種となった良いものをつくる技術を持ったプロフェッショナルがいました。オリジナルのデニム製品を製造販売する「ジーンズ企画工房」の安田勝司さん、明雄さん親子です。

紳士服の仕立て職人として腕を磨いてきた勝司さんが見せてくれたのが、手づくりの湾曲した定規の数々。それらを駆使して起こす型紙は、身につける者に最高の着心地と型崩れしない耐久性を約束してくれます。

「『できない』とは言わないのがプロ。それが私の職人としての信念」と勝司さん。そうした確かな技術でつくられる商品を、明雄さんがその価値を伝えるために努力する姿に、ものづくりのまちと言われる府中の底力を見た思いです。

「一度身につけるとその着心地に魅了され、リピートされるお客様が多いですね」と明雄さん。デニムを生かしたオリジナル商品を丁寧につくる工房には、熟練の職人さんたちが奏でるミシン音が規則正しく聞こえていました。


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