弟が死んだ日
私が新社会人になって3ヶ月目。
私が順調に社会の闇を経験して死にたくなっている頃、
弟は、本当に死んでしまった。
その日、弟は、バイトに行くと出て行ったきり帰って来ず、3日間行方不明になったのち、崖の下で発見された。
20年という長くも短い人生に、幕を下ろした。
私と弟は2つ違いで、私を挟んで、さらに2つ違いの姉がいる。女2人、男1人の3人兄弟。
弟は、1番上の姉は『大きいねぇねぇ』、私のことは『小さいねぇねぇ』と呼ぶように親からしつけられていたが、次第に呼び方が変化し、『ちっちゃいねぇねぇ』→『ちっちゃい』と最後は呼んでいた。
私もこの呼ばれ方に慣れ始めてしまって違和感がなかったが、他人の前でも『ちっちゃい』なんて言って大声で呼ぶもんだから友達に驚かれた。
自分ではあまり感じなかったが、周りからは「兄弟、仲良いね」とよく言われていた。小さい頃は団子のようにくっついて、よく戯れあっていたから、『だんご3兄弟』なんて親に呼ばれていた。
私の家は、そんな3兄弟と両親が暮らしている5人家族。しかし、父は私が小学校低学年の時ぐらいから単身赴任で年末年始とお盆以外は会えず、ほとんどは4人で暮らしていたようなものだった。
女3人の中に男1人という、弟にとってはなんとも生活しづらい環境だったと思う。弟もよく「この家には女どもしかおらん」と顔をクシャッとして憎らしげに言っていたものだ。
そんなどこにでもいる、普通の家族。
そんな日常がずっと続くのだと思っていた。
突然、いなくなってしまった弟。
どうしていなくなってしまったのか、
最後に何を思っていたのか、
自殺したのか、事故なのか、
その日から、私の灰色の一週間が始まった。