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アメリカのイラストレーション年鑑について その1

そろそろSociety of Illustratorsが年鑑への応募を呼びかける時期(Call for Entries)になってきましたので、アメリカのイラストレーション年鑑について書いてみたいと思います。昔ブログに少し書いていた内容と被る部分もあると思いますが参考になれば幸いです。

このネットの時代に、紙媒体であるイラストレーション年鑑がどのくらい有効なのか、というのは最近よく考えることではあります。自分自身もそろそろ応募するのやめようかと迷っているくらいです。今年はどうしようか…。

実際のところ、いまさら応募しない人も多いと思います。ただ、若い人の中でまだ応募する人も確実にいるようですので、全く無意味ということはないでしょう。

アメリカの年鑑なので、毎年継続して載っていると、アメリカのイラストレーターのコミュニティではそれなりに認知されることになると思います。

そして、ある意味ではニューヨークで認知されれば、世界で認知されるも同然なのです。僕がずっとやってきたのはこれです。

Behanceなどネットに自分の作品を公開して世界に向けて発信するのも当然良いのですが、とりあえずニューヨーク(もしくはアメリカ)だけに集中して知名度を上げるというのはとても効果的な気がしています。世界中の才能あるイラストレーターがエントリーして来ますので、自分がいつも入選していると、自然と他の国の常連イラストレーターともお互いに一目置く存在同士になります。

年鑑コンペティションで代表的なものとしては、Society of IllustratorsのILLUSTRATORS、Communication ArtsのIllustration Annual、それからAmerican Illustrationなどがあります。最近はSF、ファンタジー、コンセプトアート系のSpectrumに人気が集まって来ているいるようです。

それぞれ持ち味のようなものがあって、Society of IllustratorsのILLUSTRATORSは最も歴史が長く作品の収録点数も一番多い年鑑です。幅広い分野の優れたイラストレーションを満遍なく掲載している印象です。部門ごとにその年の優秀作品には金メダルと銀メダルが贈られることになってます。毎回数千点集まる応募総数の一割くらいが入選するという感じでしょうか。

このILLUSTRATORSだけは、Society of Illustratorsのギャラリーにて入選作品の展示があり、それにあわせて額装した原画を送る必要があります。正直なところ、入選したりメダルを貰ったりするのはとても嬉しいのですが、この原画を送るのが面倒なので、いつもエントリーするべきか迷います。毎年10月に応募〆切があります。

Communication ArtsのIllustration年鑑は僕の印象では、選ばれる作品が比較的オーソドックス、伝統的になる傾向があって、ベテランの作品も多く掲載されています。ただし応募総数に対して入選する点数が少ないので、この年鑑に載ることはなかなか難しい。僕も何度も落ち続けました。1ページにつきイラストが4点程度で、絵が小さいし、今となってはどのくらい効果があるのか不明なのでここ数年エントリーしていません。毎年1月が応募〆切です。

American Illustrationは他の年鑑に比べて最もとんがってエッジの効いた作品を多く選ぶ傾向があります。入選作品は本としての年鑑に掲載されるselected、ウェッブサイトへの掲載のみのchosenという二段階制になっています。つい最近刊行された37号では、応募総数8,000点以上の中Selectedが367点となっています。応募数を見てもわかるように、後述のSpectrumを除いてはアメリカで最も人気と影響力のある年鑑と言えるのではないでしょうか。北米での仕事、もしくは北米にレップのいるイラストレーターしか応募することができないにもかかわらずです。他の年鑑が1ページに複数の作品を掲載する、つまり一点ごとのサイズが小さくなってしまうのに対して、American Illustrationは創刊からずっと1ページ1点を守っているハードカバーの豪華な年鑑(いわゆる立つ年鑑)です。入選して原画を送る必要もないので、最近はもうこれだけでいいかなと思っているところです。毎年2月が応募〆切。

Spectrumに関しては、僕は自分の作風やテイストと合っているとも思えないので、エントリーしたことは無く、詳しく知りません。コンセプトアートをやっている人たちが多くエントリーしている印象です。ただ、実際は作風に関係なく、特にファンタージー系でもコンセプトアートでもない、いうなれば僕のようなタイプのイラストレーターも応募しているようです。Victo Ngaiさんなどは常連ですし、審査員もされたようなので、実は現在最も有効な年鑑なのかもしれません。

これらのどの年鑑も、毎年プロが少なからぬ応募料を払って応募し、その年の自分の仕事に対する評価を問うものであって、新人のための登竜門的なものではないのが日本のコンペと違うところです。公正を期すために審査員パネルも毎年変わるし、Society of Illustratorsの場合では会員だけが審査をするのではなく、外側の審査員を多く招いてパネルを構成しています。

つづく

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