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日本の朝ごはんは働く母親を苦しめているのか?

朝ごはんを作っていて、ふと思い出した。
昔通っていた英会話スクールで、「台湾の働く母親は恵まれている。なぜなら台湾人の多くが屋台で朝ごはんを食べるので朝ごはんを作らなくても良いから」と発言した人がいた。聞いた当時はピンとこなかったが、不思議とこの一言が記憶の隅に残った。

台湾人のほとんどの人が「朝ごはんは、会社についてから勤務時間中に食べる⁉」ってほんと!?

それから出産し、子育てをしながら働き続けた時代を経て、気づけばとてもインドアな主婦となった今、改めてこの発言を思い出してみると、なるほどと頷けるところもある。

そこで、今回は「日本の朝ごはんは働く母親を苦しめているのか?」について考えてみた。

日本の朝ごはん事情

そもそも、日本の家庭の朝ごはんはどんなものか。と考えても、日本は世界でも珍しいくらい様々な料理を食べる国。これは、日本には食事や食材について宗教的なタブーが無いことも影響しているとの説がある。とにかく朝ごはんに特に決まったスタイルはない。コーンフレークだけの人もいれば、朝は一汁三菜でないと元気が出ない、という人もいる。人によっては外食するより楽チンで安くすむかもしれない。

でもそれは朝ごはんだけを見た話。家事はまだ終わらない。シンプルなシリアルだけの朝ごはんでも、その後シリアルボウルとスプーンを洗わなければならない。「そのくらいで…」と眉をひそめる方もいるだろうが、洗っていない食器をシンクに積み上げて仕事に向かい、夕方疲れて帰ってきて、大急ぎで家族のために晩ごはんを作る。洗うべき皿はさらに積み上がっていく。皿一枚程度の薄くて軽いストレスでも、それが家族の人数分、毎日積み上がっていくのだ。一汁三菜ならその何倍もある。これを近所の屋台でチャラにできるなら、安いもののようにも思う。

しかし残念ながら日本にはそんな手軽な屋台は無い。なので皿は毎朝積み上がる。どうしたら良いか?

フランスでは冷凍食品を活用

台湾よりも遠い国、ヨーロッパのフランスを見てみよう。

フランスは母親の就業率が高く、しかも出生率を回復させたことでも知られる。少子高齢化を爆進し、母親のワンオペ育児の支援が一向に進まない日本とは正反対だ。共働きの多いフランスの朝ごはんは、コーヒーとクロワッサンやバゲット、というシンプルなもの。作るとしても日持ちのするものを作り置きし、平日は手の混んだ料理はしないらしい。

また、家庭の食事に冷凍食品が大いに活用されているとのこと。日本にも進出している冷凍食品専門のフランスのスーパーマーケット・ピカールに行ったことがあるが、日本の冷凍食品とはだいぶコンセプトの違う商品が並んでいた。日本では「レンジでチンするだけ」という手軽さが人気の冷凍食品だが、フランスではオーブンでひと手間かけるのが主流らしい。例えばピカールではクロワッサンが人気だが、焼く前の生地を丸めた状態で冷凍されていて、家庭のオーブンで焼き上げるというひと手間によって、焼き立てクロワッサンを朝食に出せるようになっている。フランスでは朝だけではなく、晩ごはんでも冷凍食品は大活躍。とても合理的で、そこに罪悪感は無さそうだ。そのへんのことは下記のコウケンテツさんのエッセイがとてもわかりやすく紹介している。

日本の家庭料理はハイスペックすぎる。世界の食卓は意外と質素

罪悪感との間で悩む日本のお母さん

ワンオペ育児と家事を一人で丸抱えし、子育てしながらキャリアも追い求めることへの罪悪感と不安を胸に秘めながら働く日本のお母さん。せめて朝ごはんくらい楽して何が悪い。日本の家庭料理のハードルの高さは上記のコウケンテツさんも指摘されている。フランスのように共働きが増えているのに、冷凍食品は日本ではまだ代用品や一品追加したい時のオプション程度の使い方が多く、毎度の食事のメインとして出されるほどではない。この「家庭の食事は母が手作りするべき」という根強い考えと、栄養バランスなど家庭の料理に期待される様々な要素が、料理で楽することへの罪悪感を生んでいるのだと私は思う。この罪悪感に関するデータや背景についてはこちらの記事で詳しく扱っているが、そこに目をつけたのが「ミールキット」「お料理セット」などの下ごしらえ済みの食材セットである。

納得!「料理キット」が売れ続ける根本理由
別に手抜きがしたいワケじゃない

私もたまに使っているが、食材はすべてカット済み、味付け用のソースなどが付いてきて、野菜が多く、手軽にできたての料理を作れる。忙しい日にはとてもありがたい。自分で作りたいけど時間が無い、体力が無い人には待望の商品だろう。皿は積み上がってしまうが、罪悪感が薄れ、余った野菜を腐らせる心配もなく、時短かつ手作りである。
どうですかそこのお父さん。これなら誰にでもできると思わないかい?このセットなら子供でも簡単に作れるよ。

「母たるもの」「妻たるもの」のあるべき姿、生き方への根強い考えは、男女雇用機会均等法がずいぶん前に施行され、男女が共に働く現代においてもなおこの国に残り続けている。何か良い解決策は無いのか?

世界から見た日本の男女平等

下記のリンクには、日本の男女平等が世界と比べてどの程度かを示している。日本は110位。ご近所の中国よりも低く、明らかに遅れている。

ジェンダーギャップ指数2018、日本は110位でG7最下位「日本は男女平等が進んでいない」

これを聞いて違和感を感じる人もいる思うが、指標を細かく見れば納得するだろう。日本は健康や教育ではかなりハイスコアだが、経済と政治の分野ではいずれも100位以下。私は日本では男女が共に働く、と先に述べたが、女性は出産や介護を機に一度仕事を離れてしまうと正社員での再就職が難しかったり、会社に残って頑張っても上級管理職まで進める人は今もまだ少ない。政治の世界では言わずもがなである。こっちは日本版パリテ法と呼ばれる候補者男女均等法が始まったものの、義務ではないし、先の内閣の顔ぶれはほぼおじさんとおじいさん。先は長そうだ。

政治と経済はまだ女性に冷たい?

政治の世界に家事、育児経験者が増えないと、家事の分担も、育休も在宅勤務も再就職のしやすさも、運と職場に恵まれた人にしか得られない贅沢なもののままだ。企業の管理職に女性が増えないと女性のライフスタイルに合わせたキャリア形成も本気で取り組んでもらえないだろう。経団連の会長に女性が選ばれる日なんて何百年先なんだ?とさえ感じる。この中で、朝ごはんの負担、皿一枚のストレスに共感するリーダーがどれほどいるのだろう。
働く母親を苦しめているのは料理そのものではないのだ。

リーダーに期待できないのだから、働くお母さん達はもっと楽して良いのではないか。ご飯より大事なことはごきげんな家族の日常であり、栄養はどこかで帳尻合わせれば良い。コウケンテツさんのエッセイに出てきたフランスのマダムは栄養バランスを気にするコウさんにこう返している。

「家で料理を作ってばかりだとわたし自身が輝かないじゃない。わたしが輝いてこそ家族が輝くのよ!」


ここまで言わずとも、親がごきげんであることはとても大事だ。食べ物の栄養はもちろん大事だが、心の栄養も同じかそれ以上に大切である。眉間にしわ寄せてため息をつきながら作られた手の込んだ料理と、お母さんが笑いながらミールキットで10分ほどで作った料理、どちらが子供の心に良い影響があるか想像するのは簡単だ。時短した分、子供と丁寧に向き合うこともできる。

「その分朝早く起きて眉間にしわを作らず笑顔で豊かな料理を作れば良いのだ。嫁の力が足りない」などと仰る人がいたら、ぜひ朝昼晩の料理だけでも1ヶ月ほど交代してみてください。
もちろん、常に笑顔でお願いします。

:D

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