今日はディスコードにいます。
友人が不機嫌である。
ゲームをする友人を集めたグループチャットに誘いを投げかけたにもかかわらず、誰もリアクションを返して来なかったのが事の発端だった。
「ROM専ばっかで流石に悲しくなりますよ」
まぁ、たしかにそうだ。私も時々募集をかけるけれど、リアクションはまちまちである。
試しに過去のやり取りに検索をかけてみたら三日間も私が「ディスコードにいる」としか行っていない日もあった。やはりノーリアクション。ロム専ばかりというのも確かにそうである。
ただ、とりあえずディスコードに潜んでおけば、日をまたぐ少し前くらいには誰かしら来る傾向にある。来ないこともあるけれど、それはそれだ。
私もリアクションがないのは寂しい。特に問いかけにリアクションがないのは確かに寂しい。でも「いけない」「今は、無理」とかだけが淡々と続いてしまう日は、誘っている方も答えている方も憂鬱になる。
何度か心をポキポキ折りながら最終的に「今日はディスコードいるわ」と、居ることだけ言うのが楽だというところに落ち着いた。そして、一人でゲームをする。公園で待つみたいに、ディスコードに潜る。
どこもかしこもグループチャットは反応が悪い。悪いというか、みんなあんまり私に興味がないのか、いくつかのグループチャットは私が最後で終わっている。
そもそも誰かと話したければ個別に話せるし、グループに流すのは「お知らせ」と「興味ある人の稀なリアクション」だけだ。返信をしなくてはと気負うようになれば、浮上しにくくなってくるし「前回あの人にリアクションしたのに、この人にはしなかった」という事実は、更に返信しにくくなる。コミュニケーションツールにおいてコミュニケーションがしにくい要素がめちゃくちゃ多い。
しかし、いくらかやって分かったことは「私はいるぞ」というお知らせだけは、グループチャットにレスポンスがなくても、ディスコードに来る人がまぁまぁいるということだ。
呼びかけたのが20時くらいで、来たのが22時くらい。
ピロン、と人が入ってきた音がする。
「よう」
イカがインクでびしゃびしゃになるゲームをしながら、私が声をかける。
「まだいたのか」
遊びに来た友人が言う。まるで閑散とした公園のベンチで一人座っているのを見つけられた気分である。
「いるよ、一人寂しく。なにかする?」
「なんでもいいよ」
「じゃあ、スプラトゥーンで」
結局、日を跨ぐまで二人でゲームをしていた。私は、こういうのが好きだ。12時過ぎまで誰も来なくて、まぁ寝るかとなる日もあるけれど。1時を過ぎた頃に、二人三人と集まってきて「いや、寝ろよ」なんて、笑う日もある。
誰もいないけど、誰かいるかもしれない。というかそもそも基本誰もいないから、私が最初の一人になる。
たまに、一度ゲームから抜けた後寝る前にディスコードを覗くことがある。
「まだやってるわ」
この2人は、きっとスマブラでもしているのだろう。後日聞いたところ、かなり夜更けまで戦っていたらしい。
夜、もうだいぶ遅いけれど、とりあえず呼びかける。
「ディスコードにいるわ」
……返信はない。返信はないけれど、私はいる。誰か来るかもしれないし、来ないかもしれない。それは待つだけ損かもしれないけれど、ちょっとドキドキする。誰か来るかもしれないという期待。あと、たまにアプリが不具合を起こして、誰か入ってきた音がしたかと思ったら、自分の再接続の音だったとか、ちょっとしょんぼりする。でも、嫌な時間ではない。
不機嫌な彼が来るまでも、果たしてまた会えるかどうかとても緊張した。でも、私はまだ彼のガオガエンを倒していない。彼が来るまでコンピューターを相手に練習する。
ピロンと、誰かのくる音がして、彼が来たとき、嬉しかった。ただ、まぁ、無視した張本人が嬉しそうに待っていたのは、癇に障るところだったかもしれない。
私達は口数も少なく、スマブラを始めた。
30体ほど私の残基が犠牲になった頃、段々と人が集まってくる。ディスコードがザワザワにぎやかになってきた。
集まったメンバーが5人になったとき、彼が言った。
「俺、いなくてもよかったんじゃないの?」
「いや、そんなことないよ。お前がいなかったら誰も来なかったよ」
彼はあまり腑に落ちていないようだった。でも、彼が来なければこんなに人は集まらなかった。私は彼を待っていた。だから、ディスコードにいた。
別に部屋を立てたらどうせ誰か来ただろうと、彼は言うかもしれないけれど、彼がいなかったら私は今日部屋を立てることはなかったんだから、人が集まることもなかったはずだ。
こんな理論を正面から話したら、きっと理路整然とした反論があることだろう。でも、彼がいたからみんな来たのだ。
なにかしたりしなかったり、毎日に近い頻度でなにかする、参加は自由。
気楽でいい。私は引き続きロム専でいるだろうし、なにか喋っても適当な会話を少しと、残りはディスコードにいます宣言しかしないBotとして過ごすひが続くだろう。そして彼もまた、なんかしようと誘ってくるだろうし、静まり返るグループチャット憤る日もあるのかもしれない。……できるだけ言葉は返そうと思うけれど、重荷になるのは彼の本位でもないはずだ。
それに、またそのときは、部屋を立てて彼を待つ。次はもう来ないかもしれないけれど、そうでなくても誰も来ない日はある。だから私は気楽に「ディスコードにいる」と宣言して、部屋で一人、コントローラーを握る。
ガオガエンには、まだ勝てていない。
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