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英語の歌をうたいたい

英語を勉強している。

同僚からテキストを借りたので読み進めていくと、だんだん英語の輪郭がわかるようになってきた。今読んでいるのは、英語の教え方のテキストだ。

そもそも英語を理解をしていないのに、教え方について学んでいるのは順序があべこべな気がする。しかし、教え方の種類や、メリット、デメリット、また教え方についての変遷や議論されている部分も含めて、学ぶのは楽しい。

例えば、フォニックスという英語の読みの覚え方がある。これは、アルファベットに発音を対応させていく方式だ。日本語の「あいうえお」と同様に英語の「ABC」にもそれぞれ音があるので、それに沿って読む。ただ、この読み方は「Eight」などの例外があることも理解しながら進めなくてはならない。

「E」が「エ」はまだしも「ight」で「ィト」と読むのは無理があると思う。しかし、この「ight」はたくさん出てくる。

……わかった。じゃあ、そう読もう。

そんな具合で、初めて見たスペルでもゆっくりと発音を掴むことができる。

bookにはbとkの間に、音があるのだ。ちっちゃい「ツ」とか、詰まる音ではなくて、bookの「oo」は「ʊ」だ。「う」だか「お」だかよくわからない音がある。詰まる音とか、一泊置くとか促音と呼ばれるものではない、全く別の音が隠れていた。

私は道端で拾った石を手の中で転がすみたいに何度も何度も「book」「book」と繰り返した。小さな「う」だか「お」だかわからないやつが確かにそこにいる。その存在を確かめた。

「book、うん。いる。book。あぁ。そうか」

私はなんだか一つ、賢くなった気がした。

これまでずっと見えなかったものが、一つ見えるようになった。昨日までのbookと今のbookはぜんぜん違う。

bの音も、ooの音も、kの音もわかる。この区分けにもさらに名前が付いているらしい。

一つ読み方がわかると、ほかの単語も読めるようになってきた。

例えばCauseという単語も「ククク、クァクァ、クァウ、クァウス、クァウズ……?」前から、一文字ずつ順に、文字と音を当てていく。

Causeの出てくる洋楽は多いので、発音を参考にしながらフリガナ無しで単語を読めるようになるのが今の目標だ。ゆっくりなら、だんだん音を口から出せるようになってきたが、まだうまく歌うことはできない。

音楽が流れていない状態で、うなりながら一文字ずつ追いかける事はできる。つまりながら、ゆっくり段を登る。

一段。一段二段。一段二段三段。

k,kkk,ku,kua.

助走をつけるみたいに、最初の一文字を繰り返す。二文字目、三文字目と、順を追って読む。あぁ、読めそうだ。

「pa,pass,passio,passion……。えっ!? パッションか!」

ちょっと背が伸びた親戚の子に会ったおじさんみたいなリアクションになってしまう。発音がわかったあとで、声に出してみたときようやく知っている言葉だと気がついたときは、その言葉に散々触れてきたことを思い出し、全然気が付かなかった自分が恥ずかしくて、情けなくて笑うしかない。

でも、ちょっとできそうな気がする。ただ、いざ歌ってみると、全然追いつけなくてやっぱり笑う。

でも、大学生くらいの頃は、気に入った歌にちょっと英語が混ざっていても全然気にせず歌っていた。英語は何度も勉強しようと思っては、適度に理解して諦めてきたけれど、これまでの経験と挫折が「まぁ別に大丈夫でしょ」と適当に私を勇気づける。

こうして、どう読めば良いのかもさっぱりわからなかった文字に、音を当てはめられるようになった。だから、少なくとも最初の一文字目から手を付けていけば良いことはわかる。

「thisとか、『ディス』って読んでたけど……ttt,thh,thi。いや、全然『ディ』にならないじゃねぇか」

勉強すると、わからないことがわかるようになるが、一方でこれまでわかっていたはずのことが途端にわからなくなる。何度も何度も、声に出しながら、本当に意味がわからなくなってきて笑う。わかってきているはずなのに、わからないことがどんどん増えてくる。一つわかれば、また一つわからない。

私は、教え方について学んでいる。そして、その軸を残したまま、私自身がわからない部分、できない部分の存在を痛いほどに感じる。

足りない、足りない足りない。私は、全然足りていない。教えるなんて、本当にできるのか、やればやるほど自信がなくなる。この気持ちをポジティブに変換できるほど、まだ自分の中で固まりきっていない感情がドクドクと脈打つ。自分自身がどのように知識を身に着けていくのかを触って確かめる。私は何がわからず、どのように理解していったのかを時折振り返る。

全然前に進んでいる気がしない。thisの発音もまだ全然納得していない。

それでも、学ぶ機会には恵まれており、電子辞書もスマホもiPadも「this」の発音を教えてくれる。「Cause」も「passion」も教えてくれる。

音韻をグーッと伸ばして、スローモーションで発音する。

t,ttt,th,thi,this,

いやぁ……? ディス……? ジス……?

テキストを開きながらディとジの間の音を探して声を出す。

好きな曲はまだサビしか歌うことができない。

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参考文献


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