彼女になりたくない物語(4)


酔っ払いの足は遅い。
麻友子さんは、左に私を、右に彼を従えて歩いている。
ヒールが不規則に地面を鳴らす。
夜のコンクリートはよく響き、なんだか不気味だった。

麻友子さんは彼と腕を組み出した。
性を全面に出していた。
苛立つ私を余所に、くっついて歩く2人。
疎ましい。
ひと回り下の私に勘づかれるような方法でしか、女を出せない彼女が痛々しかった。
でも、お酒の勢いでもなんでも、彼とくっつけるなんて羨ましかった。
私だって。

私も充分女だ。

まだお店が見える道路で彼が急に立ち止まった。
「待って、俺、携帯忘れたかも」
待ってました。
席を最後に立ったのは私で、彼の携帯電話は私が持っている。
「やっと気づいたんですか?私が持ってますよ」
と携帯電話を差し出した。
まだ少し赤い顔でにへっと笑って彼は言った。
「さすが結ちゃん!できる女は違うね〜」
携帯電話を手渡すとき、指がほんの少し触れた。
その一瞬でも伝わるくらい、彼の体温は高かった。

駅に着き、全員が改札を通った。
最後に彼が言った。
「またごはん行こう」
社交辞令でもいい。
「ぜひ」
今日1番の笑みを向け、頷いた。
うん、私はいい女だ。

駅を後にする。
少し歩こう。
冷たい風が心地良かった。
また誘おう。今度は2人きりで。
いい女だなってもっと思ってもらえるように。
私は彼にとって、いい女であり続ける。
でも、花を摘むのは彼じゃない。

【完】

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