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解説 No.7『アトラス・アズ・ロマンス』

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※ ネタバレを含む記事ですので、未プレイの方はご注意ください ※

こちらは、マーダーミステリー作品集サイト「奇譚館」のシナリオ『アトラス・アズ・ロマンス』の解説ページです。



プレイ頂き、ありがとうございます。
横から聞こえてくる会話のなかに事件解決のヒントがあった、という設計の作品です。

真相に迫るためにまず必要になるのは、犯人像の推理です。
犯行現場の情報から、ホレシュの知り合いでない者の犯行であることが示唆されます。
「鉄扉に鍵がかかっていない」にも関わらず、「窓が割られている」のが重要なポイントでした。このあたりは、結末の前半部でも解説されています。
犯人像を踏まえると、各役のなかに「ホレシュの知り合いであると偽っている者」がいるのではないかとの疑惑がうまれるはず。
では、その嘘つき(犯人の最有力候補)はどうすればわかるのでしょうか。

実は、犯人以外の役も「自分がホレシュの知り合いであること」を完全に証明することはできません。互いに十分に見知っているわけではないからです。
そこでキーになるのが「右隣の尋問室」から聞こえてくる会話の内容です。

(結末の後半部の内容をふまえて)先に言ってしまうと
ホレシュの「盗作への対策」つまり「架空の『薔薇』の土地」の仕掛けに気づくことで
ファリドが嘘つき(そして犯人の最有力候補)であることが判明します。
「ホレシュとは『薔薇の舞う湖』のほとりで知り合った」という彼の身元に、ぼろが出るからです。
犯人以外の役は「自分がホレシュの知り合いであること」を証明できませんが、
逆に「自分がホレシュの知り合いでないこと」を疑われる確実な証拠はありません。
ただし、ファリド役だけは「自分がホレシュの知り合いでないこと」を暴かれる言動を残してしまっている、という構造です。

ストーリー上、ファリドは目に入った地図の適当な箇所を指さし、「ホレシュとの出会いの場所はそこだった」という身の上を捏造しました。しかし、その場所は偶然にも「架空の『薔薇』の土地」のひとつだったというのが、シナリオの筋です。

さて、それでは「架空の『薔薇』の土地」という仕掛けはどのように推理するべきなのでしょうか。その点を踏まえたうえで、各キャラについて見ていきます。

【パヤーム】

事件解決のためのミッションを持ちます。何かを隠す必要はありませんでした。
「以前ホレシュが地図のひったくりにあったこと」と、それについて「ホレシュは事前に策をうっていた」または「領主が目を光らせている」という情報が重要です。
白髪の審問官も「ホレシュの抜け目のなさ」には言及しています。
ちなみに、『せせらぎの村』は実際に生まれ育った故郷(実在の土地)なので、もちろん地図上でも『薔薇』の付かない地名になっています。

【ギティ】

事件解決のためのミッションを持ちます。何かを隠す必要はありませんでした。
最も大切なのは「『薔薇』の土地は、きまってホレシュの地図帳に載っていた」という記憶を周りに知らせることかと思います。
『薔薇』の土地は地図上に見つけたものの、自身でそこを訪れたわけではない(実際にあるかどうかはわからない)という点もしっかり伝えておくのがいいでしょう。

【ファリド】

どれだけ(ホレシュの知人であるように)うまい嘘をつくかは、プレイヤーの手腕に委ねられています。
しかし、「ホレシュと『薔薇の舞う湖』のほとりで出会った」という致命的な嘘は、キャラシートの段階ですでに織り込まれてしまっている部分です。
ゲームの後半では、他役をその論点から遠ざけることが求められる可能性があります。

【シリーン】

事件解決のためのミッションを持ちます。何かを隠す必要はありませんでした。
キャラシートの記述で確認できる「ホレシュと『薔薇の舞う湖』のほとりで出会った」というファリドの発言は、犯人の推理のうえで最重要です。
ファリド役が言い出さない限り、これはシリーン役特有の情報なので、議論中に全体へ共有できるのが理想的です。


 以上のような各役の手がかりが提出された後で、いよいよ「架空の『薔薇』の土地」という発想へ至れるかどうかが試されます。

もちろん、「右隣の尋問室」の会話の内容が必見です。
あらすじ部分、盗人あつかいされている「右隣」の被疑者、
共通情報②、ホレシュの「対策」について知っている口ぶりの審問官、
共通情報③、地図のことが話題になっている「右隣」のやりとり、
、、、というあたりの様子から、「右隣」でおこなわれているのが「ホレシュの地図を盗作したこと」についての尋問であることが想像できます。
そしてホレシュの「対策」がどういうものなのか、その核心を示しているのは
共通情報④、「右隣」の審問官の口にした台詞です。
言葉の裏にあるのは「実際の地形や地名は、全ての人が確認できるのもの。
だから実は盗作したものも、自分が記したものだと開き直ることができる」という意味です。
この点からわかるように、地図の盗作の対策のために有効なのは、実際に存在しない地名や地形(ホレシュの頭の中にしかないはずの地形や地名)という罠です。
あらすじ冒頭の、「とりたてて優雅な風景もない」という盆地の特徴を思い出せば
「架空の『薔薇』の土地」がホレシュの仕掛けであることを類推できるのではないでしょうか。
共通情報③、④にまたがる「右隣」のやりとりも見逃せません。
被疑者の「『薔薇の踊る崖』に登った」という証言は、(ホレシュの「対策」の内容を知っている)審問官にとっては、見え透いた嘘ということになります。
ゆえに、被疑者が「自らで罪を証明した」という旨の指摘がされていました。

とはいえ、この推理と発想は、かなり難易度の高い道筋だったと思います。
納得いかなかった方々には、お詫び申し上げます。

ところで、我々の社会において実際の地図業界でも
存在しない架空の道や町を、著作権防衛のために載せていた例があると言われています。
トラップ・ストリートやペーパー・タウンと呼ばれているそうです。
この知識ありのプレイヤーがいるとすぐにシナリオのネタが割れてしまうかもしれませんが、どうかご容赦いただけると嬉しいです。


【Q&A】

Q:ホレシュの娘関連の話はなんだったのか?
A:作中の半年前に病死していましたが
ホレシュは知人から娘について尋ねられるたび、返答をとりつくろっていました。
これも嘘の一種であるため、ホレシュはそこに『薔薇』という文言を添えます。
それが癖であったのか、信念であったのか、他に意味があったのか、ストーリー上とりわけ設定しているわけではありません。
本筋の事件とは無関係のエピソードなので、説明は省略しました。


ご質問やご意見、お待ちしております。
遊んで下さった皆様、本当にありがとうございます。

【「奇譚館」シナリオ担当 ゴリ主義】



解説は以上です。
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(ほんの少しだけですが、ちょっとした余談を追加しております。)


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