memo_海外投資家の視点

投稿日: 2017-01-30 投稿者: ZIGEXN_CORPORATE


海外投資家の視点(前編)
投稿日: 2017-01-30 投稿者: ZIGEXN_CORPORATE
こんにちは。じげん経営戦略部長の寺田です。

遅ればせながら、じげんでは今月より英語IRサイトを開設しています。
これまでは社内リソースの観点から海外向けの情報発信にはほとんど手が回っていませんでしたが、時価総額の増加に伴って流動性が向上していることや将来的な資本政策において重要な要素となり得ることから、本年より海外IRを強化します。2月10日の第3四半期決算発表後には、1週間かけて香港、シンガポールの機関投資家を訪問する予定です。

ところで、経済メディアや証券会社のレポートを読んでいると、「外国人投資家」、「海外投資家」という表現をよく目にします。証券取引所のデータによれば、2015年度において外国法人は我が国の上場企業株式の29.8%を保有しており、売買代金のシェアは70%超と言われています。当社でもまさに、IRを強化して彼ら彼女らとの接点を増やそうとしているわけですが、「外国人投資家」、「海外投資家」と一括りにしてしまってもよいのでしょうか?

外国人保有比率

海外投資家の投資戦略は、ロングオンリーとロングショートに大別されます。実際には他にも、グローバルマクロやイベントドリブン、ディストレスといった様々な手法があるものの、日本企業がIRで接する海外投資家の90%以上はロングオンリーかロングショートと考えてよいでしょう。

ロングオンリーとは、その名の通りロング(買いポジション)のみでポートフォリオを構成して保有株式の値上がり益を狙うオーソドックスな手法です。○○投信、△△アセットマネジメントといった国内機関投資家も基本的にはロングオンリーです。ただし、日本株のみで運用していることが多い国内投資家に対して、海外投資家は香港株やシンガポール株、豪州株を含むアジア全体、または米国株や欧州株を含むグローバル全体を対象としており、担当者あたりのカバレッジもより広範囲にわたります。ブラックロックやフィデリティといった超大手の運用会社は東京にもオフィスを構えていますが、海外ロングオンリー全体としては本拠地がロンドンやボストン、ニューヨークに置かれていることが多く、東京オフィスや日本株専任担当者を擁している例はごく稀です。

このためロングオンリーの海外投資家は、調査対象企業のビジネスモデルや業績推移はもちろん、日本の政治経済や商慣習に到るまで、前提知識が担当者によって大きく異なっており、初めてIR面談をする際にはその辺りからすり合わせていく必要があります。私も前職で不動産業界担当のセルサイドアナリストを務めていた際、「なぜ人口が減っている日本で新築住宅や新築オフィスが建てられているのか?なぜ30年しか築年数が経っていない建物を取り壊してしまうのか?」という論点だけで60分のミーティングが終わってしまったことや、日本の不動産市場について一通りプレゼンテーションをした後で「ところでさっきから言っているOtemachiって何?」(もちろん大手町のことです)と聞かれて東京の地理をGoogle Mapで延々と解説することになったことがあります。日本では常識となっている事象の背景を英語でうまく説明できなかったり、事前に相手の理解度を確認しなかったせいで時間を無駄にしたりと、悔しい思いをしたものです。

また日本株や日本市場への見識の有無に関わらず、ロングオンリーの海外投資家はマクロストーリーとの連動やビジネスモデルのシンプルさ、及び定量的、形式的な基準を重視して銘柄選別をしている場合が圧倒的に多いです。上場企業の数は日本だけでも3,500社以上ですが、アジア、グローバルと対象を広げると文字通り桁違いの母集団となります。調査効率を保つため、また社内での意思決定をスムーズに進めるためにも、分かりやすい成長市場に身を置いていたり、世界共通の財務指標が優れていたりする企業が選ばれやすいのです。
以下は、前職や現職で私が実際に聞いたことのある「足切り基準」の例です。

・1日の売買代金が10億円以下の銘柄には投資しない
・シナジーのない事業を3つ以上手掛けている銘柄には投資しない
・ROEが10%以下の銘柄には投資しない
・配当性向が20%以下の銘柄には投資しない
・CEOかCFOがIRの個別面談に出てこない銘柄には投資しない
・社外取締役が2名以上いない銘柄には投資しない

これらに対し、「今はシナジーが少ないが、将来的に化ける可能性が大きい新規事業である」、「目の前に魅力的な事業機会が多数広がっており、配当よりも成長投資を優先したい」、「過去の歴史から財務戦略には保守的にならざるを得ず、ROEは構造的に低くなりやすい」といった言い分が事業会社にはあるかと思いますが、何万社の中から投資先を選ばないといけない海外投資家はそれらをいちいち聞いていられないため、多くの会社が説明の場を与えられることなく足切りされていくことになります。

世界を代表するような有名運用会社に大株主になってほしい!と夢見る経営者やIR担当者もいらっしゃいますが、現在の事業規模や経営戦略を自己分析したうえで、現実的な投資家構成を検討してみることも必要かもしれません。もちろん正攻法として、ロングオンリーの海外投資家のお眼鏡にかなうような財務目標を設定したり、透明性の高い組織体制を構築したり、抜本的な事業ポートフォリオ、バランスシートの再構築を断行したりといったことも考えられるので、経営方針としてどちらが絶対的に正しいということはありません。重要なのは、投資家属性ごとの特性をよく理解して、自社の長期的な戦略に沿ったコミュニケーションをとることです。

冒頭にも記した通り、じげんでは今後、海外IRを強化していこうと考えています。そのためだけに投資戦略や事業戦略を含む経営方針を変えることは決してあり得ませんが、当社や日本市場に馴染みのない投資家の方々にもご理解頂けるよう、分かりやすくシンプルな資料開示等を心がけていくつもりです。

さて後編では、ロングオンリーと並ぶ主要な投資戦略であるロングショートを採用している海外投資家の視点について記します。

株式会社じげん 寺田



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海外投資家の視点(後編)
投稿日: 2017-02-01 投稿者: ZIGEXN_CORPORATE
こんにちは。じげん経営戦略部長の寺田です。

前編では、海外投資家、特にロングオンリーと呼ばれる運用会社の考え方について詳述しました。
後編では、ロングオンリーと並ぶ主要な投資戦略であるロングショートを採用している海外投資家の視点について記します。

ロングショートとは、ロング(買いポジション)とショート(売りポジション)、例えば割安株と割高株、割安株と指数を組み合わせ、株式市場全体の上げ下げではなく個別銘柄のバリュエーション修正等による利益を狙う、ヘッジファンドの代表的運用手法です。日本株を対象とするロングショートの海外投資家の場合、香港、シンガポール、ニューヨークが主な拠点で、海外ロングオンリーと比べると日本人や日本語に流暢な方が日本株専任担当者、または日本株メインのアジア株担当者として運用している場合が一般的な印象です。当社でも2月中旬に香港、シンガポールへの投資家訪問を予定していますが、場所柄か、アポイントを頂いている方の属性は運用手法別では約70%がロングショートヘッジファンド、母国語別では約80%が日本語スピーカーです。

運用会社としての平均的なポジション期間はロングオンリーと比べて短く、担当者は投資銀行、証券会社の東京オフィスや国内機関投資家の出身が中心で各事業会社、個別銘柄への理解も深いため、IR面談においては足元の細かい業績や短期的なコーポレートアクションが話題の中心となることが大半です。銘柄の守備範囲は広く、ROEが低かろうが株主還元が一切なかろうが、上がりそうな会社で最低限の売買代金さえあれば買いポジションを取ってくれます。

事業会社の経営者やIR担当者の中には、少しでも弱みを見せたらすぐに売り叩かれそう、短視眼的な質問ばかりで自分たちの想定している時間軸との乖離が大きい、等の理由でヘッジファンドやロングショート投資家を毛嫌いしている方も散見されます。特に最近は、シトロンやグラウカスといった海外で名の知れた「空売りファンド」が日本での活動を本格化させ、実際に株価下落に繋がっている例も見られることから、ヘッジファンド全体に対して警戒感が強まっているように思われます。

ロングショート戦略をとる投資家が長期で安定株主となることが稀なことは事実ですが、その分売買頻度も高く、貴重な流動性を提供してくれます。国内外のロングオンリーを含むほとんど全ての機関投資家は、流動性がない会社には投資できません。例えば5億円分の株式を買いたいと思っても、1日の売買代金が1億円しかなければ取りたいポジションを取るのに5日もかかり、買い集めているうちに株価を押し上げてしまい、取得原価が想定外に膨らむリスクも高まります。足の短いロングショートの投資家に売買してもらうことで、結果的には他の投資家層にもリーチを広げることができるのです。

また、中長期的な戦略をしっかりと社内で確立できている企業ほど、普段の業務執行とは異なる視点で短期業績について厳しく指摘してくれる投資家との議論を、経営の緊張感を保つ良きベンチマークとすることもできるのではないでしょうか。ロングショートの海外投資家は運用パフォーマンスと収入や雇用がほぼ直結していることが多く、多額の自己資金を自ら運用するファンドに投資していたり、少しでもマイナスの成績を出すと即解雇されたりといった例もあります。その分銘柄選別への「本気度」も高く、事業会社よりも豊富な業界知識や投資銀行家、会計士といった専門家よりも深い財務知識をお持ちの方も多くいらっしゃいます。

私も前職で社会人2~3年目の頃、いくつかの銘柄について複数のロングショートの海外投資家から膨大な量の質問を頂き、リクエストに応えるために寝る間を惜しんで調査を進めてレポートを書き上げ、それを引っ提げて徹底的に議論を重ねたことで、アナリストとして一皮むけることができました。特に当時は2008年に発生した世界的な金融危機の傷が癒えていない時期だったこともあり、単なる業績予想や産業分析だけではなく、ファイナンススキームや会計スキーム、四半期毎のバランスシートマネジメント等への理解が深まり、事業会社における財務やM&Aの責任者という現在の職務にも大いに役立っています。

株式市場ではお金さえあれば誰もが平等に上場企業の株式を売買できるわけで、ロングショートの投資家に会わなければ空売りされる可能性が減るかといえば、決してそんなことはないでしょう。むしろ、どんな投資家にも臆せず、実績と自信を持ったCEOやCFOが論理的かつ明瞭に自社の魅力をプレゼンテーションできる会社ほど、ショートポジションを取りづらい銘柄はありません。確かに、膨大な情報の海を漂う市場参加者は事実と異なる認識を持っていることも多いですが、対話を避けていては誤解を解くこともできないのです。

個人的に事業会社の経営者やIR担当者の方々には、フェアディスクロージャーはルールだからという消極的な理由ではなく、経営へのフィードバック機能を果たす建設的な議論のため、海外ロングショート投資家と積極的にコミュニケーションを取ることをお薦めしています。前職時代、IR面談で事業会社の話をニコニコ聞きながら社長をひたすらベタ褒めし、アレンジした証券会社のアンケートにも「強く買いたい」と回答していたのに、後でBloombergを調べたら面談後に容赦なく売り浴びせていた、なんて方(とある国のロングショートファンドマネージャー)もいらっしゃいましたが…。

株式会社じげん 寺田

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