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花と風

 静寂を包む咲きかけの花に似た薄い膜は、そのなかで小さく泣く私の姿を見つめているようにも、睨んでいるようにも見えました。見えた、というのは正しくなくて、実際には私は自分の膝小僧を見つめることで精一杯だったのです。窓の外を駆ける痣一つない膝の少女たちを、睨んで睨んで睨んで死にたくなる。


「死にたいというならば、生きたいと言え。僕が    生かせてあげるから」


あなたがそう言ったとき、私初めて風というものを知りました。それは、吹いてくるものでも、去っていくものでもありませんでした。それは、人間から生まれるものでした。体の奥、とはちがう、湧いてくるとも違う、ただはじめからそうであったかのように、当たり前に息を吸って吐くように、私から吹き上がると、空中で広がり、台風の目のように中心をつくって、そして咲きました。
 静寂なんてものは、初めからなかったのです。花の色も、香りも、陽の傾きも、決して忘れないようにしようと誓いました。
 私、あなたを好きだという気持ちを、どうにか傷つけずに、誰にも渡さずに、このように伝えたいのです。このように、絶え間なく光っているのです。


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