災害ボランティアで感じたこと備忘録

【はじめに】令和元年の台風19号は各所で甚大な被害をもたらした。私は台風上陸時、単身赴任先の千葉県成田市にいて成田空港内の建設現場の安全確保に専念していた。が、同時にSNSや天気情報アプリなどから自宅のある長野県千曲川流域の被害情報が次から次に入ってきた。居ても立っても居られず、現場の対応を終えた10月14日早朝、現場を部下に任せ、会社のボランティア休暇を利用して約1週間、地元千曲市で災害ボランティアに参加することにした。ここではこれからボランティア活動をされるもしくは興味のある方に向けて自分の感じたことを紹介と提案。

【情報収集】ボランティアは被災者のニーズとのマッチングから始まる。そのコーディネートをするのが地域の社会福祉協議会だ。災害が起きたら現地にいきなり行くのではなく、ボランティアの募集をしているか、県市町村の公益社団法人 社会福祉協議会がボランティアセンター(以下ボラセン)を立ち上げたかを確認する。情報はホームページ(以下HP)で収集できる。電話で詳細を問い合わせることは避けたい。現地は混乱しているし、まだ多くは決まっていない。

【現地への移動】災害直後は公共交通機関や道路が不通の場合がある。ナビゲーションアプリでは最新の通行止め情報や渋滞情報が反映されたいた。また災害復旧の場合、高速道路料金が無料となることがあるので、高速道路会社のHPを確認したい。大規模な災害の場合、車を停める場所も限られている。複数人で参加する場合は出来るだけ乗り合いで車の数を減らしたい。ボラセン側も車の受け入れについて情報を明記するとよい。軽トラックや人を運ぶバンは歓迎されるが、汚れたり多少の傷は覚悟すること。筆者は1日だけレンタカーの軽トラを自費で借りた。ガソリン代もボランティアの負担である。

【宿泊】私は自宅から通える場所での活動だったが、何日間も留まって活動したいのであれば、宿泊先を確保しなければならない。宿泊施設も被災している場合がある。この確保が難しいので地元以外のボランティアを断るボラセンは多い。

【食事】現地近くのコンビニや商店も営業していない可能性がある。自分の足で調達しなければならない。食事の際、手を洗えない場合もあるのでウェットティッシュを携帯するとよい。

【持ち物・道具】基本的な持ち物はネット上の資料参照。現地では調達できない場合があるのでなるべく持参する。消耗品は多めに。荷物はリュックに入れたが背負いながら作業はできないので、貴重品は身に付けられるような工夫を。
スマートフォン(以下スマホ)は電話、カメラ、地図、ナビゲーションと活躍できる。充電はボラセンでできることもある。※スマホについて注意事項を後述
電子マネーやキャッシュカード、クレジットカードが使えない可能性もある。行動予定から必要な金額を現金で持っていった方がよい。

【傷害保険】作業は事故や怪我のリスクが高い。ボラセンではボランティア活動保険に加入できる。補償内容は加入時に確認する。当然だがボランティア活動は労災になりません。

【情報共有方法①】ボラセンへのお願い。まず全体の平面地図。大きな紙で張り出す。ニーズがどこにあるか、どこが通れるか、車をどこに止めるか、トイレはどこか、食事や水分は調達できるか、どの班がどこにいるか、などの情報を都度更新しながら情報共有できるとよい。それを写真で共有したり地図アプリなどでリアルタイムで更新・確認ができるとさらによい。

【情報共有方法②】現地に行ったはいいが内容が違っていて人数や車の手配に変更が生じる場合もあるが、手配変更はボラセンと現地と電話でやり取りするためマッチングが難しかった。例えばネットで掲示板を立ち上げたり、LINEのようなコミュニケーションツールで情報共有すると手配やマッチングがスムーズになるだろう。

【入場教育】作業内容と手順の教育。初めての人も多い。老若男女で適材適所という訳でもない。作業場所はリスクだらけだ。基本的な動作、手順、時間配分、役割分担などの重要性を参加者に伝えたい。出来るだけわかりやすく、手短に説明することが重要である。当然、これだけで全員が理解したと思い込んではいけない。特に必要と感じた安全衛生管理は以下の通り。

腰痛防止(重量物の運搬)
転倒防止(泥の片付け、被災家屋内)
粉塵対策
切傷刺し傷対策(ガラスの破片、木のササクレ、釘の踏み抜き)
熱中症対策(こまめな休憩と水分塩分補給)
しっかり休む(無理をしない、継続して活動するために)
うがい手洗い

現在、災害ボランティア時の新規教育の資料を3分程度で理解できるようにA4用紙1枚にまとめている。

【現地KY】KYとは危険予知の略である。これは建設業などで現場作業前に行われている活動であり、作業の内容・場所から予想される危険を洗い出し、その対策を行うリスクアセスメントのひとつである。例えば「畳や家具などの重量物を搬出する」という作業においても、作業を細分化してリスクと対策の例をあげると次のようになる。
①家屋内にはいる
リスク:床が泥で滑りやすい、床板を踏み抜く、埃を吸い込む・目に入る
対策:先に泥を取り除く、畳は奥から搬出し、床板の上を歩かないようにする、マスクやゴーグルなど保護具を着用する
②持ち上げる・運ぶ
リスク:腰を痛める、落ちて手や足を挟む、滑ったり躓いて転倒する
対策:腰痛予防の姿勢を取る、2〜4人で無理せず運ぶ、運搬ルートの泥や段差となる障害物を予めなくす、滑り止め付きの手袋を使用する。
③車に乗せる・運搬する・降ろす
リスク:腰を痛める、荷崩れする、手を挟む、交通事故
対策:降ろす時は合図を決める、勢いをつけて降ろしたり投げたりしない、過積載しない、交通ルールの遵守
④活動中
リスク:体調が悪くなる
対策:こまめな休憩を取る、自分の力の6割り程度で行動する、互いに積極的に声掛けする、無理・我慢しない

【炊き出し】これは批判的な内容になってしまうかもしれないが、記したい。炊き出しは被災者のために行うものである。当然被災者が利用しやすくするべきである。被災者は車も被害に遭い移動できない可能性が高い。また炊き出しをやっているという情報を得ることすら難しい。被災者の近くでやるか、ボランティアを使い、炊き出し物の配布や情報の伝達を積極的に行いたい。せっかくの炊き出しが無駄にならないように。

【被災者との関わり方】ボランティアは手伝ってあげるではなく手伝わせていただくという姿勢がまず第一である。被災者に寄り添い、支えるための活動である。ただもし自分が被災者になったならば、ボランティアや復旧に関わる人にに対する感謝の気落ちは言葉で伝えたい。ありがとうの一言が、何よりやる気と癒しになった。
被災者の方も様々である。突然の被災で感情が不安定なのは当然である。そういう方に対しても話を聞く姿勢を見せることは重要である。私は職業柄多くのクレーム処理も対応した。なので怒られることには慣れている。ある被災者さんのお宅では朝一番に到着するなり「責任者は誰だ」と怒鳴られた。とにかく機嫌が悪い。しかし何をしたいかをよく聞き、それに沿って真摯に行動することで、帰るときには「ボランティアがここまでやってくれるとは思っていなかった」と笑顔で礼を言われた。慣れていない人は理不尽に言われるとムッとしたり精神的に傷ついてしまう恐れもある。そういう場合はリーダーやボラセンがフォローしてほしい。またクレーム処理経験者がいれば積極的に活用したほうがいい。被災者を加害者にしてはいけない。

【ボランティアである意義】一度に多くの人をしかも無償で集められる利点は大きい。業者であれば効率的に作業を進められるが人員に限りがある。また個人への対応なので税金の投入にはハードルがある。
作業をテキパキ進めるのも大事だが、時には手を止めて、被災者の話を聞くことが重要だと感じた。とにかく被災者は不安である。先が見えない。相談したくてもできない。そんな聞き手役になるのもボランティアならではだと思う。

【注意事項①】ボランティア活動は被災者のプライベート空間で行うことが多い。間違っても勝手にSNS等ネットにあげてはならない。スマホで写真を撮るのも被災者の許可を得てから。逆に被災者の罹災証明では写真が必要である。スマホやカメラを持っていない被災者の代わりに状況写真を撮る手助けも可能である。

【注意事項②】田舎になればなるほど、おもてなしに気を使う住民は多い。もし休憩でお茶を勧められたら是非遠慮せず手を止めて頂いてほしい。そして話を聞き、自分の話をして被災者の気持ちを和らげることができるとよい。適度なタメ口は田舎のジジババは全くオッケーである。当然だがボランティア側からお茶を要求してはいけない。

【注意事項③】何でもかんでも質問したり必要以上に首を突っ込むことも避けたい。被災者は混乱している。先がまだ見えていない。何をするか決めていない。「これはどうする」「これはどこへ」質問責めは被災者を疲れさせる。被災者のペースで、被災者のために動くことを基本とすること。
ボランティア同士の何気ない会話も被災者を傷つける場合がある。聞かれて困ることは話さないこと。

【まとめ】ボランティアの支援を受ける人も、ボランティア活動する人も、ボランティアは素人だという認識を忘れてはいけない。まとめるボラセンも臨時に立ち上げられた組織であり職員も不慣れである。それは当然である。それを前提に互いに関わり合うだけでも精神的なストレスは低減されるだろう。そして、今回の経験を次に活かすために、ここにまとめたような記事などが広まればと期待する。もちろん、これが活躍する機会がないことが一番である。

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