見出し画像

ウマ娘以降の(中略)ひとたちにお贈りする競馬ちょっといい話その3

長く世界最良の種として憧れられてきたリピッツァナーが現在の軽種馬に何の影響も残さなかったのは、あまりにも頑なにこの種をオーストリアに留めてきた保守性ゆえだろう。価格さえ折り合えば誰にでも売るというサラブレッドの自由主義との違いが現在の種の衰退に結び付いたのである。
いったいどうしてトラケナーがサラブレッドに負けたのか、またハプスブルク帝国ではどうしてサラブレッド以上の馬ができなかったのか、ポーランド・アラブはどうしてサラブレッド以上のスピードやスタミナを持てなかったのかといった疑問は大きく残されている。なんといってもポーランドには最良のアラブが多く集まっていて、それに比べるとイギリスに入ったアラブなどは全く問題にならないものだったはずだ。またハプスブルク帝国はリピッツァナーほどの驚異的な能力を持った馬を育てることができたのに、どうして速い馬、スタミナのある馬を育てなかったのだろう。当時、速い馬は通信用や奇襲用としてかなり重要な用途を持っていたはずである。

リピッツァナーもトラケナーもアラブも「馬の種類」ぐらいの説明で理解できますよね。
結論として「雑種交配のようなことを許容したサラブレッドが、純血主義の陥る隘路から抜け出せた」と書かれているわけですが、この流れでもうひとつ重要な視点が提供されていて、個人的に好きな個所。

大きな役割を果たしたのが競馬という遊びのシステムである。軍事や産業のための明確な目的性の中では、発展の途上で一度ランダムな世界に戻すというようなシステムをつくるのが難しい。だが、遊びの中ではむしろ目的性よりも出発点が重視され、必ずしもプログラム通りに進まないことに関心も生まれる。
サラブレッド血統が育つにあたっては、いわゆる良血といわれる近親馬の競走成績のよいものが重要な働きをしているが、同時にまた、時折生まれる低いレベルの血統の活躍馬が種牡馬や繁殖牝馬として大きく血統を更新している。
オーストラリアのカーバインとか、フランスのロアエロドのような馬がイギリスに戻ってサラブレッドの遺伝因子に新しい活力を与えており、最近ではイタリアのネアルコとかカナダのノーザンダンサー、アルゼンチンのフォルリのような全く新しい環境から戻ってきた馬がサラブレッド血脈に大きな影響を与えている。もし、イギリスがこうした新しい血統を受け入れずに、古くから残してきた良いものだけで生産を続けていれば、おそらくイギリスのサラブレッドは世界のサラブレッド水準から取り残されていただろう。

最後の固有名詞は、馬と人との共生という数千年スパンの話における「最近」という意味ですね。
いまでいうと、まさに日本産のサラブレッドが「新しい血統」として世界の馬産界で渇望されています。
というようなことを踏まえると、ソダシの活躍に競馬歴が長い人間どもがザワついている意味が、ちょっとはお分かりいただけるかも、ですね。ああいう突発的に育った血統が歴史を変えてきたのが競馬なので、2021年に私たちが目撃している光景を筆者が存命ならどう表現したかな、って考えます。

Texts quoted, all from the book shown above, except as otherwise noted.


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集