『俺の家の話』の話 第二試合

突然の勝村さんからの電話。

合わなかったスケジュールは直ぐその一週間後に決められた。

通されたのは赤坂TBSの大きな会議室。

「いやぁこんな所に僕らみたいなのが来ていいんすかねぇ」

ヘラヘラしながら勝村さんと待ち合わせた私だが名刺交換で心臓が止まりそうになる。

「金子文紀」「磯山晶」

平然を装って受け取ったその名刺には確かにそう書いてあった。

複雑に絡まった記憶の糸が少しずつほどけて一本の綺麗な直線になろうとしていく。

「長瀬智也と幼馴染みなんですよ」

「宮藤官九郎脚本で智也が主演なんです」

「プロレスをテーマにしたドラマだか映画で」

「手伝って欲しいって言われてて」

「これ実現したらアツくないすか!」

脳内で再現される勝村さんの言葉で、現実味が無さ過ぎてフワフワしていた記憶と目の前の現実が重なり合おうとしていた。

こんな大きな案件を自分が対処出来るのか、期待に応えられるのか、結果を出せるのか、そもそも引き受けて良いのか…

不安しかない。

信じられないくらいの手汗がそれを物語る。

言葉が思うように出ない。

でもこのチャンスを見逃して良いのか。

心のどこかで待っていた、来るはずのない奇跡みたいな一瞬は今なんじゃないか。

また逃げるのか…

葛藤で目の前が真っ暗になりそうになる。

そんな時磯山さんがニコニコしながらおっしゃった。

「勝村さんがね、もうずっとこれは木曽さんしかいない、木曽さんに聞かないと、木曽さんだなぁ~って木曽さんの名前ばっかり言うんですよ」

勝村さんと目が合った。

確かに言っていた、あの電話の時!

「これは木曽さんしかいないって思って電話したんですよ」

うじうじしている自分をもう一人の自分が押しのけて一歩前に立っていた。

勝村さん、やりましょう!是非一緒にやらせて下さい!

「金子文紀」「磯山晶」「宮藤官九郎」「長瀬智也」

池袋ウエストゲートパークにタイガー&ドラゴン…

タイガータイガーじれったいガー!

リアルタイガーマスクが隣にいるのもきっと数奇な運命だろう。

文字通り一世一代の大勝負のゴングが静かに、そして厳かに鳴り響いた。

つづく

たぶん


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