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足湯の効能

まさかその足湯に2時間も浸かることになるなんて。

その日は職場の遠足(ほぼ自由行動)でマイクロバスで松山市にlet's goで、この機会に久しぶり昼間からビールを飲みあそこやここに行き道後温泉に浸かり、そしてまたビールを飲む!という計画を立てていた。

バスを降りてすぐに足湯の案内を見つけた。朝からの小雨で少し体が冷えたので、冷え性の私は足を温めてから街を散策することに。

そのちょっとした高台から道後温泉が見下ろせるようになっており、MAX6人くらいの小さな足湯もいっぱいになろうとした、最後がそのマダムでした。

私のとなりに座ったので、足も温まったしそろそろ出ようかと思ったら

ちょっと、熱いわね、このお湯。
でも足を入れておくと慣れてきますよ(というか私は冷え性なのでちょうどよかったのだ)。
あらそう?じゃあ大丈夫かしら。
昨日から松山に来てて、今日はあそこに見えるでしょ、あのホテルに泊まるんだけどなかなかたどり着かなくて・・・
それでいろんな人に聞きながら、とりあえずここに来たんだど。

と、おしゃべりが止まらない。

私はふんふん、と簡単な相槌を打つだけだがマダムは止まらない。

一言二言会話して、その場を去る事はできたのだけどなんとなくそのマダムが気になり、時間はたっぷりあるし付き合う事にした(と言えば上から目線のようだけど)

たった数分の会話でなんとなく、ただものではない雰囲気がしたのです。わ普通のきれいな・旅行好きなマダムではない、もう少しこの人の話を聞いてみよう、と。

聞けば、長野から片道切符でまず沖縄に行き、パリに行きたくなったのでそのまま飛び、温泉に浸かりたくなったので松山に昨日きたと。
来年70歳。
「今の人はスマホでぺこぺこやって、行きたいところにGoogleで短縮して行くでしょ?私は人に聞いてコミュニケーションで旅をしてるの。」

すばらしい、私はもうスマホがないと動けないです。。。と返した。

いくつかの会社経営者とのことなので、一般よりは裕福なのだろう、だから身軽に動けるのかもしれない。

と、うらやましくなったが、飛行機はすべてLCCと。
その中でも格安の、手荷物は7キロ以上になると有料になる会社を使っているため、すべての荷物は7キロ以内におさめていた!

とても小さなかなり使い込んでいるキャリーバッグ1つに大きめのハンドバッグと、「お菓子が入ってるの」とはずかしそうにしていた小さめのエコバッグ。

見事である。

お互いのこと探る事なく会話は続いたが、会話の端々でおそらく自分がいた業界と近いところにいらっしゃる人だと察しがついた。私が知らないだけで、おそらく名が通る有名な方だろう。
出てくる人の名前がすごいのだ。すでに故人ばかりだが、え?え?とおどろく。
それでもマダムはえらそうなところがひとつもない、不思議な人だった。

そしてとてもオシャレ。いやみが一切ない。

ふたりには共通点があった。
そこで一気に距離が縮まることになり、まだ足湯タイムは続く。

私もマダムも20代前半ごろテレビCMに出ていたのだった。
理由もまったく同じで、素人ぽい素材が欲しいということで起用されたのだった。
(なんの CMかは絶対に言えない・・・なぜならまだYouTubeに残っているから。OnAirは誰にも言っていないが、さすがテレビ。数人から連絡をもらった記憶がある)
そこで自分が元写真家ということを打ち明け、なぜここにいるのかを話し始める。

なんとなく、この人なら・そして今なら話してしまおうかな。
特に誰に話すつもりもなかった、20代でフリーランスの仕事のやり方がわからなくてバランスを壊したことや、作品づくりことや、恋愛などを詳しく話した。

「あなた、その状態(一番辛かったとき)から今までよくがんばったわね!
がんばったというより、よく自分を保ったわ。
眼、あなたの眼、とてもきれいなの。

(えっ!^_^)

何かをやめた人や、あきらめた人、私本当にたくさん見てきたし、知ってる。でもなにかと理由をつけて、御託をならべ、新しく進まないといけないのはわかっているのにネガティヴになりがちな人が多いの。
まあ、家族を養わないといけないっていうがあるのはわかるけど。」

なんだかどっと涙が出てきました。
ちょっと間を置いて座っていた、仕事の合間にきているだろうサラリーマンはぎょっとしたにちがいない。

私、好きな事やろうと思って。行きたいところにいって楽しく過ごしたいんです。こんなんで大丈夫かな?って思うこと多々です。

いい歳じゃない!
あなたにはいつも笑顔でいてもらいたいときっとまわりの人は思っているはずよ。

えー?そうなのかなあ?

そうよ!

この人はプロなのだ、きっと。
思わずうれしくなる接し方をされたことで私の古傷が癒えた瞬間だった。
具体的な仕事内容はわからないけど、そんな、お互いの巣のひとときとしての暖かさをプロのスキルとして持っている。
きっとそれがホスピタリティの極意。
私の道後温泉の足湯の効能。

別れ際、思わず
「一緒に写真を撮りませんか?」って
ふだんあまりやらない自撮りでツーショットをお願いした。

お互い、髪がボサボサなんだけどー!と言いながら、快く、ぜひ!とどこまでも明るくかわいらしいマダムでした。

お互い、名前も交わしてないけど、たぶん、それでよかったと思う。

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足湯からは改装中の道後温泉が、火の鳥に覆われていました。

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