障害福祉に向き合う事業会社でのデザイン

 株式会社LITALICO障害福祉施設向けの運営支援サービスのデザイナーをやっています田中良樹です。この記事は『LITALICO Advent Calendar 2019』8日目の記事です。

はじめに

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(弊社リタリコのロゴの画像)

弊社LITALICOでは「障害のない社会をつくる」というビジョンを元に、様々な事業を展開しています。
障害は人ではなく、社会の側にある」という考えのもと、LITALICOジュニアで当事者に対する教育支援LITALICOワークスで成人当事者を対象としたキャリア開発支援に取り組んでいます。
対人支援分野での知見を活かし、現在は、メディア運営(発達が気になる子どもの親向けポータルサイト - LITALICO発達ナビ働くことに障害のある方の就職情報サイト - LITALICO仕事ナビ)から、当事者の家族向けライフプランニング事業 - LITALICOライフ、福祉施設に対する業務支援まで、幅広く事業を拡大しています。

 先日リリースした障害福祉施設に対する運営支援サービスのプロジェクトに、デザイナーとして開発初期から関わらさせていただました。そのプロジェクトで実践したデザインのプロセスについて、整理をかねて書かさせていただきます。具体例としてプロダクトのメニューの設計などを用いながら説明します。

 面白そうなことをしているなぁと少しでも弊社に興味を持っていただいたり、複雑な業務をUIに起こすまでのデザインのプロセスが少しでも参考になれば幸いです。

理想状態を分解し、直近の課題を明らかにする

 ここでいう理想状態とは会社が掲げる理想と自分の理想を関連付けたものです。その実現への道筋を分解し直近のステップの課題を明らかにします。

 これにより当事者意識を持つことができます。また現在直面する課題の解決に精度高く、かつ次を意識した拡張性のあるUIを作ることができます。理想ばかりでは使ってもらえないものができ、逆に理想がないとぶれるデザインになります。

  ステップの具体の全容はここで書くと長くなるので省きます。直近でフォーカスする課題は下記の通りです。

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(様々な業務で支援に集中できず困っている人の図)

1. 障害を抱える方が通う事業所が、「ノンコア業務 = 支援以外の業務」に多くの時間を割いており、支援に集中することができていない

2. 支援の質が上がらない

 上記の課題は1→2の順で依存しています。これらの課題に対して、どういうデザインのプロセスを取ったのか説明していきます。

業界を分析しコアとなる課題を捉える

 障害福祉という業界を、以下の本やガイドブックを紐解き、省令や歴史を学ぶことで理解します。(参考資料 - 障害者総合支援法事業所ハンドブック(指定基準編)障害児通所支援ハンドブック請求事務ハンドブック

 何よりも大事なのが実際に複数の事業所に対するヒアリングや自ら事業所にボランティアに入らせてもらい支援などの業務を自分で行い分析することです。

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(事業所の業務をまとめたアクティビティ図 - アクティビティ図とは何かを説明した記事

障害福祉の業務は法令ありきでできているの大筋は変わりません。そのことを意識して細部にとらわれず一歩引いて業務をモデル化します。

分析の結果以下のようにコアとなる課題を捉えることができます。

課題1- 支援

 障害のある方に日々支援が提供され、PDCAが回されています。一つに障害といっても様々な種類やグラデーションがあり、それに対する支援は複雑で難しいです。ここに支援の課題があります。

課題2 - 請求

 障害福祉の事業所さんでは法令に基づく支援を行なった実績を元に、報酬を計算して報告し市区町村からお金をもらいます。そのプロセスは複雑であり利用者への請求も含めて請求という課題を形成しています。

課題3 - 運営

 上記2つが混じり合う形で、日々の支援の準備とその記録、事業所の受け入れ人数に対する稼働率(売上に関わる)の維持管理や、物理的な送迎(事業所と自宅間の送り迎え)業務などが発生します。ここに日々の運営という請求や支援というコアとなる課題を支援するサブの課題が捉えられます。

 これら3つ課題はそれぞれ大きくことなりメニューの段階で大きく分けます。

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(運営・請求・支援の3つに分けられたメニュー)

課題の特性を理解する

抽出した3つの課題はそれぞれ特性が異なります。請求の課題にはタスクが明確に順序立って存在し業務は事業所ごとにあまり変わりません。逆に運営や支援は事業所さんそれぞれの工夫が現れやすい特性があります。

よって請求は硬く、モーダルに、運営や支援は工夫する余地が残るようモードレスに作ると良いことが明らかになります。

特性を元にUIをデザインする

 それぞれの課題の特性を理解することにより、ユーザーのメンタルモデル(触る前にユーザーがプロダクトに持つイメージ - メンタルモデルについての説明が含まれる記事)に近いUIがデザインできます。

 請求は支援の実績を元に請求データを作り、国保連(正式には国民健康保険団体連合会 - 国保連についての説明)という組織に伝送し審査が通ることで完了します。

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(請求データを伝送し支払いが確定するまでのフローを説明する図 - 請求事務ハンドブックより)

 請求データがメインのオブジェクトとなり、それに対するタスクが連なります。

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(オブジェクトとタスクの関係の図)

 よって以下のようなデザインのパターンを考えることが可能となります。このパターンを選ぶ中で課題の特性への理解が役に立ちます。

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タスクの完了状態をフィルタしたもの。

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パターン2

フィルタを取り出しメニューのように見せたもの。

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パターン3

フィルタをiphoneのホーム画面のようにアプリライクに見せるもの。

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 請求業務の各々のタスクは法令によりスケジュールが決まっており、非可逆的です。またそれぞれのタスクには、さらに様々なタスクやそれにまつわるステータスがあり、物理的なスペースが限られてきます

 よって大きくUIのスペースがとれ、かつ、タスクを順に不可逆的に行うことが明確に表され、よく境界づけられているパターン3が適切であると判断できます。

 ちなみそれぞれのタスクは実装上もアプリケーションとして分かれています。それぞれのタスクの元となる省令は定期的に見直されるため、タスクの中身が細かく変わります。そのためタスクに対応するアプリケーションも変更しやすく作られています。

 パターン3のように別のアプリとした表現したデザインモデル(デザイナーが表したシステムのモデル)が、プロダクトの実装モデル(プロダクトの実際の姿)とユーザーの概念モデル(使ったあとにユーザーがプロダクトがこのように動いていると考えるイメージ)およびメンタルモデルの一致に繋がります。(実装モデルなどについて書かれた記事

運営のデザイン

 請求とは逆に運営はモードレスにします。実際に事業所に行ってみると、予実をアナログなホワイトボードやカレンダーでネームプレートや付箋を使ったりペンで書き込みをしたりと様々な工夫をして管理しています。

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(事業所さんで見らるホワイトボードの一例、カレンダー形式に一月分書かれたうちの1日分を抜き出しています。)

 ユーザーの工夫を要求を一つずつ満たすのではなくGoogleカレンダーのように自由に色分けをしたり、グルーピングしたり、移動したり、簡単に新しく作成できるようにし、様々なユーザーの工夫を引き出すようにすることが運営の課題の特性にあったデザインとなります。

次の理想状態への余地を残す

 ノンコア業務の時間が短縮され、直近の課題が解決されたときに「じゃあちょっと休憩しよっか」となってしまっては理想には近づくことができません。

 次の課題である、「支援の質が上がらない」ということに対しての取り組むのはこれからです。それに先立ち、コアの課題を支援する、サブの課題である運営の画面に、請求だけでなく支援への密な接続の余地を残しておいています。大きな変更なく、素早くユーザーの側に次の理想状態への可能性の道具をすぐ手に取れる場所に置くようにするためです。

おわりに

 以上のようなデザインプロセスを実践できたのには、3つの理由があります。

 1つ目はドメインエキスパート(福祉業界や福祉サービスの業務を深く理解している方)でもある、プロジェクトオーナーやQA(品質を保証する人のこと QAについて書かれた記事)の方に、構造化された状態で業務のインプットをしてもらったり、請求の業務を追体験させてもらったり、デザインに対する的確なフィードバックを得られたりしたことです。これによりドメインを正しく分析できるようになりました。

 2つ目は、2週に1回は現場にヒアリングに行ったり、実際に丸一日支援に入らせてもらったりして、1次情報を得る機会をたくさん取らせていただいたことです。これにより理想ではなく現実の課題を明らかにし、デザインに反映することができるようになりました。

3つ目は、アーキテクトの方とこの業界をどうしていきたいか論理的に、時には理想論として語り合いながらデザインを考えられたことです。これにより「デザイン」(設計としてもUIとしても)の拡張性を常に意識できるようになりました。

 これら3つの要因を得られる環境は自社で現場を持ち、高い理想を掲げる事業会社ならではであり、デザイナー冥利に尽きる環境だと思います。

 この記事を読んで面白そうなことをしているなぁと少しでも弊社に興味を持っていただいたり、複雑な業務をUIに起こすプロセスが少しでも参考になっていれば幸いです。

 現在弊社LITALICOではデザイナーやエンジニアをWantedlyにて絶賛採用募集中です。(Wantedlyの弊社の募集一覧ページ)ぜひご気軽に、お話だけでも聞きに来てください。

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(「障害のない社会を作る」と書かれた画像)

 ここまで閲覧いただきありがとうございました!

 ※この記事は『LITALICO Advent Calendar 2019』8日目の記事です。次回9日目はアーキテクトである磯貝さんの『アーキテクトがドメイン理解の前にビジネス分野理解に使うテクニック3選』です。お楽しみに!








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