母の誕生日とシクラメン
今日は母の83歳の誕生日だった。
この日に合わせて1週間前から故郷の実家に帰っていた。毎日施設に顔を出していたが、今回の訪問では一度も口をひらいてくれなかった。何かを尋ねると、かすかに首を縦に振ったり横に振ったりすることもあったが、母の目は私ではないどこかを見つめたままのことが多かった。
今日も施設に向かい、誕生日だねと告げてシクラメンをプレゼントした。シクラメンの鉢植えは、お見舞いではタブーとされていることはもちろん知っている。それでも構うもんか。
母は「ありがとう」と言った。それきりずっと黙って、外を眺めていた。
何を思うのか。言いたいことがあるのか。ないのか。私にはわからない。けれど、「ありがとう」の言葉は確かに聞こえたのだ。
それでいいのだと思った。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?