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裏:京都異界案内 降龍編

京都タワーのてっぺんから見る京都の町は、とても美しかった。食い込むロープと、身を切る風が無ければもっと素敵に見えたと思う。

「……で、なんで私は京都タワーのてっぺんに縛り付けられてるんですか」

私の横に座って暢気に煙草を吹かしているスーツ姿の男に向けて言う。

「言ったろ、龍を降ろす為だって」

「はあ」

意味が全く分からないし今の状況も分からない。就職面接の為に京都駅に降り立ち、会社から迎えにきたというこの男に従ってのこのこと京都タワーに上ったと思ったら、立入禁止の展望台の上のエリアに案内され、気がついたら縛られていた。

「まさかここまで素直に従うとは思ってなかったわ。お前バカなんじゃねえの」

「それは必死で就活している全就活生への侮辱と受け取りますよ」

「好きにしろ、時間だ」

そう言うと男は立ち上がり、私の正面の祭壇の前に立つ。咥えていた煙草の火を祭壇に山と積まれた線香へ移す。線香は瞬く間に燃え上がり、大量の紫煙が空へと上っていく。

煙に導かれるようにして、京の空に暗雲が立ちこめる。轟く雷鳴、降り注ぐ豪雨。リクルートスーツが駄目になっちゃうと心配する私の頭上で、天を切り裂く雄叫びが響く。



るううううぁぁぁぁっっ!



鼓膜が破れるかと思ったのもつかの間、雲を切り裂き一つの存在が顕現する。

「あれは……」

私の言葉に、男が呟きを返す。

「あれが龍だ。角は鹿に似、頭は駝に似、眼は鬼に似、頸は蛇に似、腹は蜃に似、鱗は鯉に似、爪は鷹に似、掌は虎に似、耳は牛に似るという伝説の霊獣だ」

だけど男の言葉の半分も私は聞いていなかった。顕現した龍が私へと『降りて』きたからだ。ようやく男の言葉の意味を理解した私の中で龍が跳ね回る。自分のものではないかのように暴れる身体は、男が私の額に謎の札を貼った瞬間に収まった。

「無事に『降りた』みたいだな。それじゃあ今から、百鬼夜行の征伐といくぞ」

にやりと笑って、男が言う。

【続く】


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