いちばん夜の長い日
今日は冬至だ。
ゆず湯に入ったりかぼちゃの煮物を食べたりする日。
一年でいちばん夜の長い日。
すぐに辺りが暗くなるから部活は夏場よりも早く終わる。
街灯のちらつく光がぽつぽつと落ちる道を白い吐息を弾ませながら学校から帰ってくる。
詩織が玄関先で佇んでいた。
「やっほ」
私の姿に気がつくと、気慣れた様子で片手をあげてこちらに挨拶をしてくる。黒っぽいコートを羽織って毛糸の帽子を目深にかぶって目立たないように地味な格好をしている。そのくせ帽子のふちからはみ出た髪の色は脱色しすぎて金色を通り越し、白っぽくなっていた。
彼女は私の「元」同級生だ。同じ中学で同じ部活だった。彼女も私も部活にいたのは2年の夏までだったけど。
彼女は中学3年のある日を境に学校に来なくなり、夜しか出歩かなくなった。
確かに彼女は夜が似合う。
昼日向の陽光よりも、闇夜月夜の陰を纏って染み入る暗夜を闊歩する。
何故かは知らない。
いつか聞いたことがあったような気がするが、あの時は何と言っていたっけ。
私が彼女に理由を問うと「わたし、吸血鬼になったから」とくすくると微笑いながらからかうように言ってきた。
「そっか。じゃあしょうがないね」と私が言うと、「そう。これはしょうがないことなの」と彼女は答えた。
八重歯が目立つ彼女の口元は、肌の白さとそれに反して紅を入れたように艶めかしい唇のコントラストが人目を引きつける。
この先私がお婆ちゃんになって、彼女の顔は覚えていなくても、彼女の口元は覚えているかもしれない。
私は家に入らずに、そのまま彼女と連れだって夜の街へと繰り出した。
でも人のいるところには行かない。行きたくない。
大通りから一つ隔てて車通りの少ない道を、人目を避けながら彼女と手を繋いで歩く。
一年でいちばん夜の長い日。
この日だけは彼女と二人、朝が来るまで、夜が明けるまで、ただただひたすら街を歩くのだ。
今日はいちばん夜の長い日。彼女と二人だけの日。