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推敲のメモ帳 反復練習

はじめての推敲。七回目。
Mさんの感想から抜き出してみます。優しいんですわ。でも鋭い(^^;

【M】だいぶこなれてきましたね。今までのところで気になるのは、「言う」の連投、こそあどの多用、行為者の特定がぱっと出来ない記載ってところかな。

BLとなっていますが体臭がしません。基本、BLで話を展開する人は、絡みをこれでもかと描くんです。ONEでは、そこがものすごーくあっさりになってる。わたしの基準では、性描写、暴力描写ありの範疇に入りません。ほとんど心理劇ですね。つまり、BLの入れ物を使った正当派ドラマかなあと。

もう一つ。今までのところ、誰一人として悪者が出て来ません。みんな壊れかけではあるんですが、正の部分の欠け具合いが違うだけで、それがネガ転換してない。
ある意味、性善説に基づく話作りのスタイルになっていて、暗い展開でありながらいわゆるホラーな世界に堕ちてません。そこらへん、当時の心理を反映しているように思います。

根幹から全部手を入れろと言われたら発狂します。それは著者の不可侵領域だからね。
でも表現や流れの調整には、そこまでの拘束力はありません。いいと思えば使うし、別のアプローチを考えてもいい。自分でしっくり来るまで思う存分トライアンドエラーが出来ます。
わたしが推敲好きなのは、そういう実験要素があるからなんですよね。

キャラにどういう特徴を持たせるかもそうで、口癖や仕草なんかはかなり後からでもいじれます。でも、基本線や思考ルーチンはいじれません。それが自分の編み出したキャラでも……です。
その分、早くから性格描写を繰り返してイメージを固めておかないと、後で苦労するはめに。
そういう意味で、変化すること前提のティーンが主人公だとすっごいやりやすいんです。 言い訳出来るから。

こういう『人』を描く話。わたしは、作者のポジションが二種類に大別されるんだろうなと思ってます。パペットマスター型と着ぐるみ型。

パペットマスターは、パペットに演技させなければなりません。話の構成や狙いをきちんと表現出来るよう、パペットを操る。そこに強い客観性があるんです。自分の操っているパペットが好きであっても、そうでなくてもね。
演じるのではなく演じさせますから、どうしても作者とパペットとの間に距離が出来ます。

着ぐるみは、中に演じる本人が入ってます。当然、演じられるものは作者そのものになるわけで。クマの着ぐるみに羊が入るわけはないので、見かけと中身がかなり一致します。主観的になりますね。
どっちが正道ということはなく、それぞれのスタイルですね。しかも中間型やハイブリッドがいっぱいあります。

ONEでは、ふあさんが着ぐるみを着ようかどうしようか迷ってうろうろしてる。登場人物の心の動きに没入しようとしながらも、一方でどうしても入りたくない着ぐるみもあって。そういう葛藤がもろに見えるんですよ。
自分自身をどうやって構成していくか。そういう迷いと試行錯誤が見えるようで、作話でのぶれ自体が成長物語になっているような印象があります。

わたしがいろいろ用語法や文体をいじっていますが、それはそれ。無修正のオリジナル文章は、必ず保存しておいた方がいいですね。写真は一瞬しか切り取れませんが、文章の抱えている情報は莫大です。まさに得難い財産なんじゃないかと。


若かりし頃の作者自身が、作品のなかに残ってますねえ(^^;(^^;
んで、細かい指摘が続きます。推敲の練習。鍛錬ですね。

【K初稿】前を向いたままそう言ったシドに、曖昧に返事が返った。
【M代案】シドが前を向いたまま声をかけると、曖昧な返事が。
【M】返事が返る……わたしもよくやるんですが、重畳表現なんですよね。

……なんか、いまだにやってそうな間違い(^^;


【K初稿】
「無理はするなよ」
その言葉に笑って、すぐそうやって保護者面すると返して来た。
「カツミ」
「ん?」
「見てられないよ」
その言葉に顔を上げたカツミに、シドは少し怒った顔になった。
【M代案】
「無理はするなよ」
「ふっ。すぐそうやって保護者面する」
保護者面か……カツミにはそう見えるんだな。決してそういうわけじゃないんだが。もう一度釘を刺しておくか。シドが語気を強めた
「カツミ」
「ん?」
「見てられないよ」
声の変化に驚いて顔を上げたカツミを、シドが真顔で叱った

【M】こらこら。照れない照れない。こういう場面を精緻に描かないと、心理劇として厚みが出ませんぜ。

……あうあう(^^; ですよねえ。ですよねえ。あうあうあうあう。


【K初稿】
「私じゃ、私的感情が入りすぎて、最善の方法は教えないかもな」
【M代案】
「私情どっぷりだからね。最善の方法は教えられないな

【M】『教えられない』には、『あえてしない』と『したくてもできない』の両方の意味を含ませることができます。思わせぶりにするテクニック。

……うひいいい(^^;


【K初稿】
ゆっくりと、彼は家の前に車を横付けた。(中略)そう言って窓外の家に目を向けたカツミは、一瞬まばたきをして、ぎょっとしたように目を見開いていた。
【M代案】
シドは、荘厳な玄関前に車をゆっくり横付けした。(中略)寝ぼけ眼で窓外の家を見たカツミは、何度かまばたきを繰り返し、それからぎょっとしたように目を見開いた。

そうだった。ジェイの別邸って城のような邸宅だった(^^;
「荘厳な玄関前」って入るだけで全然雰囲気変わるのね。
てか書けよって話ですな。んで、盛りました(笑)

【K十稿目】
ようやく視界に入って来た豪奢な屋敷は、あの日と変わらずどっしりとした石の壁に枯れた蔦を絡ませていた。
別邸とはいえ、三階建てで高い尖塔まである城のような邸宅である。
広い玄関ホールは吹き抜けで、優美な階段が渦を巻きながら上階に伸びている。
高い窓。煌びやかなシャンデリア。意匠の凝らされた重厚な家具。空調と床暖房は完備されているのに、ご丁寧に石造りの立派な暖炉まである。

邸宅の前庭には、大きな樹が植えられていた。枝先にある蕾はまだ硬い。だが春になると真っ先に大きな花を咲かせるのだ。
甘い香りのする白い花。それはまるで、小鳥が飛び立つ姿に見える。

一階の南にある古風な窓から黄昏色の灯りがもれていた。それを認めたシドが、荘厳な玄関アプローチに車をゆっくり横付けする。


まず、表記ゆれへの指摘。
「言う言う問題」への対策と、それに伴う語彙のバリエーション。

【M】溜息の表記が、溜め息と溜息と二種類になってます。表記揺れになるので、どちらかに統一した方がいいかと。
【K初稿】薬の箱を引き出しにしまいながら、ジェイは言った。
【M代案】薬の箱を引き出しにしまいながら、ジェイがお定まりの依頼をする。
【K初稿】何一つ、こっちの言う事など聞きやしないくせに。そう思いながら、シドはジェイの背を見送った。
【M代案】こっちの言う事なんか何一つ聞きやしないくせに。苦い思いを噛み潰しながら、シドがジェイの背を見送った。
【K初稿】吹き出しながらシドが言うと、今度はジェイの方が驚いて目を見開いた。
【M代案】吹き出しながらシドがばらすと、今度はジェイが驚いて目を見開いた。
【K初稿】昔からすっかり身に染み付いてしまったお決まりの思考回路で、シドは最善の方法を考えていた。
【M代案】すっかり身に染み付いてしまった使い古しの思考回路で、シドは最善の方法を考えていた。

文末を「言う」ばかりにするのって、ぶっちゃけ語彙がないから(^^;
「依頼」「ばらす」ってのは、そのセリフの性質。名札ですよねえ。
提案とか謝罪とか宣言とか。その名札を書けば、言う言う書かずに済むなあと学びました。

第一部は七章構成。幕間を挟んで第二部が四章構成。計十一章の小説です。
推敲の手ほどきは七章の頭まで続きました。
とても上げきれないですね。一行ずつ細かく指摘してもらいました。まさに反復練習。鍛錬でした(^^; いやあ。楽しかったなあ。Mさんは大変だったろうけど(^^;(^^;

というわけで、次回でまとめにします!