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推敲のメモ帳 言葉のバトル

はじめての推敲。六回目。起承転結の「転」の直後から。
Mさんの朱入れが、みっちり!! とても細かく見てくれました。
長いので興味のある方だけご覧ください(^^;

【K初稿】
「フィーアと同じこと言うね。ここのシチューは一番のお勧めだよ」

メニューを見ながら今度はマスターと言葉をやりとりしていた彼は、最後の紅茶まで決めるとひと段落してまた目を細めた。(中略)
まるで、セアラといる時のペースだと、カツミは内心苦笑した。どうみたって相手が主導権を握っているのだが、なぜかそれが心地いいのである。
そういえばもう1サイクルは、彼女とも会っていない。フィーアの事があってから、セアラもどう出ていいか迷っているのだろう。
ま、しかし彼女の場合、会いたければ何があっても押しかけてくるかな。

そこまで考えて、やっとカツミも落ち着いて店の中を見回した。(中略)
昔、この星を治めていた王族で、その中央に描かれている美しい王女が、この星の長い戦の発端原因である事をカツミは知っていた。(中略)
ややあって、ワインが出された。
【M代案】
はははっ。フィーアと同じだね。ここのシチューは一番のお勧めだよ」

マスターとやりとりしていたユーリーは、最後の紅茶までオーダーしてメニューを返すと、カツミを見てまた目を細めた。(中略)
まるでセアラといる時のペースだなと、カツミは内心苦笑した。どう見たって相手が主導権を握っているのに、なぜかそれが心地いいのだ。そういえば、彼女とはもう1サイクル以上会ってないな。フィーアの事があってから、セアラもどう俺に接していいか決めかねているんだろう。
ま、しかし彼女の場合、会いたければ何があっても押しかけてくるからな。

セアラの顔を思い浮かべたカツミは、ざわついていた心がなぜか落ち着いた。それから、ゆっくり店の中を見回した。(中略)
昔この星を治めていた王族。その中央に描かれている美しい王女が、この星の長い戦の発端原因である事をカツミは知っていた。(中略)
ややあって、ワインが給仕(サーヴ)された。

太文字の部分。特にセアラの顔を思い浮かべたことで心が落ち着くというくだり。さすがです(^^;
あと「笑ってるのなら笑い声を」と言われて、あっ! となりました(^^; で、美味しいとこ頂いて推敲しました(笑)

【K十稿目】
「はははっ。フィーアと同じだね。ここのシチューは一番のお勧めだよ」

笑って返したユーリーがマスターとやりとりを始めた。最後の紅茶までオーダーしてメニューを返すと、カツミを見てまた目を細める。

「茄子とキノコのラザーニャだってさ。旨そうだなぁ。あっ、ワインは?」「……赤で」

まるでセアラといる時のペースだと、カツミが苦笑する。どう見ても相手が主導権を握っているのに、なぜかそれが心地いいのだ。
そういえば、彼女の姿をもう1サイクル以上見ていない。フィーアのことがあるから、どう接していいのか決めかねているのかも。
まあ。彼女の場合、会いたければなにがあっても押しかけてくるけど。

セアラの顔を思い浮かべたカツミは、ざわついていた心が落ち着き、ようやくゆっくりと店の中を見回した。
洒落た田舎風の造りで、煉瓦で出来た壁には古い大きな絵が掛けてある。昔、この星を治めていた王族。中央に描かれている美しい王女が、この星の長い戦争の切っ掛けとなったことをカツミは知っていた。
彼の視線の先に気付いたのか、ユーリーもその絵に目を向ける。

「アーリッカ王女か。あのラヴィ・シルバーも王女と接触してるって噂があるな」
「昔の撃墜王ですよね」
「君も狙えるんじゃないのか? まあ。アレが前線に出されるのは、あまり見たくはないけどね。能力者部隊に組み込むらしいけど」
「アレって。例の計画のことですか?」
「そう。同じ顔がああも揃うと寒気がするよ。オリジナルはメーニェ《向こう》からの輸入品だそうだ。こっちでは、そんなものに志願する人間なんていないからな」
「あの名はオリジナルの名前だと聞きました」

──リーン。部隊では千二百人のクローンのことを共通してそう呼んでいた。

ちょうど話が途切れたところに、タイミングよくワインが給仕《サーヴ》される。


その続きです。

【K初稿】
ラザニアには嬉しそうに目を細めて口ではそう言うユーリーに、複雑な思いでカツミは頷いた。(中略)
ちょっと皮肉を言ってみたくなって呟いたカツミに、ユーリーは困ったように頭をかいてみせた。(中略)
自嘲的な笑みを浮かべて、ユーリーはそれを認めた。(中略)
「熱いから、気をつけてな」
そう言いながら、マスターが二人の間にトーストされたパンを置く。
「これも手作り。君みたいに痩せてるのには、無理にでも食べさせたくなるな」
その言葉に笑みをもらして、カツミはスプーンをとった。一番のお勧め、というに相応しい味だった。(中略)

視線を漂わせたまま、そう言うユーリーにカツミは思い切って尋ねてみた。(中略)
「殺されかけたんですよ」
そう言ったカツミに、ユーリーは一瞬驚いたように硬い表情をしたが、次には僅かに首を振って言った。(中略)
「あの子は自分の感情のわけに、理由づけを出来る程、自分の事を大事に思ってなかったからね」(中略)
ワインに口をつけて、ユーリーは言葉をつなぐ。

ここはカツミとユーリーの会話なのですが、Mさんは「会話によるバトル」に変えています。言葉での殴り合いですね(笑) 
最初この代案を見た時には叫びましたね(^^; すげええええ! まるで緊迫感が違う!!

【M代案】
ラザニアを嬉しそうに頬張る顔とは裏腹に、ユーリーの説明は毒だらけだった。カツミは複雑な思いで頷いた。(中略)
皮肉というにはあまりにとげとげしいカツミの呟きを聞いて、ユーリーは困ったように頭をかいた。(中略)
自嘲の混じった笑みを浮かべたユーリーは、素直に非を認めた。(中略)
「熱いから、気をつけてな」
すぐに手を伸ばそうとしたユーリーを制して、マスターが二人の間にトーストを置く。
「これも手作り。君みたいに痩せてるのには、無理にでも食べさせたくなるな」
余計なお世話だ。苦笑しながら、カツミはスプーンを繰った。
ユーリーの評価を素直に認めたくはなかったが、確かにお勧めに相応しい味だった。(中略)

視線を漂わせたまま、ユーリーがぽつりと呟いた。カツミが容赦無く切り込んだ。(中略)
「殺されかけたんですよ」
カツミの言葉で頬を叩かれたように、ユーリーが一瞬顔を強張らせた。が、僅かに首を振って切っ先を返した。(中略)
「あの子は自分の感情の出処《でどころ》に理由づけ出来るほど、自分の事を大事に思ってなかったからね」(中略)
ワインに口をつけたユーリーが、思い出すように言葉をつないでゆく。

中略部分を全て入れた十稿目です。かなーり代案を頂いてます。

【K十稿目】
「少佐に薬の件を依頼されたときには、これは脅しだなと思ったんだ」

ラザーニャを嬉しそうに頬張る顔とは裏腹に、ユーリーの説明は毒だらけだった。カツミは複雑な思いで頷くと、二人の空間にシールドをかける。

「うちは貿易商をしててね。ああいうのも請け負ってるんだ。向こうはこっちの上行く情報通だから、バレてたわけだな。まあ。仕事だと思って割り切ったわけさ」
「その結果が墓地通いですか?」

皮肉というにはあまりにとげとげしいカツミの呟きを聞くと、ユーリーが困ったように頭をかく。

「まったくね。とんだ失敗だった」

自嘲の笑みを浮かべると、ユーリーが素直に非を認めた。

「彼とは色々話しをしたよ。それがいけなかったんだろうね。ただの運び屋に徹すれば、こうはならなかったさ」
「ここにも?」
「さっき言った通り。ほらシチューがきたぞ」

魚介類と野菜のたっぷり入った煮込み料理《クリームシチュー》が置かれた。となりには焼きたてのフォカッチャが並ぶ。

「これも手づくり。君みたいに痩せてるのには、無理にでも食べさせたくなるな」

余計なお世話だ。むっとしながらカツミがスプーンを繰った。相手の評価を素直に認めたくはなかったが、確かにお勧めに相応しい味である。

「どう言えばいいのかな。白状してしまえば、必要以上に肩入れしてしまったんだ」

視線を漂わせたままユーリーがぽつりと呟くと、カツミが容赦なく切り込む。

「好きだったとか?」
「さあね。あの子が好きな相手は分かってたし」
「まさか」
「いや、君だったよ。今になってみればよく分かる」
「殺されかけたんですよ」

カツミの言葉で頬を叩かれたようにユーリーが顔を強張らせた。だが僅かに首を振ると切っ先を返す。

「でも、寝たんだろう?」

返答に窮したカツミに、ユーリーは情報通だと言ったろ? と口の端を上げる。

「ああいう自然死じゃない遺体は、それこそ根こそぎ調べるもんだよ。警察が表沙汰にしなかったのは中将が釘を刺したからだ。公には一時的な精神錯乱としかでなかったし、薬のことも伏せられたろ?」
「そうでしたね」
「私はね。少佐に従ってフィーアを特区から追い出すことは嫌だった。縛っていたかった。あの子が君のことをほのめかすたびに居心地が悪かったよ」
「俺のこと? でもフィーアは、はじめは恨んでたんですよ」
「恨んでた? だから殺そうとした? 違うよ」

ワインを注ぎ分けながらユーリーがあっさりと否定する。

「フィーアも気付いてなかっただけさ。あの子は自分のことを捨ててた。あれだけ優秀だったのに、生きてる実感すらなかったかもしれない。人を好きになるとか、恨むとか、反対に誰かに愛されるとか。そういう場面に出くわすような人間じゃないと思ってたんだ。周りがいくら褒めても、彼自身が自分のことを無価値だと思ってたから、耳には入ってなかったろうね」

──コインの裏側。それはまるで自分だとカツミは気づいた。

グラスに口をつけながらユーリーが自責の言葉を繋ぐ。

「フィーアのしてしまったことは、もちろん頂けない。かと言って、今さらそれを責めても意味がない。原因をつくったのは私だしね」
「いえ。俺が悪いんです。俺のせいです」

かぶりを振る相手の罪悪感を消そうとでもするように、ユーリーが軽口を叩く。しかし次には大きく息をつくと天井を仰いだ。

「まったく。どいつもこいつも一方通行。どこかで正面衝突でもしたいもんだな」

──フィーア。纏う呪いを清めしもの。

カツミは知らなかった。なにをどうあがいたとしても、フィーアが短命で終わると決まっていたことを。
双子の魂。コインの裏側。フィーアの死はカツミのために必要なものだった。
それを知るのは、今はまだ一人しかいない。

なんとなく書くなやっ! と思いましたねえ。
この二人の関係は、挟んでいるのは故人だけど恋敵なんですよね。
まずジェイのことを悪く言われればカツミはムッとするはずですし、ユーリーもカツミに同情しつつも言いたいことが溜まっているわけで。
そりゃあバトルになるよなあ。なんとなく書いてたなあと思いましたわ(^^;

このシーン。これまで友人と呼べる関係性をなかなか作れなかったカツミが、ユーリーと本音をやりとりする場面です。変化しているんです。
殴り合ったほうが仲良くなれることってありますね(笑)

言動には根拠がある。ここでも思いました。返って来た原稿みて、叫んでましたねええ(^^;

まあだ、続きまーす(笑)