2年4カ月付き合った彼女と別れて-1日目-

彼女を失った次の日、8月29日木曜日の朝。
起きた瞬間に彼女と別れたという事実が重くのしかかってきた。
起きた直後というのはPCを起動するときのように徐々に色んな情報を思い出すと思うのだけれど、
今日が何曜日とかどんな天気だろうかとか、朝起きて何をしようとか(僕は毎朝楽器の練習をしている)
そういうレギュラーの思考をすべて押しのけて
「別れた」
という事実と絶望が全身を支配する。
寝起きというのは失恋において一番辛い時間の一つだ。
毎朝やっている楽器の練習なんてできたものではない。

その木曜日は某サウンド制作ソフトのセミナーがあり会社に出勤する必要はなかった。
会社から2駅ほど離れた場所に専門学校の一室を借り切ったセミナールームがあったので、
そこで1日座学をするというスケジュールだった。
座学のトピックになっているのは今割とスタンダードなサウンド制作ソフトであり、
僕は以前からそのセミナーに参加するのが楽しみだった。

しかし、失恋した時点で予測はしていたのだがセミナーをちっとも楽しめなかった。
講師がソフトの操作について色々講義をしてくれたのだが、
頭に内容が入ってこない。

昼休憩で同僚の滝さん(仮名)と2人で外食に行った時、

「なんだか、今日元気ないね」

と僕を気遣ってくれた途端、涙を堪えきれなかった。
滝さんは女性だったが、その前で、飲食店の中で、僕は恥ずかしげもなく泣いた。

午後、セミナーが上の空だった僕は彼女の叔父である上杉さん(仮名)に彼女と別れた旨をLINEした。
故郷が東北にある彼女は叔父である上杉さんを実父のように頼っており、
そのため交際がスタートした時点で僕は上杉さんを紹介され、
何度か彼女親族の集まる飲み会にもお邪魔させていただいたことがあった。
他にも彼女のことで何かあれば時々上杉さんに相談していたし、
彼にもこの交際の顛末を伝えるのが筋だと思ったのだ。
あともっと言えば共通の知り合いにこの気持ちを共有し、とにかく話を聞いてほしかった。

わりと長文のやりとりを彼とする中で、以下のようなことを聞かれた。

「もしミキちゃん(仮名、彼女の名前)がEMMEくんに謝ってきたら、君は受け入れますか?」

正直、復縁したいという思いが0%だったかと言えばそんなことはない。
むしろすぐにでも会いに行きたい。0.1秒ごとにそう思っていた。
だが、僕は彼女の性格は2年強の付き合いでよく知っているつもりだった。
時に人間関係に対してドライな時があり、長年の友人でもちょっとしたすれ違いで関係を断つような側面があった。
彼女が僕に対してよこしたLINE、あの感じだと僕に対する気持ちはほぼ残っていないに違いない。
彼女の中に気持ちが残っていない以上、僕がすがっても無駄だし、彼女の方から謝ってくるということもありえない。

そのような旨を上杉さんには伝えた。

その夜、たまたま関西の方から古くからの友人である上倉くん(仮名)がこちらに遊びに来ていたので僕の家に来てくれるように頼んだ。
上倉君はかなり古い友人で一緒に過ごした時間も長くお互いの性格もよく知っている。
信頼できる相談役の友人として僕は彼を選んだのだ。

失恋の痛手から立ち直るためにはなるべく人に失恋の様子を事細かに説明すれば治りが少し早くなるらしい。
メンタリストDaigoの動画でそのような趣旨のことを知ったので、
僕は上倉君に今回の顛末を事細かに話した。

「辛いね」

と前置きした後、彼は言った。

「まぁでも、あんたモラハラ気質あるよね。俺もだけど、俺と別ジャンルで」

何を隠そう彼は2年前に離婚を経験している。
その折もモラハラまがいのことを奥さんに対して発言したらしく、
その見地からの発言だった。
こういう遠慮のないことを言ってくれるから、僕は相談役として彼を頼るのだ。

その日は2人で午前2時ぐらいまで酒を飲み、少しだけ心が軽くなったような気がした。

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