2年4カ月付き合った彼女と別れて-3日目-

8月31日土曜日。
彼女と別れて3日目、遂に恐れていた休日が来た。

今までは休日は常に決まったことをやっていた。
会社に行くのと変わらない時間に起きて楽器の練習をする、曲を作る、本を読む、掃除をする。
それから彼女に家に向かう。
日常の中に彼女が組み込まれていた僕は、彼女を失った今それらの活動の全てに向かう気になれなかった。

午前中、何度か目が覚めたがそのたびに瞼を閉じて惰眠と戯れた。
何かをしなければいけないし、彼女がいない日常を再構築しなければいけないと分かっているが、
だがそれは別にそこまで急ぐことでもないように思えた。
(こんな時ぐらいダラダラしてもいいよね)
と自分に言い聞かせベッドの上でスマホを弄っていた。

「失恋」
「彼女 別れた」
「別れた ブログ」

などで検索し、
どうにか自分の感情に寄り添ってくれる何かを探そうとするのだが、

「彼女と別れたときすべき12のこと」

などのクソのようなトレンドブログばかりがヒットした。
インターネットの情報の質は確実に落ちてきている。
中にはトレンドブログの作者が実際に失恋の体験を綴ったものもあるが、
どれも旅行をしてみろだの、趣味に打ち込めだの、仕事を頑張れだの、散々泣けだの、
恋愛したての小学生ぐらいにしか参考にならないような記事ばかりが出てきた。
だいたいトレンドブログなんてクソの役にも立たないことをやっているから彼女にフラれるんだ、たわけ。
その現状が、僕はこのブログを自分で書いてみようと思った理由でもある。

その日は21時から彼女の叔父の上杉さんと会う約束を取り付けていた。
破局を迎えた次の日に彼にはその旨を連絡しいくらかやり取りもしていたので、
どうせならお会いしませんかと提案したのだ。

水曜日から碌なものを食べていなかったが、
流石にお腹がすいてきたので約束時間の前にケンタッキーを食べた。

待ち合わせにやってきた彼と共に、いつも彼女の親族会で利用していた居酒屋に向かった。
彼女に紹介してもらった彼女の叔父と、彼女抜きで会っているのは妙な気分だった。
今や僕と彼を繋ぐものは何もないのだから。

「EMME君と会う前に、ミキちゃんと電話したよ」

と上杉さんは言った。

「もう本当にEMMEくんとは切れるのか?もう本当に彼に気持ちは無いんだな?」

と改めて彼女に問うたところ彼女は

「わからない」

と答えたそうだ。

「わからないってどういうことだよ!」

と上杉さんは笑っていたが、わからないという気持ちは僕は非常によく理解できた。

同時に、
(「わからない」、ということはもしかしたらまだ復縁の可能性もあるんじゃないか)
という希望が頭をもたげてしまった。
既に書いたように、
彼女は人間関係を割とドライに切るタイプだ。
だから僕に対する気持ちは残っていないと思っている。
「わからない」というただの一言に一縷の希望を見出して縋るような真似はすべきではない。
その希望が否定されたときに、より深い傷を負うことになるから。

僕だって自分の気持ちがわからない。
彼女を失って深く絶望しているのは確かだし、
幸せだった時の二人の思い出をなるべく遠ざけたいと思っている。
でもどちらに進めばいいのか、自分がどちらに進みたいと思っているのかが全くわからないのだ。
戻りたいという気持ちは、正直ありすぎるぐらいある。
だがそもそもの発端となった彼女の後輩に、いま彼女の気持ちは向いているのだ。
僕が出て行ったところでその事実は変えられない。

僕にとって彼女は女性であると同時に子供だった。
会社ではビジネスライクに仕事をこなしているらしい彼女は、僕と2人きりになると子供のような顔に戻る。
僕は彼女の父であり母であるような役割を自分の中で演じていたように思う。
彼女に対する気持ちは恋というよりも、愛情に近かった。

だが彼女の中では相変わらず僕は彼氏のままだったのかもしれない。
恋愛感情が別の人に向けられた時に、「情」が僕に無ければ彼女は僕との未来に幸福感を見いだせないだろう。

23時ごろ上杉さんに礼を言って僕は自宅に戻った。
帰ってペルソナ5をした。フタバパレスまで進んだんだけど、パレスに行くまでのドラマが長ぇよ。

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