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【ファンタジー小説】優しい午後の歌/第二話「父王」

 塔に侵入するなら、舞踏会の日だと僕は目星を付けていた。このコテント国の規模は小さい。しかし、豊かな自然が育んだ資源と鉱脈を所有している。そのおかげで交易は盛んだ。

 小さい規模の国が資金を持つと、ロクなことは起こらない。外交に力を入れるため父王は頻繁に舞踏会を開く。国をあげての他国へのもてなしなので、いつも人手が足りなくて、召使いたちはてんてこ舞いだ。

 従者のラウザーも例外ではない。父王は謁見の間で今回の舞踏会前に、僕とラウザーを呼びつけた。

「次の舞踏会では必ずや、お前の目にかなう女性を見つけねば」

 玉座に座る父は剛毅で女好きで僕とは正反対だ。何せ、正室である母の他に何人もの側室がいる。しかし、これもコテント国の戦略の内だ。他国の姫を側室に据え、人質代わりにする……。コテント国は大陸内部の小国だ。外交の手段とは言え、僕は心底、この父が嫌いだった。
父王の言葉にフイと横を向く僕の様子にラウザーは焦りを隠せない。自分の教育不足だと責められては困るからだろう。

「まだ、あんなことを気にしているのか」

 父王はひじ掛けを叩いて探るような視線を向けてくる。

 あのこと。
 
 あのことは忘れられるはずがない。正室である母の子である僕は、母の手から乳母の手へ渡り、育てられた。世間知らずのお姫様である母にはそのことが理解出来ず、乳母に嫉妬していた。そこに火に油を注ぐように、父は僕の乳母に手を付けたのである。

 そのことを知って怒り狂った母は、乳母をどうしたか。小さかった僕には知る由もない。乳母はナターリアといった。小さい僕は王宮中を探し回ったが、ある日、忽然と姿を消したのである。
それが母と父のせいであると成長と共に知ってからは、僕は両親を信じられなくなった。いつまでもお姫様を気取る母と、国政だといって側室を大量に娶る父にうんざりした。

「お前は次のコテント国を治めるんだぞ。そのことをしっかり覚えておけ」

 「はい」と縮み上がるように返事をしたのは、俺ではなくラウザーだった。ラウザーは慌てて「し、失礼しました」と謝ると僕の方にじとっとした視線をよこす。知るものか。父がその場を退出すると、ラウザーは怖い顔をして僕を振り返った。


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