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さようなら、わさびちゃん

 先月、愛猫のわさびちゃんが亡くなってしまい、最近ようやく少し立ち直ったので記事を書きます。

 家内との結婚前の短い同棲生活で、まだ若かった私たち二人が「暮らしに猫ちゃんが欲しいね」と思い立ち。そして、ふっとやってきてくれた、わさび、そして、さくら。もう、17年も前のことです。


最晩年のわさびちゃん。可愛かったな

 その後、家内とは無事結婚し、まず長男が、次男が、三男が、そして長女が。家族が増えていっても、もっとも長く山本家を見つめていてくれた家族が、わさびちゃんでした。

 わさびちゃんたちとの生活は、夫婦の暮らしに彩を与え、また、まだ幼い拙宅兄妹にとっては「近くにいる、暖かくて柔らかい人間以外の何か」でした。育っていく子どもたちをずっと見ていてくれたんですよね。

山本家に来たての仔猫のころのさくらとわさび

 種は違うけど、彼女は人なのではないかと思うぐらい優しく穏やかで、いろんなものを受け入れてくれた猫でした。まだ幼い長女が乱暴に扱っても怒るでも爪立てるでも逃げるでもなく、ずっと寄り添っていてくれたのが印象的でした。最近になって和解し、匂いをかんだりスリスリしたり友情を深め合っていたんですよね。

 やってきた仔猫のころは、姉妹で少女時代を謳歌し、都心の一等地で一部屋を与えられ、空腹になるとごはんダッシュを繰り返したり、ソファの上で両端に陣取り風神雷神みたいになっていたり、山本家の最古参としてずっと一緒に暮らしてきました。やがてサッシやドアを自力で開けるようになり、我が物顔でベランダを毎日真面目にパトロールしては、ゆったりと過ぎる日々を楽しんでいたようにも見えました。


ガムテープに頭がハマってしまったわさびちゃん

 先に愛妹さくらちゃんが亡くなり、折り重なるように暖め合って寝る姿も見られなくなった一方、拙宅も4人の子どもが自宅の中をうろつくようになると何かと騒がしい兄妹とも親しく遊び、ベランダに出て遠くの景色を眺める時間も増えていました。

 猫として寂しいのもどうかと思い、去年には若い雄の兄弟・ごまちゃんとあんこちゃんを迎えて楽しく過ごしていました。あまり見ぬ同種の年下の猫たちを見て、親しくお世話をし、またよく食べるようになったわさびちゃんを見て安心したものです。

ごはん待ちで集まってくる猫ズ

 2024年は肉親や親戚、お世話になった皆さんをお送りすることの多い年で、年初には実家のチワワの老犬さん太さんの、また実父の、その魂が神の御許に召されていきました。17歳になるわさびちゃんも、高齢からか暖かくした場所で眠っている時間が長くなり、時折、先に逝ったさくらちゃんを思い偲んでか切ない声で鳴くのです。

 普段しない行動を取るようになってから、心配になって近所の獣医さんのところにも連れていきました。丁寧に診ていただいた結果、猫特有の、腎臓も相当弱っていて、また、お腹にも感染による膿のようなものが溜まっているとの診断で、点滴をし、お薬をもらって帰ってきました。しかし、日に日に弱っているような感じが見受けられ、また、私が観に行くとよろよろと歩いて来て、数分すりすりしてくれた後は、寝床に戻っていくような感じになってしまいました。

 そして先月、わさびちゃんは帰らぬ猫となり、虹の橋の向こうに渡って行ったと思います。あやふやな表現になるのは、私自身、わさびちゃんときちんとお別れすることなく、彼女がふっといなくなってしまったからなのです。

 ちょっと事情があって、少し体調の悪そうなわさびちゃんが普段しないことをしたので、いつものように「ダメでしょ」と強く叱っていつもの場所に出し、そこから開いていたサッシからベランダに出たわさびちゃんが目撃された以降、その日も、翌日も姿が見えなくなってしまいました。

お出かけするとき「どこに行くんですか?」と必ず飛んできたわさび

 焦って家じゅう探しましたが、どこにも見当たりません。どこにいったんだ、わさびちゃん…。物置の奥や、屋根裏まで探しましたが、いなくなってしまいました。私もさすがに青くなって、一日中、行きそうな場所に声を掛けて回りました。

 夏の終わりを告げる冷たい雨の降る日、もしやと思ってベランダの真下にあたるマンションの敷地に足を向けてみると、小さなお花が供えられていました。これは…。

 確信はもてないものの、まずはマンションの管理会社に、また港区にも連絡をしようとしますが、土曜でどなたも担当がおられず事情が分かりません。困り果てたもののどうにもならず、月曜まで待って、電話をしたところ、どうも敷地内で猫が死んでいて、住民の通報で区から動物葬を請け負っている業者さんが来て、遺骸を引き取っていったそうでした。

 確かに、普通の人たちであれば、みすぼらしい老猫が死んでいるという感じでしょうが、私たちからすれば、家族である大切なわさびちゃんなのです。

帰宅時の光景。夏は玄関先が涼しいのでにゃんこが常駐し、ドアが開けられない

 祈る気持ちで、もし焼かれていないようであれば、すぐにでも引き取りたい、一目見たいと申し出をしますが… 残念ながら、おそらくわさびちゃんであったであろう身体はすでに灰になってしまっていました。

 私としても、最後にわさびちゃんに掛けた言葉が「そこに入っちゃダメでしょ! 出て!」であって、それが今生の別れになってしまったのが、とてつもないショックで。そして、入ろうとしたのは、わさびちゃんがかつて、さくらちゃんと仔猫のころ目いっぱい遊んで暮らしたお部屋。初期の山本家で過ごした、少女のころの記憶。

 いずれその日は来る、しかし今日ではない、と思いながら、さん太さんも親父も送ることになりましたが、まさかこのような形で、さようならも言えずにわさびちゃんとお別れすることになるとは思ってもみませんでした。私に叱られて、失意のままベランダに出て、誤ってか意図してか落ちてしまったわさびちゃんが不憫でなりません。

 申し訳ないことをしました。

 どうも、まだ立ち直れていないようなのでこの辺にしておきます。



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山本一郎(やまもといちろう)
神から「お前もそろそろnoteぐらい駄文練習用に使え使え使え使え使え」と言われた気がしたので、のろのろと再始動する感じのアカウント