ディケンジング・ロンドン|TOUR DAY 3|デイヴィッド・コパフィールド《2》
『デイヴィッド・コパフィールド』あらすじ
母と乳母ペゴティと幸せに暮らしていたデイヴィッドは義父となったマードストンから過酷な仕打ちを受け、寄宿学校に送られる。個性あふれる人物たちと出会いながら、デイヴィッドは自分の人生の物語を描いていく。
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DAY3最後のツアーは、温室から続いて『デイヴィッド・コパフィールド』ゆかりの場所を三箇所巡ります。
ふたりの青年の人生の旅程に重なる本ツアー。画家・永井健一さまの硬質優美な世界観で綴る圧巻の三連作をお楽しみ下さい。
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スティアフォースとの出会い
養父に辛い仕打ちを受け、厄介払いで送られたセイラム寄宿学校で、デイヴィッドは彼の人生に大きく関わる二人の人物と出会う。一人は、明るく、正義感があり、骸骨の絵を描きながら逆境をやり過ごすトラドルズ。そしてもう一人は、デイヴィッドより6歳ほど年上のカリスマ性あふれる少年ジェイムズ・スティアフォースであった。
美しい容姿に、上流階級特有の鷹揚な態度と気さくな物腰を持つスティアフォースに、デイヴィッドはすっかりまいってしまい、彼に崇拝にも似た思いを抱き続ける。スティアフォースの方もデイヴィッドを「デイジー(雛菊)」と呼んでかわいがる。デイヴィッドの顔もお気に入りのようで、妹がいればきっと目のぱっちりした美少女だろうから紹介してもらうのに、などと発言する。自分をかばってくれ、学校内で特権を駆使するスティアフォースはデイヴィッドにとって英雄だった。
しかし、デイヴィッドの偶像であるスティアフォースには別の一面が存在していた。他の教師と違って、支配階級の彼を特別扱いしなかった貧しくも誠実な教師メルを、身内の恥を公にする形で生徒の前で笑い者にして退職に追い込むなど、スティアフォースは気まぐれで残酷な性質の持ち主でもあった。また、母親同様に下層階級の人間を見下していた。しかし、眠りについた彼の姿を見つめる幼いデイヴィッドの目には、スティアフォースはただただ憧れの存在にしか見えなかった。
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スティアフォースとの再会
青年になったデイヴィッドはチャリング・クロスの馬車宿で、スティアフォースと再会する。デイヴィッドは再会を喜んで、スティアフォースを抱きしめて涙する。喜びを隠せないデイヴィッドに、スティアフォースもまんざらでもない様子で、かわいい顔がまったく変わっていないと言って彼を「デイジー(雛菊)」と呼ぶ。青年としては軽視されているとも取れるあだ名だが、デイヴィッドは不満ではないようだ。
二人は再び親しく交際を始め、スティアフォースはデイヴィッドをハイゲートにある彼の実家に招待し、デイヴィッドもノーフォーク州ヤーマスにあるデイヴィッドの乳母ペゴティの兄の家をスティアフォースと共に訪ねる。スティアフォースの実家に泊まったデイヴィッドが早朝に見たのは、かつて子供の頃によく見たように、片腕に頭を乗せて眠るスティアフォースの姿だった。青年になったデイヴィッドの目にも、スティアフォースはあの頃と変わらぬ憧れの人に見えた。
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スティアフォースの葛藤
誰とでもすぐに打ち解ける才能の持ち主で、いつも明るく表情豊かなスティアフォースだが、時折、自分の気まぐれな性質に苦しみ、葛藤する様子を見せる。デイヴィッドはそうしたスティアフォースの姿を彼の実家で目撃する。自分をもっといい方向に導いてくれる人がいてくれたら、と口にする彼の口調が思いのほか深刻なものであったことに、デイヴィッドは驚く。
スティアフォースを憧れのヒーローだと思い続けるデイヴィッドには、スティアフォースの葛藤がどのようなものであるのか、心から理解することができない。また、彼が何を思って、何をしようとしているのかも想像することができないでいた。スティアフォースはデイヴィッドに対して、自分たちが離れることになっても、いつでもいい時の自分を覚えていてほしいと、予言めいたことを口にする。後になって、デイヴィッドはヤーマスで、スティアフォースの言葉を思い出すことになる。デイヴィッドにとって、スティアフォースはいつまでも子どもの頃と変わらない憧れの存在であり続けた。
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永井健一 | 画家 →HP
大阪大学文学部美学科卒業後に作家活動を開始。個展や企画展等で作品発表をしながら、イラストレーターとしても活動している。画中の人物は、夢現に漂う叢雲の中で願いや想いを折り重ねて結晶化する。book opusとして絵画に詩や写真を織り交ぜた作品も制作している。
熊谷めぐみ | 立教大学大学院博士後期課程在籍・ヴィクトリア朝文学 →Blog
子供の頃『名探偵コナン』に夢中になり、その影響でシャーロック・ホームズ作品にたどり着く。そこからヴィクトリア朝に興味を持ち、大学の授業でディケンズの『互いの友』と運命的な出会い。会社員時代を経て、現在大学院でディケンズを研究する傍ら、その魅力を伝えるべく布教活動に励む。
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作家名|永井健一
作品名|美の温床
作品の題材|『デイヴィッド・コパフィールド』
アクリル・水彩・鉛筆・アルシュ
作品サイズ|15cm×21.7cm
額込みサイズ|33cm×39.5cm
制作年|2020年(新作)
Text|KIRI to RIBBON
主人公デイヴィッドとジェイムズ・スティアフォースは印象的に出会い、美しくも複雑な関係を結んでゆきます。少年期のセイラム寄宿学校、青年期のハイゲイト、そして海辺の町ヤーマス——時を経て、デイヴィッドがスティアフォースの眠る顔を見つめる場面を描き分けた三連作をご紹介します。
美しい容姿と悪魔的な一面を併せ持つ魅惑のスティアフォース。デイヴィッドの視線に伴走しながらも、永井さまの透徹の視線はその奥を見据えます。
少年期のセイラム寄宿学校で見つめたのは、月光射す湖面のように澄み渡る寝顔。画家の絵筆は、月光までも動揺する美を青の揺らぎの中に沈静させています。
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作家名|永井健一
作品名|燃ゆる辺
作品の題材|『デイヴィッド・コパフィールド』
アクリル・水彩・鉛筆・アルシュ
作品サイズ|19.5cm×27.8cm
額込みサイズ|33cm×42cm
制作年|2020年(新作)
青年期に再会したスティアフォースにも変わらぬ憧れを抱くデイヴィッド。湖面の青で魅せた《美の温床》に対して、スティアフォースの母親が住むここハイゲイトでは、燃える色彩へと筆を持ち替え、炎の中に青年の美を描き出します。
熱を帯びる色彩でありながら、その奥にゆらめくスティアフォースに変わらぬ青の沈静を感じるのは、過去の湖面がデイヴィッドの中に強固に存在しているから。
青の詩情を別の色彩で奏でる永井さまの美の五線譜たる一作。
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作家名|永井健一
作品名|silent waves
作品の題材|『デイヴィッド・コパフィールド』
アクリル・水彩・鉛筆・アルシュ
作品サイズ|20.7cm×15cm
額込みサイズ|39.5cm×33cm
制作年|2020年(新作)
ロンドンを離れ、ノーフォーク州の海辺の町ヤーマスに来ました。潮の香りが鼻腔を抜けてゆき、新しい土地の物語が始まる予感を覚えます。
最後に出会ったスティアフォースは、美しい寝顔のままに深い青に沈んでゆく姿。少年期の詩情が予言のように反響する青に、永井さまの絵筆はレクイエムのようにうっすらとモーヴ色を重ねます。
ちいさなデイジー(雛菊)は餞として画家が添えたもの。潮風に乗る花びらを見届けて、ロンドンへとまた戻りたいと思います。
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★永井健一さまの他の作品★
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★作品販売★
通販期間が当初の告知より変更になりました
12月7日(月)23時〜販売スタート
★オンライン・ショップにて5%OFFクーポンが利用できます★
本展のオンライン開催方法と作品販売については
以下をご高覧ください
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