菫色の実験室vol.5|藤本綾子|菫のための花瓶と菫色の酒器
菫色の実験室への訪問も、明日までとなりました。
毎年、終わりが近づくにつれて、この一年と次の一年へ思いを馳せます。研究員たちによって密やかに遂げられた一年間の成果を最初に拝見し、日誌を集め管理し、雇い主に報告する者として、どのように報告するのが最適か——日々迷いながら、職務を遂行しています。
迷いつつも、「観ることの力」を信じています。
研究員たちが知力とセンスと能力の全てを賭して成し遂げたものであるならば、それと同じパワーで、及ばずながらも知力とセンスと能力を総動員して、「観ること」を成し遂げたい——ここに書き留めた記述は、不束ながらも観ることの力を信じた記録です。観る人の数だけ存在する、数多の記録の中のひとつに過ぎませんが、美を繋いでゆく一歩であることも信じています。
比類なき研究員たちへの敬愛の証として、観ることの力を信じ、次の一年へと新しい一歩を踏み出してゆきたいです。
スミレの香りはいつも、ニュートラルな状態で訪問者を向かい入れてくれました。どのような心象風景の時も、ひとたび青々しい香りに触れれば、たちまちリセットされて、はじまりの場所に立つことができます。
今日は、一筋の、迷いのないスミレ花の香りに誘われました。
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——ふたたび、白の部屋に出会いました。
深い菫色の夜の中に、白の空間が浮かんでいます。スノーホワイトではなく、まろやかな乳白色が、夜に包まれてぼんやりと存在していました。
空間には白以外何もなく、あるのはただ一筋のスミレの香りのみ。ここではいったいどのような実験が行われているのか———白に包まれながら、しばらくの間、様子を伺っていました。
一方から、月明かりが差してきました。
するとどうでしょう。白の空間から、一筋のスミレの香りを追うように、幾筋もの陰影が生まれてゆきます。それは、規則的でありながら、時に弧を描き、ひねりを加えられ、凹凸を呼びながら、次々に美しい模様を描いてゆきました。
まるで月光の魔法のよう———陰影のみで描かれる、時にエキゾチックで、そこはかとなくフォークロアな模様が、白という洗練により、極めて現代的な造形として迫ってきます。
ここでは、白という陰影の実験が、行われていました。
やがて、白の中にスミレの香りが重なりました。
馨しい一筋は、白の陰影に寄り添うように、諧調を微妙に変化させながら白を包んでゆきます。
スミレの香りを得た白の陰影は、模様を描いた後に閉じられ、ひとつは花瓶に、ひとつは酒器へと造形されました。
卓越の技と、洗練の造形感覚——まるで人の手が入っていないような、「月光の魔法」と結論付けた方が納得するような、孤高の工芸品がこの世には存在します。
一筋のスミレの香りに誘われて、菫色の夜に出会った月光の魔法。人の手の確かさがあればこそ生まれる美の神秘。
煌々とした月明かりを白衣の背中に浴びながら、厳かな気持ちで、白の実験室を後にしました。
藤本綾子 | 陶芸家 →HP
透光性の土を使った白を基調とした作品を制作。型は使わず全て轆轤で作る一点物になります。[作品展]年2回[受賞]2017年「第25回テーブルウェア大賞」オリジナルデザイン部門優秀賞。
Instagram: @fujimotoayako_pottery
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作品名|菫の為の花瓶(A・B)
磁器
制作年|2020年(新作)
*サイズなどの詳細はオンライン・ショップに記載しています
洗練の造形とノーブルな質感持つ磁器製のちいさな花瓶は、1点1点ろくろで制作されています。白のモダニティの中に、時にエキゾチックな造形感覚が調和し、比類なき作品を発表し続ける藤本さま。
マットと艶ありの質感違い、白と菫色のバイカラーも素敵な一作。お花を生けるだけでなく、そのまま飾っても絵になります。表情の異なるいくつかを組み合わせて飾るのもおすすめです。
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作品名|菫の為の花瓶(C・D)
磁器
サイズ(C)|高さ9cm×直径6cm
サイズ(D)|高さ8cm×直径5.5cm
制作年|2020年(新作)
*サイズなどの詳細はオンライン・ショップに記載しています
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作品名|菫の為の花瓶(E・F・G)
磁器
制作年|2020年(新作)
*サイズなどの詳細はオンライン・ショップに記載しています
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作品名|菫の為の花瓶
磁器
制作年|2020年(新作)
*サイズなどの詳細はオンライン・ショップに記載しています
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作品名|菫の為の花瓶
磁器
制作年|2020年(新作)
*サイズなどの詳細はオンライン・ショップに記載しています
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作品名|菫色の酒器(6種)
磁器
容量|約60cc
制作年|2020年(新作)
*サイズなど各作品の詳細はオンライン・ショップに掲載しています
花瓶と共に、酒器も届きました。洗練の造形とノーブルな質感持つ磁器製の作品は、1点1点ろくろで制作されています。白のモダニティの中に、時にエキゾチックな造形感覚が調和し、比類なき作品を発表し続ける藤本さま。
マットと艶ありの質感違い、白と菫色のバイカラーも素敵な一作。酒器としての実用性がありながら、飾っておくだけで絵になるシリーズです。
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作品名|菫色の酒器
磁器
容量|約60cc
制作年|2020年(新作)
*サイズなど各作品の詳細はオンライン・ショップに掲載しています
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