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二人展《空はシトリン》|永井健一|光彩を纏う空

 淡い色合いを用い、風景にきらめく生命の瞬きを描く永井健一さまの作品が、宮沢賢治の詩群と溶け合います。

二人展《空はシトリン》会場風景(以下同)

 最初の作品は、企画展のタイトルともなった「空はシトリン」が含まれた詩に捧げる一作。何度も口ずさみたくなるような繰り返しによるリズムが楽しくもせつないこの詩を、絵画の中の幾層もの重なりが連想させます。

 シトリンが降り注ぐ空。地平線が幾重にも交わり、すれ違い、繰り返していく。動物、人間、植物がそれぞれ運命に揺れながら生きる。それぞれ異なる地平を生きながらも、安らぎに満ちた人間の姿が理想郷(イーハトーブ)を思わせます。

 二作目は、「高級の霧」を題材とした絵画作品。見慣れた風景が一瞬の輝きに満ちる時間が幻想的に描かれています。

 霧に乱反射して舞い踊る光。その中央に、白虹だろうか。輝く白い馬が一頭いる。その身体も霧の中で明滅している。ところどころに散りばめられた宝石のような菫色が眩しさに潜む寂しさを語るようだ。

 三作目は、亡き妹の姿を描いた詩「無声慟哭」から。

 青ざめた草。金色の液体となって流れる太陽。最期にこんもりと盛った雪の一椀。二人が共に生きた証となる土地の風景と記憶が流れていく。兄を想ってか悲しげに鳴く白い鳥は、次はどんな生を巡るだろうか。

 草原の中に寝そべり、賢治を思い起こさせる帽子の似合う一人。彼に向かうのは、一匹の蜂。多色が織り混ざる風景の、柔らかな筆致の中で、生の極限の喜びと痛みが混在する。

 賢治の書いた心象風景を輝く筆致で描き出した4作をお楽しみいただけましたでしょうか。生の「寂しさと煌めき」をテーマに制作される永井さまと、宮沢賢治の描いた詩の世界は、溢れる感情の両面を描いた点で反射しあいます。

永井健一|画家 →HP
大阪大学文学部美学科卒業後に作家活動を開始。個展や企画展等で作品発表をしながら、イラストレーターとしても活動している。絵画に詩や写真を織り交ぜた作品「book opus」やオブジェ作品の制作、演奏会の映像演出など作品発表の形態は多岐にわたる。近年は、生の“寂しさと煌めき“をテーマに制作している。

維月 楓|詩人・英米文学研究者・翻訳家 →Twitter
幼少期より言葉が織りなす世界に魅了され、現在は詩作を行いながら英米文学の研究を行う。古今東西の女性詩人の作品を読み解くことを通して、彼女たちの人生の軌跡に敬愛を捧げている。



作家名|永井健一
作品名|空はシトリン

アクリル・水彩・色鉛筆・アルシュ水彩紙
作品サイズ|26cm×35.5cm
額込みサイズ|48.4cm×59.9cm
制作年|2022年(新作)

作家名|永井健一
作品名|聖白馬

アクリル・水彩・色鉛筆・アルシュ水彩紙
作品サイズ|32cm×20.5cm
額込みサイズ|45.7cm×38.1cm
制作年|2022年(新作)

作家名|永井健一
作品名|透明な雪

アクリル・水彩・色鉛筆・アルシュ水彩紙
作品サイズ|32cm×20.5cm
額込みサイズ|57cm×48cm
制作年|2022年(新作)

作家名|永井健一
作品名|鈴谷平原

アクリル・水彩・色鉛筆・アルシュ水彩紙
作品サイズ|15.5cm×22.5cm
額込みサイズ|26cm×32cm
制作年|2022年(新作)

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