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大合唱と、爆弾と、断末魔と(未来のわたしとの交換日記7.29)

朝、セミの大合唱がモーニングコールだった。
少し汗は書いたけど、過ごしやすい夜だった。ベッド横のカーテンは、涼しい風に膨らんでいて、暑くもないのに、目覚ましの後に聞いた声はセミで。夏の声がしたのに、涼しくて少し暗い室内に、少し視界が青くなる。


夜、一仕事終えて、吹奏楽プレイリストの「宝島」を聞きながら、軽やかな足取り家路を急いだ。
住宅街を進み、ナイトランナーの多い小道に出た。外灯の明るさにホッと一息ついた時、視界の端でセミ爆弾の音がした。まだ7月の終わり、夏の終わりにはまだまだ早い。セミの声がした方を振り返ると、一匹の猫と目があった。子猫というには大きい、成猫と言うにはまだ小さい気がする大きさの猫だ。毛はなんだかもっさりしていて、家猫ではない、野生の雰囲気があった。明かりの下、何かを押さえつけながら咥えようと格闘している。ばちばちという音は、そこから聞こえる断末魔だった。セミ爆弾の音は、夏の終わりを告げる声だけど、セミの断末魔は夏の始まりを告げる声なのかもしれない。


キンキンに冷えたビールの喉越しを求めて急いだ帰り道。なんだか、居心地が悪くなった。口元をばちばち言わせながら静かにこちらを見る猫。ぞっとした。静かに歩を早めるわたしの後を、少しの間ついてきた。ばちばち、じー、ばちばち、じー。猫の姿が見えないのに、音だけが近づいてくる。思わず振り返る。怖かった。生きる、を見た気がした。たった数メートルだったけど、帰り道は、その記憶だけになってしまった。




未来のわたしとの交換日記
7月29日セミの声に夏を感じたわたしより

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