④田坂広志「21世紀の資本主義」を語る。読書メモ

【第十六話】参加型経済は「民主主義」の意味を進化させる。

参加型経済の本質を見つめるとき、そこに「民主主義」の根本的なパラダイム転換が起こっていることに気がつく。2つの意味における転換である。

①民主主義とは、政治の分野の言葉として考えられてきたが、「経済」や「文化」の分野においても重要な意味を持つようになる。
②これからの時代の民主主義は、社会の「変革」に直接的に参加することを意味するようになっていく。

これまでの社会。
一部の優秀な人や企業家がイノベーションを起こし、多くの人が、受動的に恩恵に預かる。

これからの社会。
多くの人が自らの知恵やアイデアを使って経済のイノベーションに参加する。

この経済分野における「イノベーションの民主化」の動きは、必ず文化の分野、政治の分野におけるイノベーションの民主化を引き起こす。

多くの人々が、「文化の変容」「政治の変革」い積極的に関わっていく時代を切り拓いていくだろう。

【第十七話】「無限成長経済」から「地球環境経済」への進化

これまでの経済は「無限の空間」「無限の資源」の幻想を前提とした「無限成長経済」と呼ぶものだった。そのため、際限なきGDP成長を求め続ける政府の姿や、際限なき増収増益を求める企業の姿になる。

地球環境問題に直面している今、これからは経済システムを「有限の空間」「有限の資源」を前提とした「地球環境経済」と呼ぶべきものへと転換していかなければならない。

そのためには、「経済」とは何か。「成長」とは何か。「資本」とは何か。「豊かさ」とは何か。「幸せ」とは何か。を再定義することが必要。

「経済」や「成長」を単に「マネタリー経済」(貨幣経済)だけの成長ではなく、貨幣で評価できない「ボランタリー経済」(自発経済)や「知識経済」をも含めた成長として再定義すること。
「資本」や「豊かさ」という言葉を、単に「貨幣資本」で評価される豊かさだけでなく、「知識資本」「関係資本」「信頼資本」「評判資本」「文化資本」「共感資本」などの貨幣で評価できない資本をも含めた豊かさとして再定義すること。
「幸せ」という言葉を、単に「現在の世代」の幸せだけでなく、「未来の世代」の幸せを含めたものとして再定義すること。

そうした形で「経済」「成長」「資本」「豊かさ」「幸せ」といった言葉恩新たな意味を定め、その定義に基づいて新たな経済の思想を創出していくことで「地球環境経済」へのパラダイム転換を実現する。

【第十八話】世界の「新たな価値観」は、日本の「懐かしい価値観」

経済のパラダイム転換に伴って、どのような「価値観の転換」が求められるのか?

「無限」から「有限」への価値観の転換。
「無限の空間、資源、成長」前提の価値観から、
「有限の空間、資源、成長」前提の価値観への転換。

これらの価値観は、狭い国土で乏しい資源を節約するための「もったいない」「有難い」といった精神や、「知足の精神」「清貧の思想」などを生み出してきた。

江戸時代には、当時の世界水準より高度な環境都市を実現していた。
節水技術、資源リサイクル技術、廃棄物処理技術、自然保護技術など。

地球環境問題、世界経済危機、国際的な政治不安、貧富の差の拡大、民族紛争の頻発、テロリズム、パンデミックなどグローバルの諸問題が深刻化する中で、我々人類に求められている「新たな価値観への転換」そのものが日本にとっては「懐かしい価値観への回帰」に他ならない。

新たな価値観の転換は、5つの価値観の転換である。

①「無限」から「有限」へ
②「不変」から「無常」へ
③「征服」から「自然(じねん)」へ
④「対立」から「包摂」へ
⑤「効率」から「意味」へ

【第十九話】日本が世界をリードする5つの価値転換

①「無限」から「有限」へ
「もったいない」「足るを知る」といった価値観

②「不変」から「無常」へ
欧米的な価値観は、「絶対的な神」「永遠の真理」といった言葉で「不変」を価値としていた。現在は「マウスイヤー」と言われるぐらい変化の早い時代に入っており、変わりゆく価値観にしなやかに適応することが必要
日本の「諸行無常」という物事は常に変わりゆくという「無常観」がある。

③「征服」から「自然(じねん)」へ
欧米的な価値観は自然を「征服」「制御」だったが、地球環境問題への直面でそれが不可能であることを知り、自然との「共生」を重視する価値観に変化している。日本では自然を「征服」の対象としないばかりか「共生」の対象とさえ考えなかった。
日本においては、自然を「対象」とは見なさず、自分自身が自然の一部であるという「自然(じねん)」の思想が育まれてきた。

④「対立」から「包摂」へ
欧米的な価値観は、真偽、善悪、美醜、などの「二項対立的」に捉える。
日本的な価値観は、「大乗仏教」や「八百万の神」の思想のように、異なった様々な価値観を寛容に受け入れ、包摂していくものである。

⑤「効率」から「意味」へ
欧米的な価値観は、物事を「速さ」「大きさ」「強さ」といった「効率」の観点から評価する傾向が強い。
日本的な価値観は、「遅いこと」「小さなこと」「弱いこと」にも大切な「意味」を見出すものである。
「急がば回れ」「大器晩成」「一寸の虫にも五分の魂」「一隅を照らす、これ即ち、国の宝なり」「真の強さとは、自身の弱さを知ること」といった思想。

【第二十話】21世紀、日本が牽引する世界の新たな文明

「人類の文明は、これから、どこに向かうのか」

「螺旋的発展の法則」で古く懐かしい文明が、新たな価値を伴って復活してくる。アジアの世紀。
「対立物の相互浸透の法則」で対立するかに見える東洋文明と西洋文明が互いに融合していく。アジアでの欧米の科学や資本主義を取り入れながらも自国の文化と融合させていること、シリコンバレーのような最先端の地での禅や仏教、タオイズムの東洋思想が広く受け入れられていることなど。

では、世界の文明がこうした変容を遂げていくとき、この日本が果たすべき役割とは何か?

①日本は東洋文明の中でも、最も深く洗練された、精神、思想、文化を持っている国である。
仏教の系譜で「禅」という最も純化された仏教をさらに深化させている。その思想は茶道、花道、俳句などを通じ人々の生活にまで浸透している。
自身の足下にある東洋的・日本的な精神、思想、文化にこそ光を当て、世界に伝えていかなければならない。
②日本は「和魂洋才」という言葉に象徴されるように西洋文明を積極的に取り入れながらも、それを鵜呑みにせず「日本的スタイル」や「日本型システム」に変容させてきた。
そして、この国は「大乗仏教」や「八百万の神」の国であり、多様で多彩な精神、思想、文化をしなやかに取り入れ、共存させ、見事に融合させていく叡智を持った国である。
これから西洋と東洋の文明の融合が起こるとき、この日本という国こそが、その融合の舞台となっていかなければならない。

そして日本がこの歴史的使命に取り組むとき、我々は、過去の歴史の中で、この国が育んできた、精神、思想、文化の根底に、これからの時代、世界のすべての国が体現すべき大切な二つの価値観が宿っていることに気が付くだろう。

謙虚さ、そして、寛容さ。

21世紀の世界に求められるものは、究極、その2つの価値に他ならない。

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