見出し画像

社長のパワハラを内部通報制度で止める方法

ある企業の不正会計事件の際、経営幹部が従業員に対し、パワーハラスメントともいえる無理な目標を課す行為が「チャレンジ」と呼ばれて話題になりました。

また、財テク投資の失敗による巨額損失を、経営トップが介在した「飛ばし」行為によって、20年間にわたって隠し続けた事件もありました。

このような、経営幹部による不正行為は、従業員が不正行為を認識していたとしても、なかなか声を上げることができず、経営幹部から指示を受けて不正行為を実行した従業員が「懲戒処分」という最悪の代償を受けることもあります。

また、経営幹部による不正事件は、従業員の不正事件とは比較にならないほど、レピュテーションリスクが一気に高まるだけでなく、組織の屋台骨を揺るがしかねない大問題に発展しかねません。

そこで、今回は、経営幹部による不正行為を、組織全体で早期に把握し、被害を低減するため
●内部通報制度の設計例
●内部通報制度を設計する際の留意点

について解説しますので、ぜひ最後まで、ご覧ください。

■「指針」および「指針の解説」からの要請事項

「指針」(※1)および「指針の解説」(※2)においては、「組織の長その他幹部(※3)からの独立性の確保に関する措置」として、次の考えが示されています。

●組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置

「内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に係る公益通報対応業務に関して、組織の長その他幹部に関係する事案については、これらの者からの独立性を確保する措置をとる。」

「組織の長その他幹部が主導・関与する法令違反行為も発生しているところ、これらの者が影響力を行使することで公益通報対応業務が適切に行われない事態を防ぐ必要があること、これらの者に関する内部公益通報は心理的ハードルが特に高いことを踏まえれば、組織の長その他幹部から独立した内部公益通報対応体制を構築する必要がある。」

このように、独立性を確保した実効性の高い内部通報制度を構築し、経営幹部による不正行為の暴走を止めることは、公益通報者保護法「指針」および「指針の解説」といった法令から要請されたコンプライアンス経営の必須の対応といえます。

(※1)指針
公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(令和3年内閣府告示第118号)

(※2)指針の解説
公益通報者保護法に基づく指針(令和3年8月20日内閣府告示第118号)の解説

(※3)幹部
役員等の事業者の重要な業務執行の決定を行い、またはその決定につき執行する者を指す。

■内部通報制度の設計例

1.社外取締役等による通報受付窓口を設置する。

現役の従業員や退職者からの通報や相談を受け付ける窓口として、「内部通報受付窓口」や弁護士等に委託し設置した「外部通報受付窓口」とは別に、社外取締役監査機関(監査役、監査等委員会、監査委員会等)(以下「社外取締役等」という。)に受付窓口を設置し、高い独立性を確保する制度設計です。

【制度設計上の留意点】

●社外取締役等が、常時、電話番をすることは現実的ではありませんし、社外取締役等の負担を考慮して、通報受付手段をメール手紙に限定することがよいでしょう。

●通報受付段階において独立性を確保するとともに、調査業務および是正措置業務においても、社外取締役等の主導のもとで実施するといった独立性を確保する制度設計が必要です。

●社外取締役等が行う通報受付業務、調査業務および是正措置業務の負担を考慮して、当該業務をサポートするスタッフを確保する必要があります。

●現役の従業員や退職者が、当該事案は「内部通報受付窓口」・「外部通報受付窓口」・「社外取締役等の受付窓口」のうち、いずれの窓口に通報・相談すべきか判断に迷わないようにするため、「社外取締役等の受付窓口」の受付対象事案を、例えば「経営幹部による不正行為事案とする」等、明確に規定しておく必要があります。

2.「外部通報受付窓口」を通報受付窓口にする。

経営幹部による不正行為事案の通報受付窓口を、弁護士等に委託し設置した「外部通報受付窓口」とすることで、通報受付段階において経営幹部からの独立性を確保する制度設計です。
この場合、「外部通報受付窓口」が受け付けた内容を社外取締役等に連絡することを義務付ける制度設計がよいでしょう。

【制度設計上の留意点】

●委託を受けた弁護士等が関与することで通報受付段階の独立性を確保するとともに、調査業務および是正措置業務においても、社外取締役等の主導のもとで実施するといった独立性を確保する制度設計が必要です。

●社外取締役等が行う調査業務および是正措置業務の負担を考慮して、当該業務をサポートするスタッフを確保する必要があります。

●現役の従業員や退職者が、当該事案は「内部通報受付窓口」・「外部通報受付窓口」のうち、いずれの窓口に通報・相談すべきか判断に迷わないようにするため、例えば、「経営幹部による不正行為事案は、「外部通報受付窓口」に通報・相談する」等、明確に規定しておく必要があります。

3.「内部通報受付窓口」を通報受付窓口にする。

経営幹部による不正行為事案なのか、それ以外の事案なのかを区別することなく、「内部通報受付窓口」が全ての通報や相談を受け付ける制度設計です。
この場合、「内部通報受付窓口」が受け付けた内容を社外取締役等に連絡することを義務付ける制度設計がよいでしょう。

【制度設計上の留意点】

●「内部通報受付窓口」が受け付けた通報や相談が、経営幹部からの圧力でもみ消されてしまうことがないよう、内部通報受付業務従事者には、規定上明確な権限を与えるとともに、調査業務および是正措置業務においても、社外取締役等の主導のもとで実施するといった独立性を確保する制度設計が必要です。

●社外取締役等が行う調査業務および是正措置業務の負担を考慮して、当該業務をサポートするスタッフを確保する必要があります。

以上を踏まえ、自社の「内部通報制度」の構築に向けた取組みを加速していきましょう。

福田秀喜(行政書士福田法務事務所)

【追伸】

【改正公益通報者保護法に対応】
モデル規程をベースに内部通報制度の構築をスタート!
WCMS認証の取得で企業ブランド向上!

【追伸2】

この記事の内容は、YouTubeでも紹介しています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?