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『マリーアントワネットの日記』 吉川トリコ

*以下ネタバレを含みます

次に読む本に悩むと覗く、文学ユーチューバーに紹介されていた一冊。フランスの歴史を知っていても、知っていなくても1度は「マリーアントワネット」を聞いたことはあるのではなかろうか。

傲慢でわがまま、金を使いまくりフランスを破産に追い込んだとか。ドラマチックで豪華絢爛な彼女の人生は、死後も煌びやかに飾り立てられる。

いつも図書館で本を借りているが、この本は表紙がラブリーなパステルカラー。ど真ん中に鎮座するマリーちゃんは、少女漫画を思い出す儚げでキュートな絵柄。仕事着で受け取りに行った時にほんの少しだけ恥ずかしかった。


上巻 Pink


内容は「日記」というだけあって、マリーがフランスに嫁ぐ頃からマリー自身の言葉で綴られる。史実に沿って書かれているが、そんなことよりも文体が面白すぎる。ユーチューバーも言っていたが、ネットスラングや今の若者たちが使う言葉がふんだんに盛り込まれているのだ。天真爛漫な彼女が使う「マジでありえない」「アゲなんだけど」「w」は読者の脳内で元気に再生される。

上巻はフランスに嫁ぐ彼女が逆らえない政略結婚に諦め、それでも目一杯ワクワクする気持ちから始まる。フランスでの生活と出身地オーストリアとの生活のギャップに「ガチ意味わかんない」と度々毒吐きながら、小さなプリンセスは新婚生活を送る。

彼女から見た登場人物も面白く、夫のルイ16世は内向的で口数が少ない。手を出してこないからヤキモキする様に、見てるこちらも同情してしまう。現国王のルイ15世は女好きの「キモ親父」。言いたい放題である。異国の姫君は未婚の叔母様方に可愛がられ、ベルサイユ人たるものが如何なるものかを学んでいく。

子供ができないことに悩み、ルイ16世の兄弟夫妻が次々と出産することに焦り、シャイなルイ16世に絶望して暴飲暴食。おまけにコルセットを脱いで、きっちり決まったプリンセスのスケジュールもボイコット。「もう知らね」とやけになる彼女に「いいぞ、もっとやれ!」と声をかけたくなってしまう。女としての定めに辟易して、自由に振る舞うマリーの気持ちがひしひしと伝わる。

上巻はルイ15世の死と、新国王の誕生で幕を閉じる。


下巻 Blue


下巻でのマリーは子供を4人も産んでいる。子育てに勤しむ中で、彼女はパリでの舞踏会と夜遊び以外の癒しを見つける。実家のオーストリアを思い出させる自然そのままの庭と、地味で着心地の良い洋服。子供たちと自然を駆け回って眠りにつく。やっと心落ち着かせる場所を見つけたようだった。

しかし、フランスの借金は膨らみ、聡明で純粋なルイ16世を苦しめる。国民を思って国民の声を聞こうとした国王も、所詮国民にとっては「王族」で憎む対象となってしまう。マリーも例外ではない。目立った愛人のいないルイ16世に対する不満を国民がぶつけるのは、隣にいる美しく着飾ったマリーだった。ありもしない噂を書き立てられ、好感度はどんどん下がる。

国王の妻になることを選んだのは彼女ではない。彼女が1人でフランスにやって来て、しきたりや人間関係に四苦八苦しながらもやっと見つけた幸せも、「王族」であったために奪われたのかもしれない。


クライマックスでベルサイユから追われ、狭い住居で抱きしめ合う1つの家族を見て、なんとも言えない気持ちになった。


マリーは死に際に、頭の中の日記へ14歳の頃と何も変わらない冗談を語りかける。軽やかに、エレガントに、処刑台へ登ってやろうと意気込んで美しく微笑んだ。その明るさに胸の奥がぎゅっとなる。上下2つの日記を通して、私自身もすっかりマリーの友達になってしまっていたみたいだった。



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