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たっぷりたらこ

今日サイゼリヤで昼メシを食いましてね。

図書館に、予約していたCDを取りに行った帰りの出来事でした。

当初は家に帰ってからなんか作って食べようと思ってたんですが、今日は朝から何も食ってなかったし、外は暑くてわたしはバテてるし、ちょうどその図書館の受け取り窓口と家との中間くらいにサイゼリヤがあったんで、あぁもうお昼はここで食べて帰ろう、と思ったんです。

サイゼリヤは最近メニューが新しくなりましてね。

知ってます? 「真イカのパプリカソース」がメニューから無くなったの。冷凍イカの漁獲高が安定しないんで取り扱い終了になったそうです。あれとワインのちっちゃいデカンタ頼んで、エアコン効いた店内で延々ダベって税込400円しないんですよ、もうそれが味わえない。ありがとう真イカのパプリカソース、君を忘れない。

んで何を頼もうかなと思ってたら、ピザメニューが新しくなっている。なんとなんと「たっぷりコーンのピザ」はじめ、新手のピザがいる。ならばいっちょこいつを頼んでみようじゃないかと、その「たっぷりコーンのピザ」を注文。

それともう一品、腹減ってるんでここは炭水化物をぐいと推そうと思って、「タラコソースシシリーノ風」と、それからデカンタの白ワイン、250mlを注文しました。

そんでもって、サイゼリヤは炭酸水が無料なんですよ。白ワインに炭酸水混ぜてスプリッツアーで飲んではいかがですか? なんて誘い水をかけてくる。おうじゃあそれもらおうかいってんでドリンクバーに行くわけですけれど、ここで沸く若干の背徳感がまた良くてね。

だってわたしはドリンクバーを注文してないわけですよ。あのボタンってのは、ドリンクバーを注文した高等遊民のみが押せるボタンだったはずで、それをこんな、貧民窟で暮らしている、機械伯爵にお母さんを殺された、いつかは自分も機械の体を手に入れて永遠の時を過ごすんだって、他の人から言わせれば寝言は寝て言えって吐き捨てるように叱責されても仕方がない佇まいのわたしがそのボタンを押せる。ひょっとしたらドッキリカメラ? それとも押すなり近所の駐在さんがピピーピピーと笛を鳴らしつつ「チミチミー!! なんということをしてくれとるんだね!!」と駆けつける?

いえいえご心配めさるな。無事、わたしの白ワインは誰にも咎められることなくスプリッツアーになりましたゾ。

あの夏に乾杯、そう思いつつスプリッツアーを呑んでいると、頼んでいた料理が来ました。

「お待たせしました、"たらこクリームのピザ"になります」

ん? わたしが頼んだのは"たっぷりコーンのピザ"だったはずだが?

間髪入れずに次が来る。

「お待たせしました、"タラコソースシシリーノ風"になります」

おい!! 確かにわたしはタラコくちびるだが、いくらなんでも「あなたはタラコくちびるですのでタラコ以外食べないように」って医者から警告と所見もらったわけじゃねえよ!!

一瞬カッとなったのですが、いやいや待て、ここはひとつ、「ご注文の品以上でお揃いでしょうか」という宣告とともに置かれる伝票を確認し、「すいませんピザはコーンのやつを頼んだんですけど」とウェイトレスへクレームを入れようじゃないか、そう考えました。

置かれた伝票を手に取ると、そこには、

・タラコソースシシリーノ風
たらこクリームのピザ
・デカンタ白 250ml

と書かれていたのです。

いや、そんなはずはない。わたしは確かに「たらこのパスタ」と「コーンのピザ」を頼んだはずだ。

ウェイトレスを呼び止めて、ランボー怒りの涙目で注文が違います、と叫ぼうかと思いました。人質救出のミッションを遂げたのに、ランテブーポイントから去ったヘリに対する怒りが忘れられず、本部に帰って機関銃で部屋中のコンピューターというコンピューターを破壊し、嫌な上司の耳元にサバイバルナイフをブッ刺して「任務完了」と吐き捨てるように言ったあとアメリカまで歩いて帰ろうかと思いました。

しかしその一方で、「ひょっとしたらわたしは本当に両方ともたらこ味を頼んだのでは?」という懸念も湧きます。
「攻殻機動隊」のあのゴミ収集車の職員のように、本当はわたしはコーンピザなんか頼んでいないのがこの現実世界なのでは……そう考えるとこの熱転写プリンタシートに印字された「たらこクリームのピザ」の文字を見るだけで涙が出て仕方がありませんでした。

……よしわかった、戦争だ。

一旦はそう思いましたが何せ相手は「タラコソースシシリーノ風」を配下に置くイタリアンレストランです。シシリーノとはイタリアのシチリアのことで、シチリアといえば「ゴッドファーザー」に出てくるマフィア、コルリオーネ一家の故郷です。

もしわたしがここで、「あの、すいません、たしか、ピザのほうは、コーンのやつを頼んだはずなんですけれど……」と言い、それを聞いたウェイトレスが「これは失礼しました」と当初所望していたピザと取り替えてくれたとしても……その後、何が待っていることか。その店のデシャップの後ろではどんな会話が交わされているか。

ひょっとしたら、店を出たあと何の気なしに乗った自動車が爆発するかもしれない。

ひょっとしたら、朝起きてシーツをめくった足元に馬の首が転がっているかもしれない。

そう考えると血の気が引いてもう何も言えず、パスタをフォークに巻こうとするのですが、それはもう手が震えて震えて、フォークがカチカチとなんども皿に当たって音を立てるし、「マナー違反だ、あぁこれはマナー違反だ」という焦燥が脳内でうわんうわんと渦巻きながらも、なんとかそれらを平らげたのです。

お会計をすませ、店を出て帰路に着いたのですが、ひょっとしたらわたしのこのオーダーミスに対する怒りに感づいた店員がわたしのあとをつけ、早足でわたしを追い越したかと思うと「スカーフェイス」のアル・パチーノのような険しい表情をして振り向きざまに拳銃を乱射し鉛の弾をバンバンとわたしの体に撃ち込むのではないかという妄想にもとりつかれ、それを避けるべく平静を装い帰りつつも普段通らない人通りの多い道を歩いたり、フェイントをかけてセブンイレブンに入ってみたり、またそこでいつもはSサイズを買っているコーヒーを今回だけはLサイズにして、そのわずかな注ぎ時間の違いで時間稼ぎをする、というような、全くもって穏やかでない昼下がりを過ごしたのです。

ようやく、家に帰ることができました。

わたしは生きている。それが今日ほど嬉しかったことはありません。

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打たれ弱いです、きんたまだけに。

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