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勇者と魔王と聖女は生きたい【49】|連載小説

「――…なさい、起きなさい、アリス!」

「……えっ!?」

耳元で大きな声で呼びかけられ、飛び起きた。
私、アリスは現状を把握できないまま、きょろきょろと辺りを見渡す。場所は近くに遺跡がある森の中だ。一番近くにいる存在に、ソッと肩の力を抜いた。

「ルーファウス様?」

同じ四天王という立場にいる、ルーファウス様だ。

「ようやく起きましたか」

「私は、一体……」

つい先ほどまで意識がなかった。こんな森の中で、どうして眠っていたのか分からずに頭を抑える。

「驚きましたよ、先行して人間の街を様子見して戻ってきたら、随分と簡単な罠に引っかかっていて。あなたらしくもない」

「わな?」

「そこの、落とし穴です」

ルーファウス様が指し示す方へ視線を向ける。
地面に大きな穴が開いていた。確かに、こんな簡単な罠に引っかかるなんて私らしくもない。首を傾げて、必死に落ちる前のことを思い出そうとする。
駆け出して、すぐに足が空を切ってしまって……私は、何に、駆け出していた?

「そう……そうだ!私、見つけた!見つけたんです、ルーファウス様!」

思い出した私は、興奮からうまく口が回らず、「見つけた、見つけた」と何度も言ってしまう。

「見つけた?」

「勇者です!魔王様を殺した、あの勇者がいたんです!それで、私……!!」

「――――……ほぅ?」

「!?」

全身に鳥肌が立つような、悍ましさに息を飲む。
うっすらと笑みを浮かべたルーファウス様から、凍てつくような殺気が溢れ出ている。

……怖い。

少しでも動いたら殺されそうで、ガタガタと震える身体を必死に両手で抱きしめた。
同じ四天王という肩書を持つけれど、とんでもない。私と彼の実力差は天と地の差がある。比べるのも烏滸がましい。もし、彼が私を殺そうとした場合、彼は息をするように簡単に私の首を跳ねることができる。

「人間の王都にいるものだと思っていたが、まさか偶然こんな所で出会えるとは……魔王様はよっぽど彼を殺して欲しいらしい」

「は、……」

重く冷たい殺気に息もしづらい。
もう一度気絶してしまいたいが、私の様子に気づいたのか、ふっとルーファウス様の殺気が収まる。

「勇者は一人だったかな?」

「い、いえ、勇者一行は一人も連れていませんでしたが、見覚えのない女と、少女を連れていました」

「……魔王様を討伐して悠々と里帰りか、それとも、こちらの動きを察して王都から離れたか?」

「こちらの動きを察して?」

「僕らに恨まれていることに自覚があれば、王都からは離れるさ。王都で僕らが暴れたら、更地になるからね。だが、少女を連れているなら、それも杞憂か……」

考察しながら、彼は私に手を差し出した。その手を握って立ち上がる。
そして、自分の体をチェックしたが、特に怪我をしていなかった。問題なく、勇者を追いかけることができる。

「さて、勇者たちは痕跡を消して進んでいるね。追いかけるのは苦労しそうだ」

「も、申し訳ありません。私が気絶しなければ……」

「大丈夫ですよ。ですが、君は次期魔王なのだから、ちゃんと対応できるようになっていかないとね」

その言葉に、私な心が重くなるのを感じた。
ルーファウス様は、私が次の魔王になることを望んでいる。
けれど、ルーファウス様はもちろん、他の四天王の足元にも及ばない私が魔王に望む者はいない。他の四天王の方々は、強いルーファウス様に従うつもりだ。
しかし、他の魔族は反発している。
何より、当人である私が、魔王になるつもりはなかった。

「あの、次期魔王って、やっぱり、私は……」

「心配しないで、魔王様の忘れ形見。僕が必ず王座につかせてあげますからね」

「…………はい」

聞く耳を持たない様子のルーファウス様に、私は小さく頷く。
私は、魔王になるつもりはない。そもそも、"なれるわけがない"。
ルーファウス様自身、分かっているはずなのに無謀にも私を次期魔王に望むのは、私の後ろに魔王様の幻影を見ているからだ。

彼が生涯、唯一、尊敬してやまない魔王様の幻影を。

「さぁ、行きましょう。まずは勇者を殺さなければ」

「はい!」

次期魔王のことを考えると気が重い。
けれど、何よりもまずは、親愛なる魔王様を殺した勇者を追いかけるために足を進めた。



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