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【日記】散歩、のち、走って逃げた

恒例の遠距離介護に来ている。

自宅のある北海道から飛行機で来る。とても遠い、そして暑い。7月末ほどじゃないけど暑い。すぐに倒れる身体なので気をつけなければ。時には少々寒いくらいにエアコンを効かせ、身体自体が熱を持たないよう用心しながら家事と話し相手をしている。

この日は、実家で一人暮らしの超高齢父に予定があり、タクシーに乗せて見送ってからポカンと3時間ほど時間が空いた。何をしようかな。実家で老人と過ごしていると一日の全歩数が200歩なんてこともあり、ちょっと動きたい。車は自由に使えるので少し大きな公園に行ってみることにした。暑いけど。

雨が降りそうな蒸し暑い天気。

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これはまだ広い道

エアコンを効かせた車から降りると、ねっとりした湿気が音もなく身体を包む。湿気という大きな柔らかいカプセルに飲み込まれ、ぎゅうぎゅう押しつぶされているみたい。曇天で猛暑というほどではないが体調が崩れそうなくらい空気が水気を含んでいる。

その中をひたすら歩く。

公園はどこかで工事をしているらしく、駐車場には工事関係らしい車がたくさんあった。昼時で、車中で昼寝している人も、自販機付近のテーブルが使える場所で弁当を食べている人もいたが、総じて閑散として静かである。学校が始まったので子どもの姿はない。

このあたりは初めて来たので道もわからない。公園の地図も車を停めたあたりには見当たらなかった。歩道や敷石のあるところをぼんやりと歩いて行く。駐車場が途切れると子どもが遊べそうな広場がありいくつか四阿あずまやが建っていた。それを横目に見ながら、ツクツクホーシが全方位サラウンドで鳴く中を池があると思われる方向に歩いて行く。やがて広場は途切れ、草むした小道が池の方向へと続いていた。遠くに写真を撮っている人がいる。

池発見

大きな望遠レンズをつけてしきりにファインダーをのぞき込んでいたあの人はプロの写真家なのか。それともアマチュアだろうか。邪魔をしても悪いのでそちら方面からは遠ざかるように池のほとりを歩いた。道はどんどん狭くなり伸びた夏草が左右から迫ってくる。

そう言えば先日会った友人が
「北海道は草っ原を歩いても蚊がいないね」
と言った。
確かに。
もう気温がどんどん下がる一方の自宅周辺は、草むしていても蚊が活動できる温度に届いていないのかもしれない。しかし今日歩いているここは違う。暑い土地だ。当然、蚊もいるだろうし、わたしはけっこう蚊に好かれやすい体質なのだ。

こんなに草が鬱蒼と生えていると手足がボコボコにされるかもしれないとちょっと不安になる。そんなとき、行く手にびっくりするような木が現れた。思わず蚊を忘れて見とれる。

池の近くにあった木

一本の木なのか二本なのかわからないほど入り組んだ根元。
枝はてんでに四方に伸びている。
柵があってその向こうは草ボウボウなので入らなかったが、存在感が半端なくてしばらく見惚れていた。大きな木ではない。他の木々に負けないように、少しでも葉に陽を当てられるよう、こんな風に成長したんだろうか。それともこういった種類なのか。あるいは生えかけた時に根元近くに雷でも落ちたのか。

横手には水たまりと呼んでも差し支えないような小さな池に踏み石が敷いてある。その先に進もうとすると道がどんどん狭くなるのに気づいた。草の丈も高く虫もあちこちに見かける。ツクツクホーシは相変わらず声を限りに叫んでいる。この先を進んでさっきの広場方面に戻れるのだろうか。

この先に進んで大丈夫かな?

池が見える方向にもう少し行ってみようとして、先の方に何かあるのが見えた。柵に取り付けられたポスターのようだ。写真があって、、、

マムシに注意

公園の張り紙

ぎょええええええええええええええ!


出るのか、出るのかここは!
足の無い長いにょろは、わたし絶対ダメ無理!!!
会いたくないっっ
サヨウナラだっっっ!!

この日の気温は30度は超えていたと思うが、張り紙を見た瞬間に全身の体温が下がって鳥肌が立つくらいには苦手である。道の先を進めばさっきの広場に出られそうな感じであったがもうダメだ。張り紙の近くに行くのも通り過ぎるのも無理。くるっと回れ右をすると今来た道を思い切り走って戻った。カメラの人はまだ撮っていた。がんばってねー
あなたがいるところは水辺で開けているからきっとにょろは来ないよ。

確かに緑の草が鬱蒼と茂っていて木もあり湿度もあり、近くに大きな池や水たまりもあり生息するには良い場所だろうね。


考えてみれば、北海道でそれなりに広い原生林を含む公園を歩いたって熊ぐらい出るのである。しかしヒグマとマムシとどっちがイヤかといわれたらやっぱりマムシだ。それにマムシは毒があるからわざわざ「注意」と張り紙されていたのであり、毒の無いアオダイショウなんかもきっといるんだろう。ああやばかった。そうそう出ないとは思うけれど絶対にお会いしたくない。多分お互いに。

というわけで、颯爽と平日散歩を決め込んだつもりがヨロヨロと逃げ帰り車に乗って鍵をかけてホッと一息ついた。厄落としに、といっても何の厄にも、何の動物にもハ虫類にも会ってないから何も無かったんだけど、気持ちを落ち着けるためにネットで郊外型書店を探し、車で乗り付けて本屋に飛び込んで自分をなだめた。なだめついでにまた余分なものを買ってしまったよ。

心を落ち着けるため書店の文具売り場でつい買ってしまったものたち

左側の「てのひら図書館」というのはシールで、こんなもんどこで使うのかと思ったけれど面白いから買ってしまった。この梶井基次郎編の他に走れメロス編と山月記編があり、小説の一部やらメロスやら虎やらみんなシールになっていた。さて、この檸檬はどんな風に使おうか。



追記
危険度をまじめに考えたらヒグマの方がやばいと思う。




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