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魔神の父のМリーグ観戦記Ⅱ ⑤ 2023年11月20日 サクラナイツ 上昇気流

1 サクラナイツの魅力

 おなじみA荘。今日も店長のよく通る「いらっしゃいませー」が、店内に響き渡る。入口に立っているのは見慣れぬ若者。どうやらこの店初めてのお客さんらしい。

店長「麻雀はお好きなんですか?」 若者「ええ。大好きです」

店長「Мリーグとか見てます?」 若者「はい。大好きです。サクラナイツを応援してます」

店内で麻雀を打っていた私、ここで耳がぴくっと動く。

店長「サクラナイツの中では誰が好きなんです?」 若者「堀・渋ペアが最高ですね」

私はたまらず、片山作品の覇子みたく叫んだ。

「店長、この店で一番高い食べ物をその人にあげて‼」

これはもちろん冗談のつもりだが。

 翌日、今度もまた、この店初めての別の若者が門を叩いた。何と何と、この若者もサクラナイツファンだという。私は再び叫んだ。

「店長、この店で一番高い飲み物をその人にあげて‼」

今度ももちろん冗談だったがノリの良い店長、すすっと自動販売機の前に行き210円のエナジードリンクを買い、若者に渡す。そして私の所に来て料金回収。その間10秒。さすがの立ち回り。

 私の周りにはサクラナイツファンが結構居て、各選手の魅力を語ってくれる。腹をくくった岡田さん。大人の内川さん。痺れる堀さん。上手い渋川。しかしファンの皆さんが一様に語るのは、サクラナイツのチームの雰囲気の良さだ。雰囲気の良いチーム。これは最高の誉め言葉だ。下位に終わった前シーズンを経ても、なおこうした高い評価が溢れているのが嬉しい。いや、私にとっても妻にとっても、それは本当に嬉しいことなのだ。

 話は去年の7月に遡る。渋川のサクラナイツ入団会見。私も妻もどきどきしながらテレビを見る。渋川の挨拶。な、なんだこれは。ガチガチじゃないか。何かを棒読みしているかのよう。この姿にサクラナイツの先輩たちがすぐさま反応。

堀さん「(去年の入団会見の)僕の方がしゃべれていたと安心しました」

まあこれくらいは言われるよな。と思っていたら

森井監督「発信力があると聞いたんですけど、一抹の不安を覚えています」

監督、優しそうな顔で結構厳しいな。

岡田さん「RPGで決まった答しか返ってこない村人みたい」

これは辛らつだ。更に、

岡田さん「今の喋りを聞いて不安しかない。麻雀については自信ありそうだけど、それも本当かなと、疑いの根がどんどん深くなる」

うわあ、強烈‼ この会見を見ていた私と妻こそ不安しかない。渋川、やっていけるのか。このチーム、どんな雰囲気になるんだ。妻は「もうだめ」と言って、途中で消えてしまった。

しかし今改めて見てみると、この会見こそがサクラナイツらしさそのものだとはっきり分かる。

渋川の最後の一言。

「こんな緊張したことは人生でただの一度も無かったので、本当に凄い世界に来たんだと思っています」

そうだ。私も渋川の緊張なんて、見たことなかった。
卓球でも入試でも卒業式でも、彼は飄々とこなしていった。妻の林香さんは語る。「彼にはプライドというものが無かった」と。そうなんだ。なのにそんな彼がガチガチに緊張してしまう世界。それが麻雀・Мリーグだ。

サクラナイツ入団への思い入れが強すぎて頭を真っ白にした渋川。そんなことではだめだと、同じくチームへの思い入れの強い先輩方の叱咤。その思いは皆真剣で本物だ。だからこそあのような会見になった。しかしそれこそが、今のサクラナイツを作っている大切な基盤なのだ。

昨年の11月7日の渋川連闘での初トップ後の控室の動画を見た時の私たち夫婦の喜びは、あの入団会見があったからこそ、100倍輝いたものになった。

(再掲)

2 上昇サクラナイツ

岡田さん内川さん堀さんと、共に連闘で1着2着を取り、サクラナイツはポイントを大きく伸ばした。だが妻は浮かぬ顔。そうだ、その間渋川はラスを引いたんだった。「渋君だけダメなのね。渋君が居るからサクラナイツは負けるんだ。渋君もう出ちゃだめよ」

これは良くない精神状態だ。渋川次こそトップを取ってくれ。

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