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佐野徹夜先生『君は月夜に光り輝く ぼくときみの短い永遠 OUR BRIEF ETERNITY』読書感想文(ネタバレ)

初の試みとして、これからネタバレ付きの解説をはじめたいと思います。
まずは、あらすじをどうぞ。

書く音と描く音。
少年は物語を書き、少女は絵を描いていました。
東の国と西の国の国境にある小さな家の小さな部屋で。
少女の描いた絵を見て、少年は言います。
「相変わらず下手な絵だな」
少年の書いた話を読んで、少女は言います。
「相変わらず、つまらない話ね」
少年はカチンときました。
「なんだと」
「なによ」
二人は火花をちらします。
「お前の描いた絵には物語性がないんだよ。だから俺がこれにストーリーを考えてやるよ」
そう言って少年は少女の絵から受けとったイメージを元に短い物語を書きはじめました。
「キミのお話って全然情景が浮かんでこないんだよね。だから私の絵で補強してあげるよ」
そう言って少女は少年の書いた物語から授かった景色を丁寧に紙に描きはじめたのです。
少年は言います。
「俺がいつかプロの作家になったら、お情けでお前に挿絵を担当させてやるよ」
少女はこう返します。
「私がプロのイラストレーターになったら、私のコネで出版社の人にキミを紹介してあげるよ」
作家を目指す少年とイラストレーターを目指す少女。
毎日のように、そんなやりとりをつづけていました。
ある日。
東の国と西の国から大人がやってきました。
東の国の大人は少年に言います。
「この物語を書いたのは、きみかい?」
大人の手には新聞。そこには確かに少年の書いた物語が載っています。
少年はうなずきました。
一方、西の国の大人は少女に言います。
「このイラストを描いたのは、あなた?」
大人の手には何かの雑誌。そこには少女の描いた絵があり、少女はうなずきます。
大人たちは声を揃えました。
「今すぐデビューしよう」
少年と少女はお互いに向きあい、目を見開き、思わず抱きあいました。
地道な投稿がついに報われたのです。しかも二人同時に。
少年は言います。
「だったら、表紙や挿絵はこいつに担当させて下さい」
その言葉に少女は強くうなずきます。
東の国の大人と西の国の大人はお互いに向きあい、目を見開き、思わず笑いました。
「冗談を言ってはいけないよ。どうして西の国の人間なんかと」
「そうよ。東の国の人間なんかと仕事ができるわけないでしょ」
少年と少女の真剣な声を、大人たちは笑い飛ばしました。
無理もありません。
東の国の少年と西の国の少女。
異なる国の二人が、一つの作品を生み出すなど、世界が許すはずないのだから。

ここで諸注意というか少し語らせていただきたいのは、私はネタバレ込みで作品を語りたい人の気持ちはわかるのですが、ネタバレだけ知りたい人の気持ちは理解できません。
正直、オチだけ知りたいからという理由でここにいる方もいらっしゃるでしょう。
当たり前の話ですが、一度知ってしまうと、知らなかったころには戻れません。
ネタバレを見るということは、一度しかないはじめてを放棄する行為であるということを十分にご理解ください。

読む本によって書いてあることが違うので、はじまりがいつだったのかは誰にもわかりません。
単純な事実として、東の国と西の国はずっといがみあっていました。
そんなことより世界は今、かつてないライトノベルブームです。
優秀な物語を書く人と素敵なイラストを描く人はどれだけいても足りません。
東の国で少年は物語を書いて書いて書いて、西の国で少女は絵を描いて描いて描いていました。

ネタバレに肯定的な方がよくあげる例として『ネタバレをされた状態で作品と向きあったほうがより楽しめる』という、カリフォルニア大学の研究があります。
個人的には同意できません。
上記の研究が話題になった当時、だったら試してみようと、私はそのとき上質なサスペンスとして評価の高かった『プリズナーズ』という映画のネタバレを片っ端から確認して劇場にのぞみました。
Amazonのレビューなどを見ていただければわかるように、評価と意外性、どちらも高い作品です。
しかし私は見る前から全てを知っています。
意外な犯人も、その裏に隠された意外な動機も。
本当にこの状態で見て、より面白くなるものなのか? そもそもまっさらな状態で一度も見ていないのに、より面白いなんて状況になるものなのか?
結論として、全てはただの確認作業に終わり、想像以上に楽しめなかったです。
あなたはそれでもネタバレを読みますか?

東の国の大人は少年に言います。
「また増刷が決まったよ。やはり私の目に狂いはなかった。きみは天才だ」

西の国の大人は少女に言います。
「あなたがイラストを担当した作品だけ、明らかに予約の数や初動が違うのよ。あなたはうちの宝よ」

AmazonのレビューやSNSのメッセージなどで、お前あきからに見てないだろ、読んでないだろ、プレイしてないだろ、ネットで誰かが書いた意見を並べてるだけの、自分の中から出ていないのがバレバレのからっぽの言葉を目にした経験はあなたにもあるはずです。
あなたもその仲間になろうというのですか?

仕事場で少年は発売したばかりの新刊の表紙と挿絵を確認します。
上手い、けど、どこかしっくりこない。微かな違和感を覚えてしまう。
かつて彼女が描いてくれたイラストたちは、打ち合わせをしたわけでもないのに自分の想像そのものが具現化されていたのに。

今ならまだ間に合います。買って読んで、ライバルに差をつけよう。

仕事場で少女は頭を悩ませていました。
魅力的な物語、なのに、情景が浮かんでこない。
かつて彼から読ませてもらったストーリーは、たちまち自分をその世界に引きずり込んで、描くべき景色を与えてくれたのに。

とはいえ私は優しいので、こんなテキストは飛ばして太字の部分だけ読めばあらすじを楽しめる親切設計にもなっています。

ある日、少年の書いた作品が映画化されることになりました。
社内は大喜びで大騒ぎ。
それなりにこの会社に貢献できていると思った少年はおもいきってお願いしました。
次の作品は、彼女にイラストを描いてもらいたい、と。

私がネタバレに用心深いのは、かつて経験したこの事件がトラウマになっているからです。

最近の十歳未満の若い方はリンクを表示しても簡単には踏んでくれないそうなので、事件の流れを簡単に説明すると、その昔、恋人の前だからといって普段はやらないようなかっこをつけたせいで、ヤンキーにボコボコにされてお尻にタバスコを挿されたあげく、生まれてきたお子さんが変な病気になった青年がいたのです。彼がそうなったのは、たった一言のネタバレが原因でした。

ある日、少女がイラストを担当している作品のアニメ化が決定しました。
社内は活気で溢れます。
関連する仕事をたくさん依頼されました。
その勢いでおもわず彼女は口にします。
彼の作品に自分の絵をつけたい、と。

お待たせしました。人気コーナー。
クイズ『俺の名前を読んでみろ』の時間です。
前回、とても好評だったので第二回です。
あらためてルールを説明しますと佐野徹夜先生は作品のあとがきでloundraw先生の名前につけているルビが『ラウンドロウ』のときもあれば『ラウンドロー』のときもあったりと、謎に満ちています。
そんな佐野徹夜先生の新作『君は月夜に光り輝く +Fragments』がこのたび発売されました。
イラスト担当はもちろんloundraw先生です。
さて、今回のルビはどうなっているのでしょうか。
正解は──
『ラウンドロー』でした。
さて、これで『ラウンドロウ』と『ラウンドロー』の点数が2対2で並んでしまいました。
次はどうなるのでしょうか。
『ラウンドロウ』か『ラウンドロー』なのか。
『オーロラエクスキューション』や『アバンストラッシュ』といった未知なるルビの可能性もあります。
それではまた次回お会いしましょう。さようなら。

東の国。
大人は少年に言います。
「気持ちはわかる。だけどそれは無理だ」
少年は訊きます。
「彼女が西の国の人間だからですか?」
大人は首を横に振りました。
「そうじゃない。きみにはわからないだろうけど、イラストレーターの賞味期限はとても短いんだ。神絵師なんてもてはやされても半年後にはほとんど消えてるし、長続きしても三年が限度だ。たしかに彼女の絵は人気がある。同時にそろそろ飽きられつつもある」
「そんなの──!」
強く出たものの、少年の言葉はつづきませんでした。
「心配しなくていい」
大人はそう言うと、手招きで誰かを部屋に呼びました。
東の国的な活発さを纏う、美しい少女でした。
大人は言います。
「イラストレーターの寿命は短い。しかし、ごく希に才能を消費されない本物もいる。きみの目の前にいるその子がそうだ」
東の国の少女は、少し照れた様子で少年に微笑みました。

そういえばみなさん、今月号のダ・ヴィンチ(2019年 4月号)はもう読まれましたか?
佐野先生とマツセダイチ先生の対談という名の完全な惚気が掲載されてたじゃないですか。あれ完全に惚気でしたよね、惚気(のろけ)。
BL特集なのかと思いましたよ。
全国の女子高生のみなさんに熟読をおすすめします。

西の国。
大人は少女に言います。
「気持ちはわかるけど、それは無理よ」
少女は訊きます。
「彼が東の国の人間だからですか?」
大人は首を横に振りました。
「そうじゃない。あなたにはわからないでしょうけど、作家の賞味期限はとても短いの。仮にヒットを出せたとしても、ほとんどの作家は次を出せずに消えていく。あなたの幼なじみの作品も今度映画になるみたいだけど、断言してもいい。あれが彼のピークよ。いわゆる一発屋だけど、九割の作家はその一発屋にもなれずに消えていくんだからラッキーなほうね」
「そんなの──!」
強く出たものの、少女の言葉はつづきませんでした。
「心配しなくていい」
大人はそう言うと、手招きで誰かを部屋に呼びました。
西の国的な礼節を纏う、静かな少年でした。
大人は言います。
「ライトノベルはイラストで決まる。だけど、ごく希に優れたイラストとの相乗効果で昇華していく優れた物語を書き続けられる作家もいる。あなたの目の前にいる彼がそれよ」
西の国の少年は、朗らかな視線を少女におくりました。

東の国。
幸か不幸か、東の国の少女との相性は、ばつぐんでした。
思った通りというより、想像の少し上をいく魅力的なイラストをいくつも描いてくれました。
そしてそれは少年の創作意欲を向上させました。

西の国。
幸か不幸か、西の国の少年と少女の相性は、悪くありませんでした。
文章そのものから世界が浮かび上がってくる感覚をひさしぶりに味わっていたのです。
それはとても懐かしく、同時に寂しさを少女に与えました。

やきそばのおいしいつくりかたです。

東の国。
「ねえねえ」東の国の少女は言います。「私たち、付き合おうよ」
「突然、なに言い出すんだよ」少年は慌てます。
「だってさ、私たちって相性いいじゃん。作品とか……作品とか」
「これからも作品だけのつきあいでいこう。面倒なことになりたくない」
「面倒なことって? どういうこと?」
東の少女はわざとらしく少年と体を密着させます。
「西の国のあのイマイチなイラスト描いてる女と知り合いらしいけど、それと関係あるの?」
「……別に、ないよ」
「そうなんだ、関係ないんだ。残念だったね」
東の国の少女は、なぜか部屋の外に向かってそう言いました。
声の向けられた方角を見ると、そこに少女の姿。
一瞬、ひどく悲しい顔をして、少女は走り去りました。

最高のイラストと物語を楽しみたい方は今すぐクリック。

──諸般の事情により中略──

西の国。
ボロボロで血まみれの少年を抱えて、少女はポロポロと涙をこぼします。
今にも消えてしまいそうな声で、少年はささやきます。
「……むかし、お前のことについて、編集の人に言われたんだ。イラストレーターの賞味期限は短い。どんなに人気のあるやつでも、三年が限度だって……お前もその一人だって」
「…………」少女は何も言い返しません。
「だけどその編集さんはこうも言ってた。ほんのわずかだけど、才能を消費されずに、ずっと一番でいられる本物もいるって……そいつが今、お前の目の前にいるって……」少年は目の前の相手をじっと見つめていいます。「……確かにそいつは今、俺の目の前にいるんだ」
少女は言います。
「むかし、キミのことについて編集さんに言われたの。キミは一発屋だって」
「……ああ、よく言われてるよ」
「あれ以上の作品を書くことはできないって」
「……それもよく言われてるな」
少女は言います。
「……私、生まれてはじめて人を殴りそうになった」
「…………」
「キミは、はじめて書いた作品のこと覚えてる? 私は覚えてるよ。あの小説と呼ぶのもおこがましい、文字の墓地みたいな、めまいのするような言葉の羅列を」
「お前……ひどいやつだな。死にかけてる相手に向かって言葉でとどめをさすつもりか?」
「だけどキミはあきらめなくて、毎日新しい物語を書いて、それがどんどん面白くなっていって、書けば書くほど面白くて──だから言わせない。あれがキミの到達点だなんて、誰にも言わせない。あんなのは通過点の一つだよ。キミの最高傑作は、いつだってキミの最新作だよ」
「……パクるなよ」
「──え?」
「……俺がお前に言おうと思ってた言葉をパクるなよ。イラストレーターにわかりやすく言うならトレースするなって言えばいいのか?」
少女は、やっと笑う。
「ずっとキミに言いたかったことがあるの」
「なんだ?」
「キミと一緒に作品をつくりたい」
「……だから人のセリフをパクるなって……」
「だけど、私たち、こんなことになっちゃったし、どうすれば……」
「それについては心配するな」少年はゆっくり起き上がります。「俺にいい考えがある」

それでは聴いてください。
『君は月夜に光り輝く ぼくときみの短い永遠 OUR BRIEF ETERNITY』
オリジナルサウンドトラックより
『一分一秒君と僕の』

最後までお付き合いくださいまして、本当にありがとうございました。


え? オチは?
と思われた方も、もしかしたらいらっしゃるかもしれませんので少し補足を。
これまでのあらすじを読まれて、二種類の感想を持たれた方がいるはずです。
一つは、ああ、そういう話なんだ、という方。
もう一つは、お前さっきから何の話してるの? という方。
反応として正しいのは後者のほうです。
上記のあらすじは全て私の創作なので『君は月夜に光り輝く ぼくときみの短い永遠 OUR BRIEF ETERNITY』とは特に関係ございません。

いえ、関係なくもないです。
エイプリルフールなので、うそのあらすじを書こうとだけ決めていて、当初は佐野先生とマツセダイチ先生を主役にしたこんな感じのライトなBLにする予定だったのですが、それだとあまりにすぐネタだとバレるのでどうしようかなと思いながら『君は月夜に光り輝く』の感想を検索してたら、素敵な投稿と出会いまして。
小学生のお子さんのいるお母さんの日記で、お子さんが『君は月夜に光り輝く』の大ファンで、ぼくもおっきくなったら佐野先生みたいな作家になる! それが無理なら海賊王! と言い出して、佐野先生の文章をまねしながら小説を書いていたら、同じ塾に通ってるその子のご学友の少女が、だったら私はアバンストラッシュ先生みたいなイラストレーターになって、キミの小説の絵を描いてあげる! それが無理ならハドラー倒す! と言って絵を描きはじめたのだそうで。
これが後の海賊王と勇者の誕生秘話なのです。
まあ、そんな感じでそのエピソードがあまりにも美しくて、思わずこんな話を書いてしまったのです。
敵国同士とかいうのは、こっちで加えたフィクションですけど。
それであらすじをオチまで書いていないのは、書いているうちにどんどん楽しくなりすぎて、盛り上がりすぎて、おもしろくて、ちゃんとした短編小説に仕上げて新人賞に応募したくなったからです。
〆切まで今日を入れてあと10日。
まあ例年通りだと一次選考で落ちるので、そのあとは小説家になろうに投稿します。
興味のある方は読んでやってください。
一次選考の結果発表は7月10日で、落選を確認次第、なろうへのリンクをここにも貼ります。

2019/08 追記
はい、というわけで発表されました。
結果は一番下にあります。



最後に公式からのネタバレをどうぞ。

『君は月夜に光り輝く ぼくときみの短い永遠 OUR BRIEF ETERNITY』を最高に楽しむためにこちらのハッピーセットがおすすめです。







はい。めでたく一次選考で落選しておりました。
どこがいけなかったのか冷静に分析してみると、やはり原因の9割は
佐野徹夜先生にあり、残り1割はどこかの少年と少女のせいと考えるべきでしょう。
だって、私は佐野先生のファンの少年少女の行動をしたためただけですからね。
ただ風景を撮影したようなものですよ。
それが評価されなかったというのなら、悪いのは写真家ではなく風景のほうじゃないですか、どう考えても。
あっ、すみません。佐野先生に原因の9割はちょっと言い過ぎました。
正しくは、こうですね。

責任の所在
佐野徹夜先生4割
loundraw先生4割
どこぞの少年少女2割

スタンフォードだかハーバード大学の研究で、人間的に成長できない、愚かな行動を繰り返すやつの特徴として、上手くいかなかったことを他人のせいにする傾向というのがあるそうです。
私はそんなことしませんよ。
この作品が受賞したり誰かに好評だった場合にはちゃんと、全て自分のアイデアです、ゼロから自分で考えましたと言うくらいの覚悟はありますよ。
ただ今回の件は客観的に見ても、佐野先生たちに責任があるのは明白なので、佐野先生とloundraw先生と佐野先生とloundraw先生に憧れているどこかの少年と少女は、どこがダメだったのかよく考えて、反省文を書いて夏休みのあと、学校に提出してください。
よろしくお願いします。

そして結果がどうあれ、私はこの作品、好きですよ。
読んでください。

https://ncode.syosetu.com/n8152fr/

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