Django

Modern Jazz Quartet のレコードで日本でのみ販売された「MJQのすべて」というアルバムがある。このアルバムは生まれて初めて買ったレコードで、高校一年生だった。北海道の小さな町で唯一レコードを買うことが当時できたのはまたその町に唯一の古本屋で、レコードは一律2000円だった。自転車のカゴに何枚かレコードを入れて走っていると同じ学校の生徒とすれ違って、カゴの中身を「なにあれ、図鑑かな?」などと会話しているのが聞こえた。「図鑑じゃなくてレコードですよ〜。」と内心でつぶやいたのを覚えている。当時はレコードを聴くという行為が妙に誇らしかったのだ。
このアルバムの最初の曲はDjangoといって、伝説的ギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトを追悼する曲である。これが聴きたくて買ったのだけれど、このアルバムではヨーロピアンライブのバージョンで以前から聴いていたスタジオ録音とは違う。そのとき初めて、同じ曲でも違う演奏というものがあって、その違いを楽しむものなんだということに気づいた。それから色々なバージョンのDjangoを聴いたのだけれど、レコードで最初に聴いたバージョンが一番気に入っている。この曲はジャンゴ・ラインハルトを追悼する曲だから、その人の魂によりそうような演奏がよりふさわしいと感じられるからだ。MJQは好きすぎて結成して数年間はシベールの日曜日のライブの前によくかけていた。録音の関係でヴィブラフォンの音が少し歪む時があって、それがライブハウスのPAの大音響で聴くとなんともいえない恍惚感があった。そういう経験もあってMJQは自分にとっては暗いところで聴く音楽だった。彼岸から響いてきて、暗闇を軽く引っ掻くように感じられて、そういうなにもない真っ暗な空間が手触りよくとても豊かに感じられる、そういう感覚を生きていた。

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