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パーフェクトモーニング        (シリーズ私のアメリカ横断旅行記)


もうこれは、随分昔のお話し。
英語も喋れないのに、アメリカ横断旅行に出かけたわたくし。
その経過はこちらから→「私は英語を喋れない(シリーズ私のアメリカ横断旅行記)」

旅行中は、2日おきに移動していた。
最後の日だけホテルに泊まったけれど、
後はみんな普通のアメリカ人の家に宿泊っていうスタイル。

振り返ると、都合、5つの家族に世話になった事となる。

今、世の中は世界は、随分きな臭くなっていて、わたくしの知人なんかも
「海外旅行なんて、怖くていけないわ」って話す。

不幸なことだよね。

世界は、広くて、やっぱりそこに行って、初めて理解できる事も沢山ある。

怖いって、そりゃ怖いものは怖いけれど
それでも、そもそも、わたくしが巡り合った人達、おポンチなわたくしを、
笑って受け入れてくれた人たちの顔を、思い浮かべれば「戦おう」なんて、気にはならない。

難しい事は、判らない。

国と国の外交は、「片手で握手しながら、片手で殴り合うもの」・・・というものであることも、理解しているけれど

でもさ「そこにいるのは人間」なんだと、「暮らしているのは人間」なんだと頭ではなく、五感で知ることは、大事なことだ。

文化の違い、考え方の違いを「知る」こと。
それこそが遠回りでも、すっごく遠回りでも、最終的に確実な平和へと繋がるんじゃなかろうか・・・なんて、柄にもなく結構真面目に、ちらっとわたくしは、思うのだ。

さて。

アメリカではいろんなものを食べた。

料理上手なジェシーが作ってくれたピザは、絶品だったなあ。

そのジェシーの家には、ジョージというお爺ちゃんがいて
彼がまた、強烈に偏屈臭を漂わせていてさ。
ってか、偏屈だったのだ。間違いなく。

「はろー。ないすちゅーみーちゅー」

握手を求めるとわたくしをぎろりと見て

「ふぁろー」って。

ふぁろー??

ん?わたくしの耳が悪くなったか??

思えば、戦争経験者であるジョージ爺ちゃん。
日本から来たtonchikiなわたくしを歓迎する気持ちでは、
そもそも初手から、なかったのかもしれない。

・・・申訳なかったかな。
でも、泊めてもらわなくちゃここで放り出されても・・・だし。

・・・でも、どう考えても、あれは「FUCKろー」って言っていたように聞こえたよな~~~。

なんだか気持ちが下がったんだけれど、精一杯の笑顔でシェイクハンド。
お決まりのお家案内ツアーの後、ジェシーが

「じゃあtonchiki、明日の朝なんだけれど私、ちょっと用事があるから
ジョージと一緒に朝食をとっておいてくれる?
冷蔵庫の中の物はなんでも食べていいから。」

「OH、シュア THANK YOU!

って言いながら、わたくしは、益々テンションが下がるのであった。

あの、偏屈そうな、いや間違いなく偏屈なジョージ爺さんと、2人きりか・・・。
でも・・・まあ、いいや。これもまた、経験だよ。頑張れわたくし!

朝になった。

キッチンへ降りて行くとジョージ爺ちゃんが、新聞を読んでいた。

「グッモーニン!」精一杯の明るい声で御挨拶。

「・・・モーニン」

機嫌、悪いのかなあ。

まあ、いいや。いいことにしよう。
そんな事よりベーコンでも焼いて、2人分の朝食を作ることにしよう。

そう考えたわたくしは、ジェシーのでっかいでっかい冷蔵庫のドアを開けた。

えっと、ベーコンは・・・これだよな
卵・・・とあとは・・・

「NO!」

突然、ジョージ爺さんがわたくしに向かって言ったので、
わたくしは、ビクッ。

わたくしが冷蔵庫の中を見たのが、気に入らなかった???
でも、ジェシーは、いいって言ったよ?

卵とベーコンを持って、立ち尽くしているわたくしに爺さんは言った。

「So are you making breakfast??」

えっと、それで朝食を作るのかって聞いているんだよね??

「・・・い、いえす」

「no, no, no!」

・・・・だってさ、だってさ他に、考えつかないもん。
ジェシーは冷蔵庫の中のもの使っていいって言ったから、だから、わたくしは・・・

なんか、悲しくなってきた。

ジェシー、早く帰ってこないかなあ・・・。

すると、ジョージ爺さんは、どっこいしょって感じで椅子から立った。
そして、冷蔵庫の横に立っていたわたくしの手から、ベーコンと卵をとると、中に戻す。

そうして、でっかいでっかいバケツのような入れ物を、冷蔵庫から取り出して
テーブルにドカンとのせると、
にやりと笑って言った。

「It is nutritious. 」

ん?どういう意味??
必死であたりをつけるわたくし。

栄養のある食べ物??

・・・・

・・・・

・・・・

アイスだった。

それは、でっかいバケツのような入れ物に入った
アイスクリームだった。

そして、ジョージ爺さんは自分の口を開けてわたくしに、見せた。

歯が、ない。

爺さん、歯がねえじゃねえか!

・・・・

・・・・あ、だから息がもれて「ふぁろー」だったんだ!

爺ちゃん、入れ歯は??

入れ歯なんて単語知らないから,わたくしは

「ふぇいくとゥーす、IN」

すると爺ちゃん、ふぉふぉふぉふぉふぉと笑って

「あんなもん、ファックじゃ」って言った。

英語は喋れないけれど、ファックって単語は判ったぞ。
爺ちゃん、石鹸で口洗われるぞー!!

で、「このアイスは、栄養満点だからこれで2人の朝食としよう。
ただし、ジェシーにばれるとうるさいから内緒じゃ。」
・・・って言ったんだと思う。・・・多分。

OK。

わたくしは、棚から器をとってきて、アイスを盛りつけた。

ジョージ爺ちゃん、横で

「More」

えーーーーーもっと~~???

「・・・More!!!」

爺ちゃん、あんた、子供か!!ってか、爺ちゃんか。

結局、ゆうに3人前はあろうかという、山盛りアイスを手元に引き寄せて、
ジョージ爺ちゃんは、喜色満面。

・・・ってか、こんなもんばっか食べているから、歯を悪くしたんじゃ???

まあ、確かに栄養は充分だろうけどさ。
と、あれこれ脳内で突っ込むけれど、英語が喋れないわたくしと
すっかりアイスに夢中なジョージ爺ちゃんは、
静かに、極めて静かに朝食を食べたのだった。

食べ終わって器を洗って拭いて、食器棚に戻したら、
ジョージ爺ちゃんが言った。

「Perfect!!!」

何を言ってる。

ジェシーが帰って来た。

「お早う!tonchikiもジョージも朝ごはん、ちゃんと食べた?」

「YES」

「良かったわ。朝からバタバタしちゃって、ごめんなさいね~~」

色々言いたい事はあるけれど、英語が喋れないわたくしは、
「そんなそんな。ありがとう、ジェシー」と、ジェスチャーで
ジェシーにアピールするのに精一杯。

ジョージ爺ちゃんが、わたくしに向かってウインクした。

「Perfect!!!」

・・・そりゃ、あんたは、ね!

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