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沸騰親父 #10

 そのまま、スッと店から出ていってすぐにユニフォームを取りに家へと早足で向かった。
「アイツ、まだ風呂入ってねーんだろうな。オレがこんなに早く帰ってきてびっくりするか。」と心の中で呟いてみた。
「オレの野球チームのユニフォームって、どこだあ?」と玄関を開けるなり言ってみた。が、反応はなかった。風呂に入ったらしい。そうだな。じゃ,サッと袋に詰めて早くマスターんとこ行かねーと、アイツら待たせちまうこらな。と思いながら押し入れの中をゴソゴソと探して、キレイに畳んであったユニフォームを見つけた。

 「あのさ、ここだけの話だけどよ。」と高橋は鈴木にやや大きめな声で言った。
「リュウちゃんとこ、アパート住んでるだろ?あそこ、リュウちゃんの親の持ち物でさ、で兄さんの富士男さんが管理してんだよ。知ってた?」
「あ、いや…」
「富士男さんの奥さんが言うにはさ、もうずーっと家賃入れてないらしいんだよ。奥さん、どうしたらいいかわからないけどかなり怒っていたよなぁ。まぁ,リュウちゃんなら平気で踏み倒す感じじゃない?あっはっは〜」と酒が入っていて店内に全部聞かれていたくらい大きな声だったから、全く「ここだけの話」ではなくなっていた。
鈴木が「じゃあさあ…」とその話の続きを聞きたがって言葉を継ごうとしたら
「おっ、じゃあ今日は帰るかな?マスター、この会計、閉めといてね。月末に払いにくるからさ。よろしく〜」
「え?」鈴木が高橋の顔をまじまじと見て「いや、あれ約束してたんじゃ?ユニフォーム取りに行ってますよ。待ってないと…」
「ああ、大丈夫だよ〜。オレとリュウちゃんの仲だぞー。ましてや、家賃払わない奴がこんなユニフォームごときの約束守るかよ!どうせマスターから借りたクルマもガソリン代も返さないで返すんだよ!そうだよ、野球ん時も監督の俺の言うことなんか聞かねーから、クビなんだよ。」
鈴木は呆れてしまい、むしろリュウに同情さえもしたのだ。でも高橋はそんなことお構いなく席を立って「そんじゃ、またねー」と手をひらりとさせると同時に
「高橋さん!ひどいですよ。リュウちゃん来るまで待ってあげないんですか?」と結芽ちゃんが大きな目で睨んでいる。

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