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皆様こんにちは。今回のすくナビの担当は、アレルギー担当の竹村豊です。
 
今回は“教えて!近大先生〜アレルギー編”です。小児科の外来でよくいただくご質問にお答えするシリーズです。

今回のご質問です。 

「近畿地方在住の14歳女子です。スギ花粉症なのですが、いつから何をしたら良いですか?」 

早速ですが、結論です。

「2月中旬から、抗アレルギー薬を使いはじめてください。去年の症状がひどかったなら医療機関の受診を検討してください。今年の症状がひどく、学業やスポーツなどやりたいことに影響があったなら、来年度に向けて免疫療法も考えてください。」

となります。
この結論にいたった理由について3つにわけてお話しします。

1. 2023年のスギ花粉は2月中旬頃からとび始め、その量は多いと予測されている。

2. スギ花粉症の薬剤は一般の薬局でも有効なものが売られているが、医療機関で処方される薬剤の方が効果は高く、種類が多い。

3. 免疫療法はスギ花粉症の重症度に関係なく実施でき、根治療法となり得るので、今シーズンの症状がひどければ来シーズンに向けて導入を検討する。

1. 2023年のスギ花粉は2月中旬頃からとび始め、その量は多いと予測されている。

スギ花粉症の原因(アレルゲン)は当然のことながらスギ花粉です。大阪だと「いや、当たり前やろ!笑」とつっこみが飛んできそうです。しかしこれは何もふざけているのではありません。屋外の自然の中に存在する物質がアレルゲンである、というのはスギ花粉症の対策を考える上で重要なポイントになります。なぜなら、スギ以外の代表的なアレルゲンであるダニやハウスダスト、ペットのふけなどは、主に屋内のアレルゲンとして存在するからです。また、これら屋内のアレルゲンの量はあまり増えたり減ったりしないのに対し、スギ花粉はアレルゲンが存在しない時期すらあります。しかし逆に飛散がはじまると、スギ花粉症のアレルゲンはとても多くなります。
では、スギ花粉はいつから飛びはじめるかというと、地域により異なります。著者が勤務する病院が存在する大阪では、今年(2023年)の飛びはじめ予想は2月22日と予想されています。なお、日本気象協会による今年の飛びはじめの予想は以下の図の通りです。だいたい南の方から飛びはじめ、北海道では飛ぶ地域が道南に限定されています。ただし、北海道はシラカバ花粉の飛ぶ量がとても多いのが特徴です。

(日本気象協会 tenki.jp、https://tenki.jp/forecaster/tanaka_masashi/2022/12/08/20867.html

なお、今年の花粉がとぶ量は総じて多い、と予測されています。特に昨年の量が少なかったこともあり、前シーズン比では北海道以外は多いと予想されています。飛ぶ量は、前年夏の気象条件が影響します。気温が高く、日照時間が多く、雨の少ない夏であれば、次の春にスギ花粉が飛ぶ量は多くなると考えられています。

(日本気象協会 tenki.jp、https://tenki.jp/forecaster/tanaka_masashi/2022/12/08/20867.html

2. スギ花粉症の薬剤は一般の薬局でも有効なものが売られているが、医療機関で処方される薬剤の方が効果は高く、種類が多い。

スギ花粉症をお持ちの方は、2月中旬以降のことを思うとゆううつな気持ちになったのではないでしょうか。ここからは、そんな方に向けて「では、どうしたら良いか」についてお話します。
スギ花粉症に限らず、アレルギー疾患全般において対策の基本は3本立てです。この章では、①と②についてお話します。
①アレルゲンの除去(回避)
②薬物療法
③免疫療法
まず①アレルゲンの除去(回避)を完璧に行なうことは難しいです。花粉が飛んでくるのを目で確認するのは難しいですし、もし見えたとしてもそれを吸い込まないのは至難の業です。
しかし、アレルゲンが体に入る量を減らすことはできます。特に、目や鼻を防ぐことは有効です。下のイラストの様な状態でしょうか。笑

自宅での生活の工夫としては、帰宅時に花粉を払う、洗濯物や布団を屋外で干すのを避けるなどの対策が挙げられます[1]。
その上で②薬物療法です。薬物療法は大きくわけると
·        のみ薬
·        目薬
·        点鼻薬
があります。のみ薬の主力は、抗ヒスタミン薬です。最近は「第2世代抗ヒスタミン薬」という眠気などの副作用が少ないものが使われています。一般の薬局で市販されているのはこのタイプです。病院で処方されるものと同じ効果が期待されるものもあり、多くの花粉症の方が助けられていると思います。ただし、15歳未満の小児が使える薬剤は少ないです。最近は、一部の商品は要指導医薬品として、薬剤師が常在する薬局で薬剤に対する指導を受けた上で使用できるものも販売されています。
医療機関では、この抗ヒスタミン薬に加えてロイコトリエン受容体拮抗薬が処方される場合もあります。抗ヒスタミン薬に比べ、鼻づまりを改善させる効果が高いです。このお薬は市販されておらず、医療機関で診察の上で処方されるお薬です。
目薬はまず、抗ヒスタミン薬と、遊離抑制薬(アレルギー反応に関わる物質の遊離を抑制する薬)が使用されます。一般に抗ヒスタミン薬の方がかゆみに対する即効性があるとされています。これらは、薬局で市販されています。市販薬には、これらを独自にブレンドした目薬も存在します。目の症状が重症化すると、ステロイド点眼を用います。ステロイド点眼薬は、現時点で市販薬はありませんので、医療機関でのみ処方されます。この種類の点眼薬は眼圧という「目の外側から内側にかかる圧力」が高くなる副作用があります。それにより視力や視野(ものが見える範囲)が悪化することがあるため、注意が必要です。しかし、ステロイド点眼薬は効果が高いので、先にお話した一般的な点眼薬で効果が不十分な場合は、医療機関を受診すると良いでしょう。
最後に、点鼻薬です。点鼻薬では血管収縮薬とステロイド薬が主に使用されます。血管収縮薬は市販品にも複数存在します。交感神経を刺激し、鼻粘膜の血管を収縮させ充血をとることで、鼻づまりなどを改善します。即効性がある一方で、長期使用により反応性の低下(薬の効果が減弱するなど)や局所粘膜の二次充血などがおこり、薬による鼻炎を引き起こすことが知られています。そのため1日3〜4回まで、連続使用は1〜2週間程度が推奨されています。ステロイド点鼻薬は、薬局で買うこともできます。ただし第1類医薬品に分類されており、薬局で薬剤師による指導を受けることが必要です。先にお話した血管収縮薬に比べると即効性に欠けますが、連続使用により効果が強まります。ステロイドというと副作用を心配される方もいらっしゃいますが、局所作用性の点鼻薬では問題となる副作用がほとんどありません。一方、ステロイドの内服や注射(全身ステロイド薬)は科学的にその効果が十分に実証されておらず、おすすめしません
さらに、12歳以上の方には抗IgE抗体の注射療法(ゾレア®︎)が2019年から行なうことができるようになりました。これは前シーズンに一般的な治療を行なったにも関わらず充分なコントロールができなかった花粉症の方が適応です。事前に検査が必要で、その結果により投与ができない場合もあります。また、投与量もこの事前の検査により決定します。副作用でアレルギー症状が出る場合があります。そのためこれは市販薬ではなく、医療機関のみで使用できます。さらに、医療機関でもアレルギーに精通している医師が在籍する施設に限定して使用されています。
以上をまとめると、多くの花粉症の方には第2世代抗ヒスタミン薬ののみ薬と点鼻ステロイド薬をセットで使い、必要に応じて目薬を使う治療は効果が高く、副作用が少ないのでおすすめといえます。

3. 免疫療法はスギ花粉症の重症度に関係なく実施でき、根治療法となり得るので、今シーズンの症状がひどければ来シーズンに向けて導入を検討する。

ここまでのお話で「薬物療法で十分やん!(関西弁)」とお思いの方もいらっしゃるかもしれません。ただし、薬物療法はあくまで対症療法=現在ある症状を改善させる、です。これから紹介する免疫療法はこの対症療法に対して、根治療法=病気自体を治す、効果が期待される治療法です。スギ花粉症は自然に治ることがほとんどありません。その未来を変えることができる治療法として位置づけられているのです[2]。
では、この免疫療法は行なうことができるのはどんな方でしょうか。実は免疫療法、スギ花粉症の重症度によらず行なうことができます。つまり、症状の軽い方も行なうことができる治療法です。年齢は5歳以上であれば小児でも行なえます。
免疫療法には、注射と舌下投与の2つの方法があります。2013年までは注射薬しかありませんでしたが、2014年にスギ舌下免疫療法薬(シダキュア®︎)が発売されました。「舌下免疫療法」は聞き慣れない言葉だと思いますが、下のイラストの様に文字通り「舌の下(裏側)」に錠剤をおいてしばらくそのままにしてからのみこみます。特に小児では注射を好まない方も多く、最近はこの舌下免疫療法が主流になっていると著者は感じています。

では、免疫療法はどの様にして効果がでるのでしょうか。免疫療法のお薬の中には、スギ花粉のアレルゲンが抽出されたものがたくさんつまっています。これをあえて体の中へ入れることにより、体を「慣れ」させることができます。全く同じ仕組みではありませんが、感染症に対してワクチンが効くのと同じ様な仕組みです。この「慣れ」が起こっていると、スギ花粉が体の中に入って来てもアレルギー症状を起こしにくくなるのです。
この「慣れ」によって、花粉症の症状である「くしゃみ」「鼻だれ」「鼻づまり」全ての症状を改善させることが報告されています。また、その効果は長く治療を続けると高まることも知られています[3]。治療期間の目安は、3年間とされています。
では、副作用はどうでしょうか。最も注意すべき副作用は、スギ花粉が急に体の中に入ってくることにより生じるアレルギー反応や、アナフィラキシーです。アナフィラキシーとは、体が赤くなるなどの皮膚症状や、咳や息苦しくなるなどの呼吸器症状など複数のアレルギー症状が、同時にかつ急速に現れる状態で、時に生命の危機に至る場合もあります。皮下免疫療法と舌下免疫療法とでは、舌下免疫療法の方が、一般に副作用は少ないです。しかし、舌下免疫療法でも強いアレルギー症状が起こる可能性はありますので、これらの薬剤は一般の薬局では手に入らず、医療機関でのみ処方されます。また、舌下免疫療法のお薬はアレルギーの状態や症状、対応に精通した医師のみが処方できるので、全ての医療機関や医師が処方できるわけでもありません。
さらに、免疫療法はスギ花粉がとんでいる時期には開始できません。とんでいる時期とは、1〜5月です。実態として著者の施設では、夏休み頃に開始される方が多いです。このブログを執筆時点(2023年1月末)はすでに今シーズンのスギ花粉症に対して、免疫療法を導入できない状況です。今シーズンはここまでにご説明した治療を行ない、コントロールが充分でなく、学業やスポーツなど、自分のやりたいことに支障をきたした方は、来シーズンの花粉シーズンに備えて免疫療法の導入をご検討ください。

ここまでのお話で、近畿地方在住のスギ花粉症の方がいつから何をしたら良いか、の回答が「2月中旬から、抗アレルギー薬を使いはじめてください。去年の症状がひどかったなら医療機関の受診を検討してください。今年の症状がひどく、学業やスポーツなどやりたいことに影響があったなら、来年度に向けて免疫療法も考えてください。」とお答えした理由がご理解いただけたでしょうか。
この様な話を直接聞きたい、または実際にスギ花粉症の薬物療法や免疫療法を行いたい、という方は近畿大学病院小児科を受診してください。また、受診の希望はないけど、ご質問やご意見などがあれば、このブログにコメントをいただければ「すくナビ」を続けていく上でとても参考になるので、どうぞよろしくお願いします。
 
近畿大学病院小児科では「健康について知ってもらうことで、こどもたちの幸せと明るい未来を守れる社会を目指して」をコンセプトに、こどもの健康に関する情報を発信しています。これからもよろしくお願いします。

竹村 豊

参考文献:
1)     鼻アレルギー診療ガイドライン2020
2)     アレルゲン免疫療法の手引き(https://www.jsaweb.jp/uploads/files/allergen_202101.pdf)
3)     Gotoh M et al. Long-term efficacy and dose-finding trial of Japanese cedar pollen SLIT tablet. J Allergy Clin Immunol Pract. 7 (4) 1287-1297, 2019

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