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葉山 葵々(Kiki)
2022年2月21日 23:20
☆約2万字。読了目安30分程度。是非気になる見出しからお読みください!あなたの知っているシンデレラかもしれない。違うかもしれない。改変部―それは、地球に存在する「物語」を改変する仕事。あらゆる人間が学び、楽しみ、時に怒り、時に涙する、「物語」は計り知れない力を持っている。私はセレーン。改変部のメンバーは他に二人。ジャックとレビン。我々が何者なのか、何の目的で物語を改変するのか、それ
2022年4月10日 22:06
土は、美しい緑を育む。生きとし生けるもの全ての源となりて明日をつくる。その柔らかい恵みに手を沈め、一掴み握って指を擦り合わせると、土は、はらはらと散る。いくらか黒ずんだ手は当然の如く洗い流される。その夜、燃え尽きた魂は灰となる。熱狂した人々は一人二人と去り、静まり返ったその地において風に吹かれて舞い上がる。魔女を焼いたのだと、誇らしげに語り家路につく彼らをボクは遠巻きに眺める。彼ら
2022年4月24日 22:20
誰かの脚に絡まって転んだボクは起き上がり、ジンジンと痛む膝にめり込んだ砂を手でこすり取る。その脚の主は大して気に留めた様子もなく、ボクを睨み付けるまでもなく遠ざかって行く。 人々の怒声、肌に感じる湿度、赤い松明の炎。歩を進める度にはためく粗末な服の裾では小さな砂粒が舞っている。蹴られたり揉まれたりしながら、ボクは大人たちの脚の間を縫って走り、隙間から向こう側をのぞいては叫んだ。「母さん!
2022年5月15日 21:21
「なぁ、寄り道してもいいか?」 道が南北に別れる分岐点の手前で唐突にロージャが言う。「寄り道? どこに?」「乳酒が欲しいんだよ」 一応伺いは立てたもののロージャに相方の返事を聞く気はない。当然ダーウィも同意するものと、迷いなく北の道を行く。ダーウィがあからさまに溜息をつくとロージャは自分の三倍はある荷物を持ち直し、ニヤリと笑った。彫りの深い鋭い目元が柔和に和らぐ。「お前、荷物多い
2022年5月26日 18:30
――数時間前。「おいお前、ここの隊長はどこにいる」 シワのない制服をきっちりと着こなした男に突然声を掛けられたアントスはびくりと肩を震わせた。男のすぐ後方に視線を投げると、小馬鹿にしたようなもう一つの視線とかち合う。「う、裏手に。そこの、三番棟の。昨日、配管が壊れたから」 洗濯から戻ってきたばかりで手足ずぶ濡れのままのアントスは不安げにカゴを抱え直し、答えた。まだ泡の残るシャツや
2022年6月20日 19:58
部屋は散らかっていた。デスクに視線を落とし、目に入る、バッテリーの切れかかったタブレット、そしてその上から無造作に積まれた書類。反対の隅には空になって枯れたティーバッグと茶渋だけが残るマグカップがある。床には服が、靴が、鞄が所在無げに置かれ、小瓶の散乱した化粧台と乱雑に本が刺さった本棚は同じに見えた。ギリギリで秩序を保っているその部屋は、彼女の心の内と同じように思えた。朝から部屋着を着替え
2022年3月10日 22:11
暗くて、ジメジメしてて、ぴちょんぴちょんと音が響く。隣を歩いているあっくんは不安そうに時折後ろを振り返る。「ねぇけいちゃん、やっぱり引き返そうよ」「ダメだよ!絶対に未来を見るんだ!」「この目で!」って僕はドラマチックに言ってみせるけど、本当はちょっと怖い。あっくんの手をぎゅっと握るとあっくんも僕の手をぎゅっと握り返す。僕の手も、あっくんの手もたくさん汗をかいちゃってヌルヌルしている
2022年3月8日 21:14
枯れたと思っていた花が咲いていた。デパ地下で何となく買った三色団子が美味しかった。先輩がくれた最新型のシャーペンはなんかかっこいい。姉が喜んでいる。大嫌いな上司が異動するらしい。ぬくい布団でタマとゴロゴロ。アスパラの季節が来たわねぇって、母は上機嫌。僕らの担任、山崎先生、結婚するってよ。卒業式、菜那ちゃんに告白した。春、ポップコーン
2022年3月8日 00:47
1はこちら。「花嫁様、綺麗でしたねぇ。料理人達までその話で持ちきりですよ」ナタリアは鏡の前に座るメイの髪に櫛を通しながらのんびりと言う。宮殿中が花嫁の話で騒がれるのは当然のことと言っても過言ではなかった。今日の今日まで誰も何も花嫁について知らなかったのだ。義兄がそれを許さなかった。そもそも彼が妃を迎えると発表したこと自体あまりに突然の出来事だった。晴天の霹靂とはよく言ったもので、想
2022年3月6日 23:07
空はどこまでも青く、咲き始めた花々は庭園を満たすように瑞々しい香りを漂わせる季節。祭壇の前の花嫁は柔らかい微笑みを浮かべていた。包み込むような優しい日光に照らされた彼女の肌は白く透き通り、艶のある黒髪はその光を纏っている。義兄の花嫁は美しい人だった。白い婚礼服に身を包み、たおやかに佇むその姿はまるで白鳥のようだと人々は感嘆の声を漏らした。しかし同時に、その祝福の声には軽蔑の囁きも混じってい
2022年3月5日 23:38
もう寝ようか。そう思った午前二時過ぎ。妹の部屋の前を通りかかると、まだ電気が付いている。藍月は明かりの漏れるその扉の前で立ち止まり、三十秒ほど考えた。―彼女は明日学校があるのではないだろうか。高校二年生の妹、咲恵は絶望的に寝起きが悪い。平日の朝はいつも「あと三分」の眠りを繰り返し、結果、遅刻スレスレで朝ご飯も食べずに出掛けていく。故に、学校がある平日は、咲恵はさっさと床に就くべきなのだ。こんな