楠木ともり創作コンテスト反省会
芋子「随分時間が経ってしまいましたが、5月に応募した創作コンテスト作品の反省をしていきます」
小野「反省会なのに、なんで作者の当方128さんが居ないんだよ」
芋子「超が付くほどの失敗作だったらしく、あまりのショックで表に出て来られないそうです。なので私たちで応募作品を読んで客観的な意見を出しながら反省していきましょう」
小野「そんな気持ちになるなら小説なんて書かなきゃ良いのに……」
芋子「まずはコンテストのルールから説明します。自身が作詞・作曲も手掛けた声優・楠木ともりさんのソロ楽曲『sketchbook』と『タルヒ』、そして楽曲内に登場する“先生からの手紙”をもとに物語を創作するというものです。書き出しは『拝啓、あなたの見る世界が、どうか光に満ちた温かい世界でありますように――』と指定されています。文字数の制限はありません」
小野「ここまでお題がガチガチに固められているコンテストも珍しいな」
芋子「では早速、当方さんの応募作品を読んでみましょう。『満月と三日月』3819字です」
1.ともりリスペクト
小野「……なるほど。楽曲の世界観をほぼ忠実に守っているし、歌詞はもちろんMV(リリックビデオ)のイラストの細かい要素までふんだんに取り入れたりと、随所に“楠木ともりリスペクト”は感じられる。ただ内容がなあ……致命的な説明不足がいくつかあって、面白いともつまらないとも言えない、それ以前の問題になっている」
芋子「内容の問題は置いておき、まずは“ともりリスペクト”が具体的にどこなのか挙げてみましょうか」
小野「設定は『部屋に閉じこもっている女の子と絵の先生』そのままだし、歌詞は『窓の外にはどんな世界が待って(い)るの?』なんかはそのまま使っている。何より一番リスペクトしているのはMVのイラストかな」
芋子「おお、歌詞よりもMVに目を付けましたか」
小野「特に『sketchbook』に関しては冒頭でいきなり『満月の夜、開けっ放しの窓、揺れるカーテン』とイラストの要素を書きまくっている。加えて、実際冷たいかは不明だけど『冷たい風』、少女の顔は見えないけど『少女の悲しそうな顔』」
芋子「あと、3回目の訪問シーンでの『オフショルのニットワンピから覗かせる肩を』の部分も、このイラストで着ている服から来ていますね」
小野「そして最もMVをリスペクトした箇所と言えば、何と言っても作品タイトルにもなっている『満月と三日月』だね。少女は『sketchbook』では満月を描いているのに、数年後の『タルヒ』のキャンバスに描かれているのは三日月。当方さんはこの違いに着目したわけだ」
2.少女が自分で答えを見つけた理由
芋子「『満月から三日月に至る心境の変化』ですか……ちょっと違和感があるんですよね。『満月のようにキラキラ輝いていなくても良い。どこか欠けていたって良い(=三日月)』という答えに、少女は自力で辿り着いた。そりゃ3年も経てば心境の変化は多少なりともあるでしょうが、背景で何が起きていたか作中では一切説明されていないので、自力で答えを見つけたことに説得力が無いのですよ」
小野「これはね、俺も楠木ともりファンだから何となく分かるんだけど、彼女だったら誰の救いが無くとも自力で立ち直れる強さを持っていると思うんだよね。ともりリスペクトってそういうことでもあると思うんだ」
芋子「知らないですよ!! 楠木さんのバックボーン(しかも推測)を理解しているのが前提の物語なんて、ファンでない人からしたら意味不明ですよ!」
小野「ちなみに、余談だけど『白藍のワンピース』も実はともりリスペクトになっている」
芋子「え、『白藍のワンピース』なんて歌詞にありましたっけ?」
小野「それがあるんだよ。2019年、楠木さんがインディーズ時代に出した曲の中に、カタカナ表記の『スケッチブック』があるんだけど、これはお題の『sketchbook』(2021年)と同じメロディーだけど歌詞が全く異なるんだ。その『スケッチブック』の中にはちゃんと『白藍のワンピース』が歌詞として存在する」
(↑試聴動画。1曲目が『スケッチブック』)
芋子「ホントだ。しかもこっちの歌詞は幾分かのポジティブさを感じますね。『駆け上がる遠くへ』とか『弾けてみたい』とか」
小野「そうなんだよ。そして極めつけはサビのラストの『なにか色を足すならば君の悲しみの補色がいいな』。あくまでも悲しんでいるのは『君』で、この歌詞の一人称は『君』を励ます立場にあると思うんだ。これは当方さんの作品で言うと誰に当たるかな?」
芋子「ああ、絵の先生だ!! だから『白藍のワンピース』を『絵の先生』のほうに着させたのですね! もっと言うと、それはポジティブの象徴でもあるから、最後に少女も着た(と思われる)、そして外を歩いた」
小野「俺はそう解釈したけどね」
3.少女が部屋に閉じこもった理由
芋子「ともりリスペクトはもう十二分に伝わったので、そろそろ最大の問題点“説明不足”について考察しましょうか」
小野「まずは何と言っても『2学期に入ってから不登校になった理由』が不明であることだよね。夏休みの間に何か起きたんだろうけど」
芋子「唯一の友達、市橋さんと何かあったのでしょうか?」
小野「それは違うだろ。市橋さんとは夏休み中、一度も会っていないから」
芋子「となると、ヒントになりそうなのは『大人の階段を昇ろうとして足掻いているような迷い』ですかね……」
小野「3年前の少女は中1だっけ?」
芋子「えーっと……そうですね。中学1年です」
小野「大人の階段って、もしかして……そのままの意味?」
芋子「そのままとは?」
小野「シンプルにロリコン社会人男性と交際していたんじゃないの?」
芋子「あああああああ、そう来ましたか」
小野「恋愛関係にあったのに、夏休み中にフラれた。あえてネガティブに考えればヤリ捨てられた可能性だって無くはない。そのショックから立ち直れず、部屋に閉じこもって学校にも行けなくなってしまった」
芋子「だとすれば先生も市橋さんも知るわけがないし、親にも事情を話しづらいでしょうね。重すぎる……」
4.家庭訪問が3回で終わった理由
小野「2つ目の疑問は、先生の少女宅への家庭訪問が3回で突如打ち切られたことだ」
芋子「うーん……先生が原因では無いと思うのですけどね。付き合っていた社会人男性からまた連絡が来たとかですかね?」
小野「自分でフッたくせに連絡してくるのかよ。未練がましいんだよ」
芋子「いや、さっきから全部私たちの想像ですけどね。どのみち本編で説明してくれないとモヤモヤが晴れないまま終わってしまい、精神的にはとても良くないです」
小野「読後感って超大事だよね。当方さんマジで何てことしてくれたんだよ」
※ちなみにコンテストの大賞作品、優秀賞2作品はこちらのリンクから読むことが出来ます。
5.当方128からお気持ち表明
芋子「最後に、当方さんよりお手紙をお預かりしていますので、僭越ながら読ませていただきます」
小野「今更!? 持っていたなら最初から出せよ」
***
(※BGM『過ぎ去りし永遠の日々』)
前略 小野様、芋子様
この度は作者でありながら『楠木ともり創作コンテスト反省会』を不参加という形になってしまい、誠に申し訳ございません。
せめて、私の今の気持ちをこちらにしたためたく存じます。
4月17日、楠木ともりさんの公式Twitterでこのコンテストの存在を知った時、久々に高揚感と創作意欲が沸きあがったことを今でも覚えています。ともりファンであり、かつ創作小説も齧っている私のためのコンテストだと心より思いました。私にしか書けない、私だからこそ書ける物語がある。そう信じていました。
楽曲を鬼リピしたのはもちろん、リリース当時の楠木さんのインタビュー記事を読みあさり、ファンによる歌詞考察も熟読しました。他の380人の応募者よりも声優・楠木ともりを研究し尽くした自負はあります。
しかし、現実は甘くありませんでした。楠木さんへの強い想いだけでは上手く書けない。どんなお題だろうと、結局のところ創作小説に必要なのは技術と経験値でした。
コンテストは第2回も予定されているそうですが、応募するかは未定です。このショックから立ち直るまで、しばらく創作活動をお休みします。そう言えばエッセイも最近全然書いていませんね。noteは小野さんと芋子さんに頼ってばかりで重ね重ね申し訳ございません。
暑くなってきました。こまめな水分補給を心掛け、窓を開けたまま下着姿で寝ると風邪を引くかもしれないのでくれぐれも気を付けて下さい。
草々
***
芋子「………」
小野「………」
芋子「うーん……当方さん、ちょっと深く考えすぎかもしれませんね」
小野「最近は個人ラジオにもリソースを割いているから仕方ないけど、noteの更新も週2から週1に減りつつある。文章への自信を失っているのか、noteに快楽を見い出せなくなったのかは知らないけど、もっと肩の力を抜いても良いんじゃないかな」
芋子「今回のコンテストも練習だったと思えば……というか、そもそも練習目的で書いたって良いじゃないですか。今のところ創作大賞にも応募する意思は無いそうですが、私は練習のためにもやってみたほうが良いと思います」
小野「それは軽々しく言うなよ。今回は2万字以上(オールカテゴリ部門を除く)だぞ? 4000字未満の『満月と三日月』ですら満足のいく出来になっていないのに」
芋子「だからこそですよ。2万字レベルのコンテストに応募した経験は、今後に活きてくると思いますよ。しかも、第三話で止まっている連続小説『SNS監視委員会』は既に1万7000字を超えています。これを完結させれば2万は余裕で超えるでしょう」
小野「まあ無理しなくて良いと思うけど、よく考えてみてはどうだろうか。次回のラジオで何らかの所信表明を待っているぞ」