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お盆にピラミッド

何かを志すきっかけは、誰しも心に抱く冒険心から始まるものである。

私の場合も例外ではなく、幼少期に見たインディ・ジョーンズがきっかけで考古学者を目指した。世界を股にかけ、古代の謎を解き明かしたいという熱い想いが原動力だった。

ただ、私が夢のためにしたことは少々風変わりだったかもしれない。大学では考古学を専攻し、外国語や古代史を学びながら、夏休みには海外で銃の講習に通ったり、オカルト本に投稿したりと、まあ、普通の学生とは少し違う道を歩んでいた。

そして今は、ITの世界で生きている。古代の謎ではなく、未来の謎を追いかけているのだ。人生はわからないものである。

充実した日々ではあるが、しかし今日は朝から様子が違った。いつも慌ただしく動いている私のパソコンが、まるで時間が静止したかのようにピタリと動かなくなったのだ。ああ、お盆か。お盆…先祖…お墓…ピラミッド…。

そう、私が今考えるべきは、古代エジプトのピラミッドだ。

みなさん、古代エジプト文明は好きですか?


『エジプトのピラミッドは、王の魂が生活するゴージャスな邸宅だった!』

なんて仮説を唱えたらどうだろうか。

まず、古代のエジプト文献には「ピラミッドは王の墓である」という明確な記述が見つかっていない。実に不思議な事実だが、これを踏まえると、当時の人たちはピラミッドを、別の意味を持つ何かであると解釈していた可能性が浮かび上がってくる。

古代エジプト人の立場になって考えてみよう。彼らにとって、死は終わりではなく再生の一部だった。王の遺体はミイラにされ、カ(Ka)という生命力と共に墓に安置される。このカは、王の死後もミイラに宿り続ける。さらに、バ(Ba)というもう一つの魂は、夜になると体を離れ、神々や他の亡者と交流をする。

ここで私の仮説だ。ピラミッドは、単なる埋葬場所ではなく、王の魂が住む住宅だったのではないかということだ。

王の死は、この世からの消滅ではなく新たな人生の一ページだった。こう仮定すると、施設の配置や形状が意味を持つことになる。

・墓室: 王の寝室。
・地下の部屋や通路 : 王の住居。
・副葬品や壁画 : 王の生活必需品。
ピラミッドの形状 : 王の魂が夜に神々の領域に昇り、朝、再び地上に戻ってくる用途を担っている。

そう、エジプトの王たちが荘厳で巨大なピラミッドを建てた理由は、自らの魂が住むための、最高の邸宅を築く目的だったのだ。ピラミッドは、数十年という長い期間と膨大な財力、労働力が投入された一大プロジェクトだった。大量の石灰岩と花崗岩が使用され、その多くが遠方から運ばれてきた。まさに歴史上、最も豪華な注文住宅だ。

さぞ快適なあの世ライフに違いない。


ピラミッド、ある日の一日

紀元前2500年 3月20日

今日も朝から天気が良い。私はファラオ、偉大なる王。ピラミッドの中での生活も、すっかり慣れた。

朝食には、シャブティたちが用意した新鮮な果物やパンが並べられていた。彼らは私の命令を受け、あらゆる仕事を完璧にこなしてくれる。今日は特に、新鮮なナイル川の魚があったことが嬉しかった。生前は家族でよく食べたものだ。元気に暮らしているだろうか。

昼過ぎ、私は「セネト」を楽しむ。これは様々な運命を左右する重要なゲームだ。今日の相手はホルス神だったが、私の戦略が功を奏し、見事に勝利を収めた。神々の加護を得た王が統治する国は、豊作や洪水の適切なタイミングなど、自然の恵みがもたらされる。国民達が安定した生活を享受する為にも、私は負けられない。

夕方が近づくと、私は夜空へと旅立つ準備を始める。エジプト社会では、マアト(秩序や正義)が非常に重要視されている。我が国と国民が、災害や戦争といった混乱を避けるために、私の魂は、ピラミッドを介して天に昇り、神々と出会い交流を深めるのだ。

そして、朝が訪れる。私の魂は地上世界のミイラへと戻り、また新しい一日を迎える。永遠に続くかのようなサイクルの中で、私は王としての務めを果たしている。この金色の荘厳なピラミッドの中、再びこの世に再生する日まで。

Khufu


これがお盆のある日に考えた、私の仮説である。いつか、この仮説を証明するパピルスの巻物が発見される日を楽しみにしている。

しかし、今の私は考古学者ではない。目の前にあるノートパソコンは、相変わらずの沈黙を保っている。仕事がない。古代に思いを馳せるだけでは、お金は入ってこない。ああ、シュールだ。

皆さん、良いお盆をお過ごしください。

じゆうみらいでした。


おしまい。


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