真下の部屋の不審者が訪ねてきた話

仕事を終わらせ、家に帰って飯の準備をしているとインターホンが鳴った。宅配だろうか。ドアを開けたがインターホンの前に人はおらず、怪訝に思いながら片足だけ外に出てドアの正面を覗くとオッサンが立っていた。
オドオドと部屋番号を言い中村と名乗ったオッサンは真下の住民だった。
真下の住民とは床(天井)ごしに何度かやりあったことがあって、例えば俺がアラームを止めずに寝てると天井をガンガンガンガン突いてくる事があった。逆に、床の向こうで何かがぶつかる音、引き戸を勢いよく閉めているのか酒瓶を床に置いてるのか知らないが、そういった音が何度も聞こえてくる事も少なくない。床に横になると、ストレッチかリングフィットか知らないが、その場でジョギングするような速さの足音が聞こえてきた事もあった。そういう日は床を殴った。
どうでもいいがオッサンの郵便受けには「チラシ入れるな」と貼り紙がされている。

そんな因縁の相手で、しかも週末のダラダラで生活リズムが狂い寝不足になっている俺は、かなり愛想の悪い顔でオッサンを見ていただろうと思う。
内心では、今までトラブルに発展するかもしれないと考える事は当然あったし、ついに対峙したのにオッサンがオドオドしている事に驚いていた。
「はあ」
「あの、下の、赤い自転車って、あなたのです…よね?違いますか?」
「いやぁチャリンコ乗らん持ってない」
「あーそうなんですか…えっと、どなたのか…知ってますか?」
「いや知らない知らないwww」
オッサンは手先で小さく廊下の左右を指し、この階の住民の誰が自転車の持ち主か知っているかと聞いてきた。
機嫌が悪く因縁の相手と対峙している俺はタメ口だったし、持ち主を聞かれたときは笑いながら食い気味で返事をしてしまった。
「あっそうですか…それは、申し訳ないと思います…失礼しました…」
オッサンは少し妙な言葉選びで謝罪した。話が終わりだと察すると俺はドアを閉めた。

時間がたってから、このオッサンが明確に不審者である事を知った。

#隣人 #トラブル #不審者


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?