開業を考えたら読みたい!小さく独立開業を目指すあはき師のためのワークブック
鍼灸、マッサージの資格を手にした皆さん、合格おめでとうございます!
長かった3年間が終わり、晴れて国家資格を手にした嬉しさは、ひとしおでしょう。
在学中は基礎医学、臨床医学、あはき実技と多くのことを学んで来られたことと思います。なかには遅刻や欠席のためにギリギリで単位が取れた科目もあるかもしれません。再三の実技試験、再試験にうんざりしたこともあったと思います。けれども、すべてがこれからの血肉となる財産です。
春、4月。すべてはここから始まります。
・新しく職場を探す人
・今の仕事をつづけながら様子を見る人
・とりあえず自分で始める人
でもその前に、ちょっと深呼吸して考えてほしいことがあります。
それは…。
「この道をどうやって歩んでいくの?」
…という大きなテーマです。
この文章を読んでいるあなたには鍼灸マッサージの道に入ろうとした「きっ かけ」があると思います。そのきっかけは何だったでしょうか。
そして3年間の学校生活を送った今、入学前に抱いていたきっかけは輝きを失っていないでしょうか。
Part1 開業、その前に
新しく一歩を踏み出す前に考えてほしいのは、
ということです。
どうして、この3つの投げかけをするかと問われれば、これから仕事をしていく際に、紆余曲折があるかもしれないからです。part1では開業の心構えについて記します。
紆余曲折の具体的な例として、次のことが挙げられます。
・社会構造の変化
・家庭環境の変化
・自分自身の心境の変化
世界情勢が不安定な現代は、3年後、5年後。もしかしたら1年後にはもう社会のあり方は大きく変わっているかもしれません。パンデミックを経験した私たちは、そのことを十分に承知しています。
ヒトは年々、年を取ります。
今はまだ両親が元気でいても、やがては老いていく家族の面倒をみる時が来るでしょう。反対に、これから結婚して家庭を持ち、子どもが生まれる方もいると思います。
このように社会構造と家庭環境は、時が経てば少しずつ変化していきます。そのような状況下で「鍼灸マッサージの仕事をしよう」という熱意をどこまで持ち続けることができるでしょうか。
「仕事を始める」ということは「仕事を続ける」ということです。
3年先、5年先を読めるヒトはどこにもいません。
けれども、最初に志した仕事を全うし「まぁ、いい生き方ができたな」と思えれば及第点ではないでしょうか。人生、100点を取る必要はありません。
自分自身が仕事を通じて納得できる生き方をするためにも、いま一度立ち止まってください。入学前に志したことを思い出し、3年間の学校生活で得た知識と経験をどうやって仕事に活かしていくか。
10分でも15分でもいいので、次のワークに取り組んでください。
新しく一歩を踏み出すこのタイミングで、ぜひ考えてみましょう。
ワーク・その1は、3つとも書けたでしょうか。
恥ずかしければほかの人に見せる必要はありません。今はそっと自分の心のなかにしまっておいてください。そして、環境が変化したときに取り出して、静かに眺めてください。
さて、もう一つ。
具体的な開業のことを知る前にやっておきたいことがあります。
それは「今の気持ちを大切な人に伝える」です。
「ちょっと開業したいんだけど」
「自分で仕事を始めたいんだ」
どんな言葉でも構いません。
友人、家族、身近な人に話してみてください。
そして、自分の気持ちを伝えた相手は何というでしょうか?
きっと、その相手はあなたの気持ちをある程度、知っているはずです。
その人は、あなたが開業することを応援しているでしょうか。
それとも、あなたが開業することに反対しているでしょうか。
ここがポイントです。
開業に際して協力を得られるのか、または何か課題があるのかをハッキリしておくことは、とても重要です。大切な人は、あなたのことを客観的に見ています。もし課題があるとしたら、それはどんなことなのか具体的にしておきましょう。
ここまでは、開業に際しての心構えについて書いてきました。
最後にもう一つ。
「先立つものはお金です」
身も蓋もないことを言いますが、その通りです。
・開業資金はありますか
・運転資金は月々、いくら必要ですか
・生活費は何か月分の貯金がありますか
ここを外してしまうと、即ゲームオーバーです。
標高の高い山に登るには、相当の準備とトレーニングが必要です。
まずは小さく始めるのであれば、どのような形が考えられるでしょうか?
免許を取得したあとにたどる道筋を、フローチャートにしています。
開業までのフローチャート
よく、仕事を通じて「自己実現をする」と言われます。
もちろんその中には、仕事をしている私も、仕事をしていない時間を過ごしている私もいます。ワーク・ライフバランスという言葉も聞いたことがあるでしょう。
具体的な開業手続きを知る前に、やっておきたいことがもう一つあります。それは、あなたにとって「成功した姿」はどのようなあり方でしょうか。ここをしっかり決めておかないと、行先を決めないまま旅に出るようなものです。
・見たいのは、どんな景色ですか
・そこには、誰が一緒にいますか
・成功した状態では、あなたはどんな気分を味わっていますか
このことをより具体的に、できれば数字も交えて記しておきましょう。
今はまだぼんやりとしか思い描けない時は、半年先の姿でも構いません。
あなたにとって成功した姿は、どのような状況でしょうか。
そして、あなたが成功したことを最も喜んでくれるのは誰でしょうか。
Part 2 開業はじめの一歩
3年間の努力が実を結んで国家資格を手にしたあなたは「いつかは開業したい!」と思うでしょう。それでしたら、善は急げ!
今のうちから準備をしておくことが、なりたい自分になるためのはじめの一歩です。part2では開業前に準備しておくことを記します。
まずは就職します、という道もアリです。
なぜかと言えば、施術の経験を積むため。高校を卒業してすぐに専門学校に入学したのであれば、マナーを身につけ、社会はどういうふうに動いているかを知るためです。
【開業までのフローチャート】のどの順をたどるのか、今の気持ちで構いませんので大筋を決めておきましょう。そしてその道筋を、一年に一度は見直してみてください。
【開業のすすめ】
はり、きゅう、あん摩マッサージの資格を手にしたあなたは、それが小さな治療院であれ大手の訪問マッサージ会社であれ、資本主義経済の中にいることを忘れてはなりません。資本主義経済を言い換えると、雇用する側と雇用される側に立場が分かれるということです。
あはきの業界で多くみられる雇用形態は業務委託(歩合制)です。
訪問マッサージの例を挙げると、患者さんからいただく金額(売上)の50%が支払われるところが多く見られます。
考え方としては、施術者が「時間と技術」を提供する一方で、雇用者は「集客と回収」を担っていると考えて差し支えありません。そして、開業するということは雇用者が行っている集客と回収も自分の責任で行う、ということにほかなりません。
「自分の腕を試したい」という気持ちだけでは通用しないのは、とくに集客がうまくいくかどうか、という要素が大きいからにほかなりません。
開業を志すにあたって、準備しておくこと、決めておくことを記します。
続いて、それぞれの項目について詳しく見ていきましょう!!
保険の適用(訪問鍼灸・マッサージ)については、Part3でお伝えします。
1)開業の形態
開業を志す場合、多くの方が店舗を借りて施術を行うことを想定していると思います。それでは、店舗を借りて施術を行うのにかかる経費はどれくらいか試算してみましょう
2)開業の場所
開業と開業後の運転資金を抑えるには、自宅の一室で開業するか、またはレンタルサロンを借りるという方法もあります。それぞれにメリット、デメリットがありますのでまとめておきます。
自宅の一室
メリット)
・固定費を抑えられる
・すぐに移動できる
デメリット)
・仕事とプライベートがあいまい
・家族の目がある
・広さが限られる
・だらだらと仕事してしまう
レンタルサロン
メリット)
・固定費を抑えられる
・仕事とプライベートを分けられる
デメリット)
・予約が必要
・借りるのはタイミング次第
・お気に入りサロンの有無
・時間が制限される
・備品の有無に左右される
・お灸を使えないことが多い
※レンタルサロンを借りる場合は保健所に出張業務届を提出します。
【知っておきたい届出事項】
3)集客方法
いくら腕がよくても、顧客がいないところに仕事は生まれません。
集客したことがなかったり、集客に苦手意識があるなら、なおさら肝を据えて取り組むべき課題です。反対に普段から親戚付き合い、同業以外の友達付き合いがある場合は、可能な限り多くの人に味方になってもらいましょう。
具体的にすべきことは
・興味を持ってもらうこと
・一度、受けてもらうこと
この2つに尽きます。
ここはいわゆる「コンテンツ」に当たる部分です。
ここがしっかりしていないと、箸にも棒にも引っ掛かりません。ここで再び問われるのは【ワーク3】で記した内容です。
それでは次に、これらを踏まえて具体的な手段を紹介します。
【短期的集客】
・ポスティング
いわゆるチラシをまく、という方法で、短期的集客の王道です。ただし、一般的に言われるのは1,000枚配布して3人来ればいいほうです。この場合、反応率は0.3%となります。
・Google広告
Googleの検索エンジンを使ったネット上の広告です。
Google検索で「地域 業種」と検索すると上のほうに広告が出てきます。
まだ名前が知られていないスタート時の状況では、Google広告を使うのもひとつの方法です。その際のポイントは2つ。
・検索でヒットさせたいキーワードを複数決めること
・広告を出す地域を決めること
・予約サイトに登録する
具体的には、エキテン、ヒットペッパービューティーなどの予約サイトに登録します。多くの人が検索するため早い段階で一定の集客が見込めます。
例を挙げると、ホットペッパービューティーはサイト経由の予約1件について数百円の手数料かかります。
なお、次のような弊害もあります。
①予約サイトに登録すると、営業電話がガンガンかかってくる
②某サイトでは、なんとサクラが予約してくることがあるらしい
【長期的集客】
・ホームページ
ホームページはネットが普及した現代では名刺代わりの役割を持ちます。
チラシや名刺にQRコードをつけてアクセスしてもらい、治療院のことを知ってもらいます。
作成方法は、①プロに任せる、②知り合いに依頼する、③自分で作成する、のいずれかになります。
・SNS
せっかく作ったホームページも、見てもらわないことには集客につながりません。すでにSNSをやっている人は、発信する頻度を増やしましょう。
その際のポイントは、発信するアカウントは一つにしておくこととビジネスライクに徹することです。また、SNSとあなたの相性もありますでどれを選ぶかも重要なポイントです。
・口コミ
ネット上の口コミは「最強」です。Google検索で治療院を探すときに、ほとんどの人は口コミの星の数を参考にするからです。そして、投稿されている口コミを読んで電話をかけてきます。
店舗を構えるのであれば、必ずGoogleマイビジネスに登録しておきましょう。また、エキテンを利用することもおすすめです。
Part 3 訪問やりますか?
専門学校の授業では、訪問マッサージについて講義、実技を行っているところはわずかですが、健康保険を使って在宅療養している高齢者に施術ができるのは、あはき師の特権です。
訪問マッサージに関わるにあたって、ひとつ注意点があります。
現時点(2022年1月)では、あはき師の資格を取得後、1年間は施術管理者のいる治療院等で働き、実績を積むことが義務付けられています。そのため、個人で訪問マッサージを開業できるのは卒業後2年目以降になります。
このパートでは、訪問マッサージの仕組みと手続き、書類作成および実際の施術について説明します。順を追って見ていきましょう。
【訪問業務の流れ】
【登録手続き】
個人で訪問マッサージを行う場合の手続きについて記します。
スタート時点で必要なのは、次の3つです。
1)保健所に登録する
治療院登録するのであれば、屋号を決めておきます。
個人で出張するのであれば、自分の名前で登録します。
2)受領委任払いの登録
関東信越厚生局に届出が必要です。
また、2021年からは事前に講習会に参加する必要があります。
3)賠償保険に加入する
鍼灸師会等の業界団体に入っていれば、賠償保険も加入しています。
保証される金額について確認しておきましょう。業界団体に加盟していないのであれば、個人で賠償保険に加入しましょう。
【集客・無料体験】
登録手続きが済んだら、次に行うのは集客です。
訪問マッサージの利用者は9割以上がケアマネからの紹介です。訪問範囲の居宅を中心に開業したことをお知らせしましょう。その際に有効なのは三つ折りパンフレットです。
また、ほとんどの事業者が初回は無料で体験施術を行い、利用者の反応を確かめます。体験時には、同意書を取得できる前提で希望の訪問回数と曜日、時間帯を確認します。無料体験の進め方や利用者情報の聞き取り方によってケアマネからの信頼感も大きく変わります。
【同意書取得】
継続して施術を受けたい!と話がまとまったら、利用者に同意書を取得してもらいます。同意書はかかりつけの医療機関に受診して、医師に書いてもらいましょう。同意書取得の対象となる症状、疾患についても確認しておきます。
【施術開始】
利用者の特徴を踏まえたうえで、施術を行います。
訪問マッサージの対象者は、介護度Ⅲ以上で介護保険を利用している高齢者です。ケアマネからアセスメントシートを入手して、事前に利用者の身体状況を把握できれば、訪問前の準備は万端です。
【疾患別・施術上のポイント】
(脳血管障害)
Br.stのステージによって大きく3つの施術パターンに分かれます。
(パーキンソン病)
ヤールのステージによって施術内容が変わってきます。
症状が進むと薬を服用する頻度も増えてきます。1日のうち、いつ薬を飲んでいるか確認しましょう。利用者によってはウェアリング・オフ現象が顕著に見られます。薬の効き目が切れてくると身体が硬くなりますので、薬の効いている時間帯に施術することが勧められます。
【レセプト作成・提出】
利用者の人数が少ないうちは、後期高齢であれば個人でレセプト請求をすることも可能です。
会社の健康保険組合によっては、個人でのレセプト請求は認めない会社もあるため、請求代行を利用することになります。業界団体、または民間企業でレセプト請求を請け負っているところもあります。
【報告書作成】
利用者が施術の継続を希望する場合、再同意の際に報告書を作成することが勧められます。これは、同意書を発行する医師と利用者を担当するケアマネへの報告を兼ねています。報告書を作成した場合、作成料として460円をレセプト請求することができます。
(報告書作成のポイント)
所定の書式に必要事項を記入します。
・施術の目的と施術内容
・同意書取得時(または前回報告時)に比べての変化
・最近1カ月間の変化
参考)訪問マッサージにおける基礎知識と実技講座(刹那塾・オンライン)
Part 4 気になる確定申告
開業して一定の収入を得られるようになったら、年に1回の確定申告をおこなう必要があります。税金を納めるのは国民の義務です。私たちが納めた税金によって公共施設が運営され、社会の治安が保たれています。
【確定申告とは】
確定申告とは、税務署に前年の収入を申告することを言います。
前年の収入に基づいて、その人自身が支払う税金が確定されます。
該当期間は1月1日〜12月31日まで。
この間の収入について翌年の2月16日~3月15日までに申告します。
(お金の流れと会計の考え方)
自分で商売を始めた場合のお金の扱いについては、最初は誰もが素人です。
ここでは、初めて会計を扱う際に混乱しやすい用語と考え方についてまとめます。
現金は「すぐには使えないまとまったお金」
小口現金は「すぐに使える手元にあるお金」という意味です。
個人事業主では、現金と小口現金を分けないでひとつで済ませてもOKです。
(私の場合、小口現金という扱いにして出納帳に記帳しています)
収入の枠には、①個人事業の売上と②業務委託で得た給与の2つがあります。いずれも銀行口座に入金しますので、事業用の銀行口座を開きます。
①の売上は毎週、または週末にまとめて入金します。②の給与は振込先を事業用の口座にしておきましょう。この場合、勘定科目は事業主借とします。
支払いは、①クレジットカード払い、②銀行引き落とし、③現金で支払いの3つの選択肢になります。クレジットカードも事業専用のものを1枚用意して、プライベートと分けましょう。
①はおもに、Amazonなどネット通販の支払い
②はおもに、家賃、水道光熱費の支払い
③事務用品、備品など近くの店舗で購入する消耗品
※10万円以上の備品を購入したら、工具器具備品として減価償却します。
【毎日または毎週行っておくこと】
日々の細かい支出はそのままにしておくと、何を買ったか忘れがちです。
その都度、現金出納帳に記帳したり会計ソフトに入力するのは面倒ですので、とりあえず領収書を一か月分ずつまとめておきましょう。
【毎月行っておくこと】
毎月の収入と支出の会計業務は、個人事業主の成績表を作成することに相当します。
※保険適用で施術を行う場合には、レセプト作成・請求の業務も月末〜月初にかけて行います。
(会計ソフトについて)
確定申告を行う際には、すべてを書面で行うこともできます。
ただし、初めての方にとっては計算がとても煩雑に感じることでしょう。いずれ仕事を大きくしていきたい、または確定申告の手間を省きたいという方は、会計ソフトを導入することをお勧めします。
手軽に始められるのは freee という無料の会計ソフトです。弥生会計というソフトも税理士さんがよく使っています。
【いざ、確定申告】
確定申告は、2月16日~3月15日までに行います。
毎年1月中旬に、管轄の税務署から確定申告のための書類が送られてきます。書類に基づいて必要な資料を用意して、期日までに提出します。
※確定申告が煩雑に感じる場合は、税理士に相談してみましょう。
おわりに
ここまで4つに分けて、最初の一歩を踏み出すための考え方と準備することについてまとめてきました。
開業してひとり治療院で仕事をやって行くには、困った時に話を聞ける相談相手と、個人事業主としての考え方やメンタルの強さが必要になります。メンタルの強さは言い換えると、楽観的な思考とも言えます。
開業準備の相談会を行いました
このテキスト「小さく独立開業を目指すあはき師のためのワークブック」をベースとして次の一歩を踏み出す相談会を行いました。
文字情報のみでは伝えきれないリアルな実話や、保健所登録をする前に気をつけておきたいこと、訪問鍼灸マッサージの具体的なやり方についてお話させていただきました。(2021年3月開催済み)
★相談会のゴール
・現在の状態を理解して提供できる価値を明らかにします
・開業に向けて、これから準備していくことを絞り込みます
・開業後の目指したい姿をワンフレーズにまとめます
実技をブラッシュアップしたい方に
あい治療院では、定期的または不定期に講座を開催しています。
基礎の振り返りを中心として臨床でも使える技術を身につけてスキルアップしませんか。
よい仲間や師匠とともに、開業の一歩を踏み出してください!
あなたの施術者人生を応援しています。