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メルキド出版『伊藤計劃トリビュート』感想(Pさん)

 様々な文脈を持つ人達が、伊藤計劃とその作品の名の下に集まって寄稿しているトリビュート誌。
 その中で特に感銘を受けた作品の感想を以下に書きます。

 メルキド出版主宰の松原新夜氏による「フランクリン・プロジェクト(前)」。
 たった数ページの創作にもかかわらず、めまぐるしく視点、というかテキストと書き手との距離感が歪む、いい作品だった。
「イトウ」「フランクリン」、そして「関山誠一」……固有名がいびつなバランスをもって、徐々に「光り出す」という印象を受けた。レインツリー。「さかさまに立つ「雨の木」(レインツリー)」にて、何重にも錯綜したフィクションの最奥部で、なぜか「大工」、さんずいを足して「大江」、自分の姿を見た(『大江健三郎自選短篇』422)という佐々木中の講義を思い出した。まだ小説にやれることはある。

 鷸井湍輝氏による「From Yapooful Archipelago, With Love.」。
 僕にはなぜ名作扱いになっているのかずっと首をひねっていた、「家畜人ヤプー」の、こんな読み換えが可能だとは。SFの伝統自体への読みが深いと感じた。伊藤計劃に沼正三という、この重ね合わせだけでも驚くのに、人工的歴史生成という巨大な道具立て、それらが、やはり十数ページにまとめられている。やっぱり、「読み込み」だけではダメで、「読み換え」を力強くする人が、真に創造的になれるのだろう。超おもしろカッコいいとはこういうもののことだ。

 通販でも取り扱っているようなので、興味のある方は是非。


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