エンゲージのためのファン、組織、KPI〜さとなおリレー塾第三期4回目〜

基本の3回が終わり、4回目は廣田周作さんの講義でした。

テーマは「ファンベースとエンゲージ」

事前に著書も読み、事例はもちろんのこと、オペレーションやチーム作りに関しても聞ければ、と期待して講義に臨みました。

今回からは「基本講義」ではなく、第一線で活躍する人の「応用の話」をどう吸収できるかを考えていきます。なので、今までのように講義の説明に終始することなく、自分の感想も交えて構成していこうと思います。

あと、事例で紹介された個別企業名は出さないようにします。


廣田さんのキャリア

ざくっとまとめると、以下のようなキャリアを歩まれている方でした。

大学院でアリの研究→NHKで制作→大学院に戻る→再度新卒で電通入社→メディアマーケティングという分野でデータ分析→ツイッターにハマる→ツイッターが社外から認められ始める→ソーシャル起点でプロジェクト化しはじめる→分析だけでなく、その結果を元に、戦略やクリエイティブの仕事が増える→コミュニケーションプランナーになる→社内外さまざまなプロジェクトで活躍(今ココ)

ソーシャル起点で注目され始めたので、いまでも問い合わせ段階では「Facebookのファン数を増やして」などという形が多いそうです。

ただ、話を伺っていく中で最終的にはソーシャルメディアにとどまらない、組織を巻き込んだプロジェクトに関わるようになってきているとのことでした。

講義では廣田さんの関わった様々な事例を紹介していただきましたが、その中で僕は以下の3つの一貫する姿勢を感じました。


1.相手(ファン)が誰かを一緒に考える

さまざまなプロジェクトを経験されている中でも、一貫してクライアントと一緒に「本当の相手は誰か」ということを考える姿勢を感じられました。

たとえば、

-薬というものは、患者だけではなく、医者も重要なファンとして捉えないといけないのではないか

-ローカルテレビ制作の本当の相手は、視聴率ではなく、地域の人と、社内のメンバーなのではないか

-スマホ対応のサイトを作る必要性の背景には、「スマホファースト」になった生活者の変化があるはずではないか

-ファンにとって感情が生じている瞬間は一瞬ではないか。そのときリアルタイムにアプローチできないか。

-変革の時こそ、社員をファンにしないといけないのではないか

などなど、はじめのオーダーに囚われずに、「本当の相手は誰か」ということを突き詰められていました。


2.プロジェクトに合う体制を作る

また、相手が決まり、新しいプロジェクトの方向性が決まった後は、そのプロジェクトを推進するための体制作りに取り組まれています。

新しいプロジェクトの組織的な位置付けや役割に合わせて、部署横断的なチームを提案し、それに合わせて自分の立ち位置も決めてプロジェクトにコミットされています。

-テレビ製作と地域の人の間で関わる人達をプロジェクトに巻き込む

-生活者の生活の変化に合わせて、コンテンツ制作の体制(チーム、制作頻度、方針など)を作りなおす

-ソーシャルの部署は必要としている人達の中心に配置する

-協力者のスキル習熟度に合わせて、それぞれがスキルに合わせた貢献ができる仕組みを作る

など、新しい形のプロジェクトでは、従来と同じチームではなく、新しいプロジェクトにあったチームを再構築すべきなのは、納得がいきます。確かに、従来と同じチームで新しいプロジェクトをしても、従来の形に引っ張られてしまう気がします。


3.KPIを開発する

また、相手とチームを新しく考えるだけではなくて、今までにないプロジェクトに合わせてKPIも開発しているのも印象的でした。

Facebookのプロジェクトに関しても、Like数などをKPIに置くのではなく、「打ち合わせで笑った数」を設定し、チーム全体が目的に迎えるような工夫をされています。

現場のセンスを大事にされている会社のプロジェクトでは、データで計測する重要性も説いたそうです。データだけでは相手の本当の気持ちは分からないし、センスだけでは本当に行動したのかわからない。うまく組み合わせるところを見つけて、プロジェクトを推進されています。

KPIに関しては、プロジェクト自体だけではなく、社内を通すためのKPIも考えておられます。社内説得のために、何をKPIにするか。「売上」や「利益」以外で、「将来への投資」という漠然としたものではない、組織を納得させられる工夫もされているようです。


第4回の事例から見られた共通点

このように、廣田さんは新しいプロジェクトの(社内を含めた)相手、チーム体制、KPI設定の3点に関してそれぞれ最適なものを見つけ出して、従来にはない取り組みを現実的な形に落とし込まれてきた方なのだと感じました。

講義中、ソーシャルやスマホ、人事制度、オウンドメディア、モノづくりなど、キャッチーなさまざまなキーワードも見られましたが、それらの手段に関しては柔軟に考えられているからこそ、結果的に色々な手段を取られているのだと思います。

ただ、この辺りは廣田さん自身が講義中に明言していた訳ではないので、あの方にとっては「コミュニケーションをプランするときに、意識せずとも押さえておくべき基本」のようなものなのかもしれません。


一方で、廣田さんが大事だと明言していたこと

一方で、廣田さんがプランニングするときに「大事にしている」と実際に言っていたことも書いておきたいと思います。

「ヴュ ジャ デ」:「デジャヴュ」の逆。つまり、見慣れているもののはずなのに、よく見ると新しいもの、のこと。これを見つけることが重要だとおっしゃっていました。逆に、「新しいはずなのに、どこかでみたことある」というデジャヴュのプランはよくある悪いプランニングとのこと。

「自社が提案するなら自社も」:電通報やcotasなど、オウンドメディアを提案するなら自社も運用していないと、という問題意識があったようです。

「イノベーションは探求とエンゲージメントから生まれる」:いつもいる場所の外に出て「探求」し、組織内に持ち帰って「エンゲージメント」をすることで、イノベーションが生まれる。「ソーシャル物理学-「良いアイデアはいかに広がるか」の新しい科学-」(アレックス・ペントランド)からの引用で、この考えに感銘を受けて行動されているそうです。

きっとこれらは「プランする側」が意識することとして、あとあと見返すことになりそうです。


「ファンベースとエンゲージ」にとって重要な3つの要素

最後に、今回の「ファンベースとエンゲージ」という講義テーマへの回答として、以下の3つを紹介されていました。

・主役が「広告」から「コミュニケーション」へ

・生活者主導のコミュニケーションに、リアルタイムを求められている

・「伝える」ありきではなく、「つながり」をデザインすることが大事

これは、今回紹介された事例のような解決法とは別に、プランの前提となる環境の変化として多くのプランナーが抑えておくべき要素なのだと思います。


では、自分がプランニングのために自分が身に付けるべきこととは

講義の内容を聞いて、「では自分は同じ時代で自分がプランするために、何を身につけるべきなのか?」という疑問が生まれました。

広告やプロモーションの基本を押さえることは大事ですし、自分の専門性を磨き続けることは必要です。

ただ、新しい取り組みを行う際には、プロジェクトのアイデアだけでなく、プロジェクトに合うチームをうまく組織することと、オペレーションの仕組みを作ること、そしてチームの一員としてやり切ることまで考え切らないといけないのだと思いました。

そうなると、「会社内の人間がどのようなことに対して動くのか」「どのように合意を取り付ければよいのか」というような、組織論、組織心理やウェットな交渉のスキルも先回りして身につけることが、新規プロジェクトを成功させるための肝になるのではないでしょうか。


第5回を迎えるにあたって

さて、次回の第5回は須田和博さんの講義です。

著書の「使ってもらえる広告」では、第2回で解説された時代の変遷を簡潔に紹介されていました。

かなり乱暴に言えば、「お茶の間」というひとつのタグしかなかったのだ。だから、「お茶の間タグ」という一集合に受け入れられる「ひとつの表現」をつくりつづければ、それでこと足りた。
しかし、いまは違う。同じ年齢層であっても、興味のあるものが人それぞれにバラバラ。ひとくくりの集団を前提として生み出された表現は届きにくい。
(中略)だったら、と趣味や嗜好でまともに絞り込んでいくと、今度はごく少数の人たちにしか働きかけられなくなる。
それゆえ、コミュニケーションを企てる側は、そうではない"道"を模索すべきなのだ。ユーザーが所有する個々のタグがいかなるものであろうと、それを乗り越えてコンタクトできるような方法を。それが「使ってもらえる」というアプローチだ。「使ってもらえる広告 「見てもらえない時代」の効くコミュニケーション」(須田和博)p.090

2010年の本なので、その後に「最古×最新=新しい、普遍。」という公式を生み出したり、「使ってもらえることの限界」を廣田さんと東さんとのイベントで指摘されたり、本の記載とは違う、新しい考えも見つけられているでしょう。

次回は2010年から変化している「新しさ」や「使ってもらえること」に関しての考えが聞けることを期待して、今日も講義に臨みたいと思います。


・第4回の参考文献

「SHARED VISION」(廣田 周作)

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